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攻城のルキ  作者: いのしげ
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石山にて①


 運命とは、どう足掻いても巡り会えない事や辿り着かない事が多々あり、だからこそ人はそれを運命と呼ぶ。

 しかし、全く逆にいきなり大当たりする事もある。


 澪の場合がそうだった。

 

 京師から本願寺に向かうため、街道を下って茨木の人気の無い林に差し掛かった時だった。

 「オレ」等の後ろを小走りで駆け抜ける男を見た瞬間、澪が急に駆け出したのだ。

 「ハァハァ……まったく…いきなり駈け出してどうしたんだよ、澪?」

 まるで興味を示さないルキに牛の次郎丸を預け、慌てて皆で追いかける。やっと追いつくと、澪が男の前で通せん坊をして行く途を塞いでいた。

 今までに見た事の無い、殺気立つ瞳を容赦なくその男に向ける澪。

 「卒爾そつじながら、お手前の名前をお伺いしたい」

 そう言った澪の先には編笠を深く被った、熊の様な巨漢が居た。髭も茫々で正にクマの如し…である。そいつがガラガラ声で返答した。

 「ウム…拙者、播州浪人新免迩助と申すが?」

 ギラリと澪の目が光った気がした。

 「…やはり! オノレ六年前の槙島城での戦いにて、将軍方として打ち出でて、蜂屋先鋒方のお手前に討ち取られた朽木刑部の娘、澪である。父の仇、いざや尋常に勝負勝負!」

 「コレは異なことを申す。確かに朽木刑部殿とは戦場で相まみえた間柄ではあるが、いくさ場では相身互い、討った討たれたの遺恨を残さないのが世の常ではないか」

 オトコの諭す様な声色を、駄々っ子の様に遮る澪。

 「しゃっ! お前に父を討ち取られてから後にて兄も討死をし、我が家の衰運甚だしいのも、元を糺せば、総てお前が悪い!」

 「それはいかにも気の毒であるが……ただの八つ当たりではないのか?」

 あくまでヤヤ子をあやす様な新免迩助の態度に、顔も真っ赤に上気した澪が喚いた。

 「う、うるさい! ゴチャゴチャぬかすな勝負勝負!」

 どうにもこっちが気恥ずかしくなってきたので、助け舟のつもりでツッコんでみる。

 「……あのさ澪。傍で聞いていたけどやっぱり澪の言っている事には無理があるんじゃない?」

 「うるさい、お前はどっちの味方なんだ?」

 こちらの説得の様なツッコミが、失敗したのを見届けた新免迩助が仕方なさそうに呟いた。

 「うーむ、そこまで申すのならお相手致すが……気乗りせんなぁ……」

 そう言いつつ編み笠を取り払った新免迩助の瞳は、意外にも優しげな黒目勝ちで、円らだった。

 「当方は何でも構わぬぞ、得物はなんじゃ?」

 「で、あるから…ホレ、もう、こうして構えておる」

 泰然自若と半身になった新免迩助の左腕の先には、先ほど脱いだ編み笠が。

 「くぬお~、小娘と思って侮ったか!」

 えいやぁ!

 澪が腰の刀をハラリと抜き放ちつつ、牽制で一閃。間合いを取ったのか、僅かに後退りした新免迩助を追って一気に間合いを詰める。青眼から大上段に構えたかと思うと、そのまま渾身の力を込めて切り落とした。

 しかし新免迩助は涼しい顔でヒラリと躱して、バシリと編み笠で澪の顔を打つ。

 不意を突かれてよろけるも体制を立て直し、再度斬り込もうという澪の顔元へ、絶妙の機で編み笠が飛んできた。

 一瞬視界を奪われワタワタとおたついた隙に、するりと刀を奪われてしまった。更に当身が一発、急所に入った。

 「気負い過ぎじゃ。肩に力が入りすぎて、どこを攻撃しようというのが丸分かりになっておるぞ」

 「な…ん……」

 「確かに太刀筋は悪くない…が、いかんせん非力に過ぎる。もっと軽いモノに得物を変えてはどうじゃ? ワシのお勧めは十手じゃがな」

 まるで謂い振りが仇相手と云うよりも先生といった風である。

 「くっ、オノレ卑怯な手を弄しおって……!」

 いやいやいやいやと、只、事の成り行きを見守るだけだった「オレ」等が一斉に頭を振った。

 「いやあ澪、見てたけど至極真っ当だったョ?」

 「うっ、うるさい! さっきからお前達はどっちの味方なんだ!」

 緊迫した空気が和らいだのを、敏に悟った迩助が笠を素早く被り直した。

 「ま、とにかくこのままでは勝機も見えぬから、顔を洗って出直すが良い」

 「ま……待て! どこへ行くつもりだ?」

 「拙者はこれから所要あってイシ……いや、モゴモゴ……と、とにかく御免」

 なにやら分かり易い誤魔化し方でモニョモニョ言うと、体躯に似合わず俊敏な動きであっという間に姿を消してしまった。天を仰げばもう夕刻、逢魔が時。林の中は意外に闇が深い。

 「くそぉ、ここであったが百年目、逃してなるものか!」

 遅れてやって来て、荷車の上で事の成り行きを面白そうに観ていたルキが、むっくりと起き上がる。

 「ムヒョヒョヒョ、澪チンもう終わりかい? もちっと粘ってくれないと木戸銭取れないよ~」

 「イイからルキ、アイツを追うんだ!」

 途端に目の色が変わるルキ。

 「……タダで?」

 怒ったら負けだと流石に理解している澪が、歯ぎしりしながら怒りを噛み殺す。

 「…分かった、じゃあ仇討が成った暁にはこの髪を売るから!」

 女のぬばたまの様な綺麗で長い髪は、良い値段で売れるのだ。

 「よっしゃ、ちゃんと後で証文書くんだよ~?」

 しかし、澪は刀に髪と、どんどんルキに持って行かれてしまう気がするなあ……悪い賭博ののめり込み方を見た気がした。

 

 …そして結局なんだかんだで、皆で追いかける事となった。全くなんだってんだ。「オレ」は未だ昨日の酒がちょっと残ってるんだぞ。


最近忙しい事が多く、滞ってしまいましたが、再開です。

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