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DEATHEARTH  作者: 奇逆 白刃
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32/93

再会と別れ…再び 4

外はもう夜だった。時が経つのはこんなにも速い物だと、改めて実感する。

「來、おれはもう帰るから」

揚魅が、背を向けた。

「待てよ。もう少し位良いじゃないか」

「いや、早く親に会いたいし、服も欲しいし」

振り向かず揚魅が言う。そのまま何歩か歩いたが、何かを思い出したのか、來の所に掛け戻ってきた。ポケットに手を入れ、何かを取り出す。

「これ、やるよ。おまえ達の旅に役立つかもしれないし、な?」

手渡されたのは青い石だった。冷たくて、水の様な雰囲気を感じる。胸の奥で何かが疼いた。

「じゃあなっ!」

揚魅が手を振り、走って行く。呼び止める間も無く、その姿は家に帰る雑踏の中に紛れて見えなくなった。

キキッ。

振り返ると、グアンが居た。紗蘭の所から今、飛んで来たらしい。グアンを肩に乗せ、撫でてやった。

何か、もやもやした気持ちを抱えたままフレイアに乗り、待っていたブイオ達の所へ急ぐ。一行は、会話も無く静かに歩き出した。

「來、あんたに一つ、言っておきたい事がある」

いつの間にか、先頭に居たブイオが下がって来ていた。

「何だよ、改まって」

ブイオが横に並んだ。二人は今最後尾に居る。前を行く沙流まではかなりの距離があるから、声は届いていないだろう。

「あんたが愛している物って何だ?」

「愛している物って?」

「何でも良い。人でも、物でも」

考えた事無かった。そう言われれば、ある様な、無い様な…。

「無い…かな」

考えた末に出た結論だった。しかしブイオは、首を振る。

「それは無い。皆、生まれてから死ぬまで愛する物は絶対に持っているんだ。例えば、赤ん坊なら母親だし、歳を取れば孫や、配偶者、近隣住民とかだな」

そりゃ、そうかもしれないが…そう言われても、僕には思いつく物が無い。

「まあ、良いか。気付かない事だってある」

ブイオは横を向き、來と視線を合わせた。紅い瞳に射すくめられる。

「そして人は…俺とかもだけど、愛する物を守る為には命を投げ出すし、どこまでも残酷になれる」

「それが何なんだ」

「揚魅は何を、いや、誰を守りたかったんだろうな?」

その呟きは僕にではなく、遥か遠い何かに向かって言っている様だった。

揚魅は、何の躊躇も無く人を殺した。

それは、沙流を殴って気を失わせた男達に怒りを感じたからか?

それとも、撃たれかけた僕を守る為か?

分からない。考えてなかった。ブイオが來に視線を戻す。

「もう一つ、訊いて良いか」

「構わないけど」

「あの時、あんたは何を守りたかったんだ?」

あの時…それは、僕が怒りに我を忘れ、慕う者を殺した時。

「ずっと理解できなかった。あんたが怒りに我を忘れ、俺に切りかかって来たのは、何を守る為だったんだ?その後、あんたが泣く程慕っていた相手を殺したのは俺を守る為か?じゃあ何で、あの時俺を殺そうとしたんだ?」

答えられなかった。

あの時は、悪魔が怨めしかった。でも、その悪魔を助ける為に、命を一つ、奪った。事実だ。でもそれが、自分でも理解できない。

―僕が守りたいもの、愛しているものって何なんだ―

「つまり俺が言いたかったのは、あんたに自分の命を守って欲しいって事なんだ」

「命を守るって、どういう事だよ?」

ブイオは目を閉じ、大きく息を吸った。無理かもしれないけど、と前置きをして続ける。

「これから、あんたの愛する物、守りたい物が危険に見舞われる事があるかもしれない。でも、それを守りたいが為に、人を殺さないでほしい。命を投げ出さないでほしい。一つの物を、そこまでして守る理由がどこにある?」

ブイオはそこで言葉を切った。言うのを躊躇うかの様に視線を泳がせ、もう一度、大きく息を吸う。

「俺は、あんたが死ぬのを、罪悪感に苛まれるのを、見たくない」

珍しい。ブイオがそんな事を言うなんて…思わず、ブイオの伏せた視線を覗き込んだ。ブイオが顔を上げ、來の眼を見る。今度は強靭な、願いのこもった視線だった。

「殺人は、生き延びる為だけにやれ。命を投げ出すのは、世界を救う為だけにしろ。良いな」

ブイオが視線を前に戻す。遠くを見つめる様に少し上を向いたその横顔は頑強で、これ以上声を掛ける事が何故か躊躇われた。

気が付くと、大穴の前まで来ていた。人間界を、もう一度振り返る。思っていた通り、空には満月が冷たく輝いていた。

―僕は再び帰って来る。揚魅の所に、母さんの所に、そして、歌恋の所に―



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