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攻城のルキ  作者: いのしげ
13/52

京師にて⑧


 「…だからそこで『オレ』は言ってやったのさ。『ダンザエモンよ、戦いってのは空しいモノだろ』……ってさ」

 「ウホーッ! 悪七さんはやっぱ違うッスにゃ。“漢”と書いて“オトコ”だにゃあ!」

 戦の終了後、「オレ」達は石川党の打ち上げ会に招かれた。

 始める前の取り決め通り、これまで通り。

 白河衆は北の八坂神社を縄張りとし、清水辺りは石川党が存続出来る事となった。並べて世はことも無し。

 そう云った事でダンザエモンを(※結果的に)倒した「オレ」は格別に厚遇を得、尚且つ酒も勧められるままにジャンジャカ呑まされてしまった。

 初めは謙虚にしていたつもりであったが、次第にドンドン気が大きくなってきて話を盛り出していく。聴き手の虎がまた一々ヨイショするから、こっちも話が膨らんでしまう。

 「…でさ、澪が泣きつくんだ『この危機を救えるのは悪七さんだけです』…ってな!」

 「ムギギギ……黙っていれば言いたい放題!」

 顔を真っ赤にした澪が立ち上がりかけるのをルキが鷹揚に肩を押さえて止める。

 「まあ…抑えろや澪。今日くらいは奴に花を持たせてやろうじゃないか」

 「それで、いつあの新兵器“悪七手裏剣”を思いつくんですニャ? 素晴らしい!」

 「まあね、ルキが思ったより役に立たなくてさぁ。仕方なく『オレ』がガラに無く頑張っちゃった…て訳」

 「ムカーッ! こなくそーッ調子に乗りやがってぇぇぇ!」

 今度はルキが顔を真っ赤にして立ち上がろうとするのを、ニヤニヤ嗤う澪が押し留める。

 「おいおいルキ殿。今、花持たせてやろうって言ってなかったかね?」

 「く、くっそおぉぉぉ!」

 「フッ……“歴史は夜作られる”ってか」

 そう言って、鼻で笑いつつ椀の酒を呑みほした信乃が独りごちた。

 「……しかしヒナの奴、どこ行っちまったんだろうね……?」

 そう…戦の後、白河衆の宿を探してもモヌケの殻で既にどこかへ去ってしまったようなのだ。

 これについてはダンザエモンも詳しくは知らず、ただ「そういえばナンバへ行くような事を言っていた…かな?」というあいまいな返事しか返ってこなかった。

 因みにダンザエモンはおとこらしく、これまで以上に両方共に五分と五分の付き合いを約束してくれた。これで一度も遭った事は無いが、石川党の頭目で虎の兄、ゴエモンの面目も立つことだろう。

 そんなことを考えている間にも「オレ」の杯は進んで話は弾んでいき、“あるき巫女”達の面白可笑しい踊りや、長老達が語る、とっておきの殿上社会での下世話な話で盛り上がっていったのであった。



 「いててて……頭が割れるように痛いョ……どうして昨日、皆『オレ』が呑み過ぎるのを止めてくれなかったんだよぉ」

 「さぁてねぇ…何でだろうねぇ? 昨日の自分に訊いてみれヴぁ?」

 ルキが思いつく限りの顔の筋肉を総動員して、ブサイク面をこっちに向けた。

 「まこと、我々は“悪七様とその御一行”であるからな。止める理由もござらん」

 澪まで白々しい。

 「ん? 何言ってるのさ…それよりルキ、これからどこに向かおうとしてるんだい?」

 「五月蠅い、奈良漬け野郎! コッチに息を吐きかけんない…オメエの吐く息で酔っちまいそうだ」

 全員にソッポを向かれてしまったので、場を取り持つ為と、虎が代わりに説明してくれる。

 「まあまあアネサン達……我等はこれから城攻めの秘密兵器の設計図を手に入れるために、石山へと向かうのですニャ」

 虎はどうやらお礼とばかりに、わざわざ大坂まで見送りに来てくれるらしい。

 「石山、ソレって……」

 本願寺門徒衆の総本山にして、第六天魔王に九年以上立ち向かう、最後の砦。

 そしてくだんの有岡城が頼るのも、ココ石山本願寺なのである。いわば、ある意味では我々の敵方の城。果たしてノコノコそんな所に出向いて大丈夫なのか。

 …まあ、今の自分にとってはそんな事よりもこの二日酔いを何とかする方がよっぽど深刻な話だ。

 「オエップ……ちょっと待ってよ……」

 「悪七の“あ”の字は“アホッツラ”の、あ~♪」

 信乃が陽気にヒドイ歌詞の歌を歌っている。

 「ううう……ヒドイよ、なんなのさ、皆~……」

 すると、前を走っていた全員がクルリと振り返って叫ぶのであった。

 「ヒドイのはお前だ!」

 横で見ていた虎がとどめの一言。

 「悪七兄さんは酒で失敗するにゃあ」

 

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