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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
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紅に舞う者 1

久々の魔界だった。その静謐な空気を胸一杯に吸い込む。メロー達が返してくれた地獄の馬も元気で、フレイアとも仲が良さそうにしていた。今は、水面から何故か顔を出したヒポカンポスとフレイアと皆で戯れている。

「此処の空気が、そんなに気に入ったか?」

ブイオが声を掛けてきた。頷く。

「まあな。Sunの喧騒の中で吸う空気よりは、何倍も」

「よく言うな。今までずっとその中で暮らして来たのに」

「細かい事さ。気にすんなよ」

無造作にポケットに突っ込んだ手が、硬い物に触れる。そうだ、揚魅に貰った石の事をすっかり忘れていた。

取り出し、ブイオに見せる。ブイオはその石を受け取り、手の中に握った。その目が大きく見開かれる。かなり驚いているらしい。

「ビー玉位の大きさか。でもって、水が中で流れてる感覚がある。可能性としては十分に」

そこでブイオは言葉を切り、何か思い付いたという様な表情で來の顔を見た。

「沙流に持たしてみるか?」

沙流は万生やフィアンマと話していた。

楽しそうな所申し訳ないが、首根っこを掴んで強制的に来て頂く。

「何だよ…人が折角」

物凄い不満そうだ。両手を大袈裟に振って押し留める。

「分かりました!心底、重々反省しております!」

沙流は口を尖らせながらも何とか黙ってくれた。ブイオが青い石を差し出す。

「持ってみてくれ」

「持ったらどうなるんだ」

「分からない。ただ、この石がナチュラルストーンである可能性がある」

「なるほどな」

沙流に巻き付いていた蛇が、ブイオの手から石を取り、沙流の手に乗せる。沙流はその石を握った。

眩い光に一瞬、目が眩んだ。気が付くとブイオも目を抑えており、沙流は、掌を不思議そうに見つめている。

「石が…無い」

來とブイオも顔を寄せ合う様にして沙流の掌を覗き込んだ。落ちているのではないかと地面も見渡した。しかし、石は見つからない。一体どこに消えたんだ?

「ああ、これじゃないか?」

ブイオが指差した先には、確かにその石があった。でも…

―何故、氏族の石の中にあるんだ?―

「うわ、本当だ。にしても、どうやって入ったんだ、これ」

氏族の石に繋ぎ目はなかった。どんな仕掛けがあるのか、來にも分からない。ブイオも頭を掻いていた。

「一つだけ、確かな事がある」

ブイオが僅かに首を傾げて言った。

「その石がナチュラルストーン…いや、ウォーターストーンだという事だ」

沙流はしばらく石を眺めていたが、にやりと笑うと、いきなり指を鳴らした。直後、來とブイオの背後の地面から水が柱となって吹き上がる。

「沙流!いい加減にしろ!」

頭から水を被ったブイオが叫んだ。声が発せられる度、その頭から水滴が飛び散る。來もびしょ濡れだ。

「良いじゃないか。どうせ乾くし。…いや、ちょっとどんなもんかと思ってさ」

ブイオの視線に射すくめられたかの様に、沙流が後ずさる。ブイオは舌打ちすると、頭を振って水滴を飛ばした。そして、來の頭を乱暴に掴み、揺さぶる。水滴はかなり飛び散ったが、頭がくらくらした。別に、濡れたままでも良かったのに…。

「風邪ひくぞ」

ブイオは心配してくれたらしい。

…にしても、乱暴だな。

「何、この寒いのに水遊び?」

フィアンマと万生が来た。

「したくてした訳じゃない」

ブイオがそっぽを向く。しかし、その目が笑っていたのを來は見逃さなかった。その視線に応えるかの様に沙流が再び指を鳴らす。

案の定、万生とフィアンマは水を頭からかぶる事になった。

「もうっ!これだから男は!」

フィアンマが頬を膨らませる。

「あー、差別」

万生が口を挟んだ。

「あたしのは区別だから良いのよ」

胸を張るフィアンマ。

…どっちも同じ意味だと、僕は思うんだが。

「さてと、遊びは終わりにして…そろそろ行こうか」

ブイオが馬を連れてきた。一見罪の意識がない様に見える。妙に明るい口調からして、しらばっくれているだけかもしれないが。

「行こうって、どこに?」

万生が訊いた。ブイオが大袈裟に肩を竦める。

「おいおい、この旅の目的を忘れた訳じゃないだろうな」

ああ、そうだった。この旅の目的は、氏族の石と氏族、そしてナチュラルストーンを探す事。揚魅の件で後回しになっていた、フラムフエゴに戻らなければ。万生も、今思い出したのか、ポンと手を打つ。

「池の方にはまだヒポカンポスが居たぞ。皆好きな馬に乗って行ったらどうだ」

ブイオが池の方を指し示す。

「ヒポカンポス!?やった、おれ乗ってく」

いち早く、沙流が池の方に走って行った。

「あたしはこの子達が好きだから」

フィアンマがフレイアに乗ってその後を追う。

「あっ、おれも」

万生もフレイアに乗って駆けて行った。

「あんたは、どうする」

ブイオが訊く。

「乗り慣れた方が良いかな」

「だよな」

その言葉に答えるかの様に白い馬が鼻を摺り寄せて来た。撫でてやると、嬉しそうに目を細める。

ブイオは黒い馬を既に走らせていた。慌てて後を追う。置いて行かれる訳にはいかない。


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