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攻城のルキ  作者: いのしげ
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石山にて②


 新免迩助はその巨体に似合わず、俊敏に林の中を器用に駆け抜けていく。

 対してこちらは元より他人事であるのだから、いまいち気勢が上がらない。

 あれよという間に迩助は、ゴマ粒よりも小さくとなり、やがては夕暮れ闇の中に溶けてしまった。

 ハァハァと自分の息切れがもどかしいのか、澪の為にここまでやる必要があるのか……なにより、そんな自分の事を棚に上げて、金が絡まないと動こうとしないルキに対してか、急に色々腹立たしくなりつい声を荒げて叫んでいた。

 「くっそ~! 隠れてないで出てこい~!」

 すると、「アレ…バレちゃいました? すいやせ~ん」と、何とも気の抜けた返事が返ってくるではないか。但し迩助の声ではなく、若い女の声だ。

 「……お前は誰だ?」 

 「いやいやぁ~、お恥ずかしい。甲賀の忍びともあろう者がこうも簡単に見破られるとは……」

 とか言い訳しながら顕われたのは、柿渋の野良着の様な忍び装束?に身を包んだ女であった。

 顔を下半分隠しているが、切れ長の瞳から察するに美人の様だ。

 年も若しかしたら思ったよりも若いのかもしれない……が、どことなくだが…しぐさが何となく…雑に感じる。

 「テヘッ」とか言いながら舌を出してる素振りをしてるし。

 そうこうしているうちに、「オレ」の叫び声を聞きつけたルキ以外の皆がワラワラと集まってきた。どうも皆、迩助を取り逃したらしい。

 「あらららら。皆さんお揃いで~」

 独り、場違いに朗らかなこの忍びの者を胡散臭そうに見ながら澪が詰問する。 

 「こっちが揃ったという事を知っているという事は……こなた、元より我等が狙いか」

 「アッ、いっけねえ~又、口が滑っちゃった……あやややや、澪さん、そんな刀なんて抜いちゃって、物騒っすわ~」

 澪が刀を抜いたのを見ても雑な物言いが治らない。

 「いいから、何者で何が目的なのか言うんだよ!」

 「へぇへぇ、そんな怒りっこ無しでお願いしやすよ、折角の信乃さんの美貌が台無しってね」

 鼻息荒かった信乃が、ハトが豆鉄砲食ったような顔をして黙り込む。

 「アッシは甲賀五十三家の一つ、加納家のいすかというケチな野郎でさぁ」

 そう言いながら覆面を外した鶍の顔立ちは案の定、涼しやかな顔立ちである。そして思っているよりも美人だったのでドギマギしてしまう。

 皆が呆けているうちに、鶍がなんだかベラベラと止めども無く語りだした。

 「まあ、甲賀っつう所は平地も無く、タマにあったとしても粘土質で石高なんざ望めやしない痩せた土地ですヮ。なのに人ばっかりワチャワチャこさえるから争ってばかり。人減らしで行商なんかしてる内に情報が集まりだして、それらを大名なんかに切り売りしてる内に滝川ンとこのカズマッさんが尾州に仕官してエラク出世しちゃったもんだから、じゃあウチもってェんで、みーんな忍びに転職しちまったんでさ~」

 たまらず、虎が訊ねる。

 「で、ソレって話が長くなるんかにゃ?」

 「いえいえ、もうすぐでさ。…そいたらね、今度は人手不足になっちゃって、女・子供でも目端の利きそうなのは猫も杓子も忍びにしちまえってんで、乱暴な話で、アッシもこうして俄かに仕立てられちまったんでさぁ。しかしね、どうも性格なんすかね、薄っぺらい感じが抜けきれなくてね~……」

 うんうん、ココに関しては実に頷ける。見れば皆も同様に頷いてるし。

 「で、まあ今日にでも行けば仕事でもあるかなって思って行ったらね、さる女性からアンタ等を見張って逐一報告して欲しいという…簡単な割にはオイシイ仕事を頂きやして……いや…いやいや誰とは流石にそりゃぁ言えませんよ! ま、まあ…特別に手掛かりを教えるとしたら……悪七さんと同郷の人です…い-やー! もーこれ以上言ーえなーいー!」

 ……十分誰かは分かってしまった。

 雛か!

 ともあれ元気にやっている様で、何よりだ。きっと付かず離れず、また何か企んでいるのだろう。 「じゃあ、その“さる女性”に伝えておいてくれよ。『オレ等はこれから堺に行き、船で備州へ向かう』と」

 機転を利かせて嘘の情報を流そうとしたつもりだったのだが、途端にゲスイ笑みを浮かべる鶍。

 「あ~…ダメダメ。だって、この道筋から今日の泊りが大坂おざかだとモロ分かりだもん。幾らアッシだって一応は、ホラ…アレだし。そんくらいは分かるっすよぉ~」

 どうでもイイが、コイツの話し方は妙にねちっこくて…一々気に障る。しかし、口調は於いておいても、流石に忍び。バカなのかキレモノなのか今一歩把握しきれない。

 …そういえば、ウチ等側にも、いかにもなクセモノが一人居たなあ。

 「お前、イスカと言ったニャ? ウチのルキ姐さんに吟味してもらうから待ってるにゃ」

 虎も同じことを考えた様で、ルキがどこに居るのかキョロキョロ皆で辺りを見渡し始める。

 クソッ、ルキめ…肝心な時にはいつも居ないなあ。

 不意に気配が消えたので、ハッと今まで鶍が居た方を見ると、既に鶍の姿が見えなくなっていた。全員の視線が外れた一瞬の隙である。感心してしまった。

 木々のざわめきと共に、どこからともなく鶍の声が聞こえてきた。

 「ハハハ、悪七くん、また会おう~!」と言い残して。



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