第26話:石灰の白と、乾いた皮膚
第2章:巨大ピラミッドと算術の呪い
第一部:巨石の影と、歪む目盛り
都市の空気が白く濁っていた。それは雲の白さではなく、大地の内臓を破砕して生み出された石灰岩の粉塵によるものだった。太陽光がその微粒子に乱反射し、逃げ場のない熱となって人々の頭上に降り注ぐ。汗をかいた皮膚に粉塵が付着し、乾くと、まるで干からびたトカゲの鱗のような白い膜を形成した。爪の隙間、目の一角、そして喉の奥深くまで、都市のすべての人間が、この「第一の山」を組み上げるための白い塵をその身に引き受けていた。
クニッチ・パカルは、神殿の石段を一段ずつ踏みしめながら、地上へと降りていた。手には、乾いた漆を混ぜて練り上げた漆黒のインクを湛えた粘土の器と、新たな点と棒を刻み込むためのアマテの樹皮を携えている。彼の足元を、石灰岩の鋭い破片が埋め尽くしていた。歩くたびに「ジャリ、ジャリ」と乾いた金属的な音が響き、それは神殿の最上階まで絶え間なく鳴り響く建築の地鳴りと不気味に共鳴していた。
彼が向かっているのは、石の切り出し場から神殿の広場へと続く、白土で舗装された大通りだった。そこでは、大勢の男たちが、直径三十センチメートルを超える丸太を並べたローラーの上に、一塊で数トンはあろうかという巨石を乗せ、太い蔦の縄を何本も引いて移動させていた。
「引け!星の目盛りが変わる前に、この十個の塊を山の麓へ運ぶのだ!」
浅黒い肌を剥き出しにし、腰布一枚を纏った職人頭の男が、声をからして叫んでいた。男の喉は、石灰の塵を吸い込みすぎたせいでひどく涸れており、その声はまるで乾いた木を擦り合わせるかのように軋んでいた。
縄を引く男たちの背中には、ジャガーの爪で引っ掻いたような、あるいは蔦の擦れ跡のような、無数の赤い線が浮かび上がっていた。滴り落ちた汗が石灰の粉と混ざり合い、彼らの肉体の上に白い泥の筋を描いている。彼らの目は、恐怖ではなく、奇妙なほど張り詰めた義務感に満ちていた。誰もが口の中で、初代クシから伝わる「生命を繋ぐための歌」の断片を、呪文のように呟いている。
――我らは泥から生まれ、数を以て生を買い取る。
――石の山は天への梯子、次の雨を導くための盾。
そのとき、クニッチの目の前で、一つの不穏な破裂音が響いた。
――パツン、と。
巨石を牽引していた最も太い蔦の縄が、限界を超えた摩擦によって引き千切れたのだ。繊維が激しく弾け飛び、その反動で数人の男たちが白い地面の上を派手に転がった。バランスを失った巨大な石灰岩のブロックは、丸太のローラーから滑り落ち、凄まじい質量をもって傾いた。
「危ない! 退け、手を離せ!」
叫び声が錯綜したが、人間の肉体が数トンの石に抗えるはずもなかった。鈍い地鳴りとともに石が地面にめり込み、その直下にいた若い農夫の左足が、無残にも押し潰された。
「あああああっ! 痛い、痛い、痛いっ!」
引き裂かれたような絶叫が、石灰の塵が舞う広場に響き渡る。周囲の男たちが一瞬、恐怖に顔を強張らせて動きを止めた。生々しい肉の潰れる音と、にわかには信じがたいほどの量の鮮血が、白い石灰の地面に急速に広がっていく。
「レク! しっかりしろ!」
職人頭の男が、我を忘れたような足取りで駆け寄った。男の顔は恐怖と動揺で激しく歪んでいた。彼は叫び声をあげる若い農夫――レクの肩を荒々しく掴み、自らの腰布を引き千切ると、噴き出す血を止めようと太ももの付け根を猛烈な力で縛り上げた。
「息を吸え、レク! 死ぬな! 目を開けろ!」
職人頭の声は、怒りとも祈りともつかぬ叫びとなって震えていた。
「お前の家には、まだ生まれたばかりの赤ん坊がいるだろうが! ここで死んでたまるか!」
職人頭の声は、怒りとも祈りともつかぬ叫びとなって震えていた。目の前で仲間が死に瀕しているという冷厳な事実を前に、彼はただ必死だった。その呼びかけに、押し潰されたレクの顔は苦痛の汗と白い粉塵でグチャグチャに汚れたまま、泥まみれの手で職人頭の腕に激しく縋り付いた。ガチガチと歯を鳴らして震え、言葉にならない声を漏らす。そこにあるのは、崇高な覚悟などではなく、突如として理不尽に肉体を破壊された人間の、剥き出しの恐怖と激痛だけだった。
クニッチはその光景を、息を詰めて見つめていた。神殿の上で、老神官マホクヌームと共にアマテの樹皮に「点と棒」を書き連ねていたとき、それはただの静かな数字の並びに見えていた。しかし、地上に降りて目にしたものは違った。一族が書き継いできた写本の重み、都市が要求する石の山の正体は、このようにして生身の人間が肉を引き裂かれ、骨を砕かれ、必死に生の境界線にしがみつく苦悶の集積だったのである。
周囲の農夫たちは、怯えながらも、互いの顔を見合わせ、やがて再び千切れていない縄へと手を伸ばし始めた。彼らの表情には、悲壮な諦念と、それでもなお進まなければ全員が飢え死にするという、逃げ場のない現実への服従が張り付いていた。レクの流した血が、白い石灰岩の粉を吸ってドス黒い塊へと変わっていくのを、彼らは言葉なく見つめていた。
「パカル様、早くこの者を裏の呪医のところへ!」
職人頭が、血に染まった手でクニッチを仰ぎ見ながら叫んだ。その目は、この過酷な労働の場を管理する神官一族に、せめて目の前の尊い命を救ってくれと懇願しているようだった。
「……すぐに運べ。私が道をあける」
クニッチは声を絞り出した。彼の手にあるアマテの樹皮は、驚くほど軽かった。だが、その白い表面に、今この目の前で流された血の重さを、どのようにして一筋の墨汁へと落とし込めばよいというのか。クニッチは自らの右手が、石灰の熱気とは異なる冷たい汗で濡れ、微かに震えているのを自覚していた。
若き農夫が数人に抱えられ、苦悶の呻きを残しながら神殿の裏へと運ばれていく。その後ろ姿を見送りながら、クニッチは再び動き出した巨石の地鳴りを聞いた。
――ズ、ン。――ズ、ン。
男たちが再び縄を引き、石が動き出す。レクの血が染みた白い地面が、次のローラーによって無慈悲に踏み潰され、引きずられていく。クニッチは、自らがこれから書き継がねばならない写本の行く末に、底知れぬ暗い奈落が広がっているような予感を覚え、強く奥歯を噛み締めた。




