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一番近くにある日常  作者: 友城にい
六月編
9/19

第六話 サバゲー畑に飛び込んだ 後編

「よ~姫夏、四十分ぶりだな!」


 莉乃は目をあわせるやいなや、イスに座っているヒメに久しくしゃべりかける。


「やっと戻ってきましたか。心配しましたのよ、トランシーバーにも応答しませんし」

「あ~すまん。相手のアジトを探ってる最中だったし、わかったら教えるつもりだったんだぜ」

「まっ、そういうことにしときましょうか。で、収穫はありましたの?」

「ないな、全っ然わからん!」


 莉乃がきっぱり断言する。


「そうでしょうね、冬葉は賢いですし」


 そういや、僕も冬葉を見てないな。


「でもまったく無駄ってわけでもないだろ、少なくとも調べたところではないことはわかってるからな」

「では今から調べていないエリアを探索しましょう。ではさっそくですけど出発しますわよ」


 ヒメが僕のほうを見て、告げる。


「…………うん」

「どうしましたヨル? なにかありましたか?」


 莉乃と同じようにヒメも僕のことを心配している。

 その問いに莉乃が答える。


「なんかさっきから夜夏がおかしいんだ、理由も言わねーし」

「そうなんですの?」


 気分を悪くしてしまう前に立ち上がる。


「な、なんでもない! さっ! 早くいこうぜ!」


 この対応に二人は浮かない顔をしていたが出発した。




 アジトを出て、僕が最初来た道を逆に歩く。

 そう南雲ちゃんに追いつめられた場所だ。


「ここからは慎重に行きましょうか」


 ヒメが指示を出し、とりあえず頷く。

 ヒメを先頭に僕は一番後ろをついていく。

 すると――

 足を違和感を覚えた。


「ぐあっ」

「どうした夜夏!」

「あ、足が……なにかに」


 莉乃に足を見せる。


「なにやってんだ、今引っ張ってやる!」


 トラップにかかり、足が土に埋まってしまった。

 ヒメと莉乃に引っ張られてどうにか抜けたが、僕はこれで我慢の限界に達した。


「ここらへんは冬葉や南雲がおそらくトラップをたくさん仕掛けてあると思います。ですから――」


 ヒメが丁寧に注意を促す。

 でもそんな言葉、今の僕の耳には入らなかった。

 もう辞めたい、逃げ出したい、楽しくない、面白くない。疲れた。ダルい。

 なんの意味もない、せめて一般的な水鉄砲の水のかけあいをしたい……。

 想いを爆発する。

 隠してやりすごすつもりでいた。

 だからせめて当たり障りのない言葉でレベルを下げるつもりで口にした。


「なー……」

「なんです、ヨル?」

「なー……遊び中の遊びなんだし、ムキになってやることはないんだろ? だからさ……もっと、気楽にやらない? ほら、肩の力を抜いてさ……」


 暑さのせいにしたい自分で自分がクソ……いや、ゲロ以下の臭いがプンプンする……。なにを言ってんのか、自分でさえ理解不能だった。

 ヒメは無言になってしまった。


「なんだよ! じゃーなんだ! 夜夏は今までも――」


 ヒメが莉乃を止めた。


「私たちはこのまままっすぐ行きます。あの……無理、しなくていいのよ」


 それだけを言い残して二人は先に行く。僕が最後に聞こえたのは莉乃の舌打ちだった。

 横にあった大木に背中を預け、座り、頭を水筒で冷やす。

 改めて見上げるが、空はやはり草で覆われて見えない。

 バカだな……僕は……。

 時計を覗きこみと五時だった。

 辺りを見渡す。時間のせいかさっきより、かなり薄暗い。


 思い返してみる。

 最初は南雲ちゃんの豹変ぶり驚いた。そんなピンチに黒髪に戻したヒメに助けられ、いつもと違うアジトにまた驚いた。

 莉乃を捜しに行って、また南雲ちゃんに遭遇してしまって、二度目のバトルに勃発して、莉乃がターザンのように僕を連れ去って…………って結構楽しんでるな僕……。


 思いだしたらなんだか笑えてきた。そっか……楽しいにハードルなんてないんだな……。

 きっと、みんなはこの遊びを子供っぽいとか幼稚だとか、否定して自分が大人だ! だとか。

 楽しいことはきっと笑顔になる。子供っぽくたって好きなものを好きだと認める勇気なんだな。


 ……………………。

 そっと目をつむり、深呼吸をする。

 落ちついた時にタイミングをあわせるかのようにトランシーバーが鳴る。


「うん?」


 肩のポケットから取り出し、画面を見ると『姫夏』と表示されていた。


「緊急か?」


 いやな予感とかはしないが、側面のボタンを押し、耳に当てる。


「なにか用ですか?」


 一人だというのに声は響かず、ただ風に吹かれた草のかさつく音しかしない。

 数秒間、待つ。でもヒメからの応答はなく、聞こえてくるのは誰かの足音とここと同じように草のかさつく音だけだった。

 変だと思い、もう一度呼びかけるが返事はない。

 しばらくそのまま聞いているとヒメの叫び声と莉乃の怒鳴る声がした。

 推測するにトランシーバーを落として、その弾みにスイッチがONのまま維持されてるらしい。


 またしばらくトランシーバーに耳を預けていると、相手は豹変モードの南雲ちゃんとの2対1のバトルが勃発していた。

 罵声を浴びせ、煽り文句を飛ばしていた。

 それに対抗するように普段は罵声を言いあう二人も浴びせるが、なぜだが押されているようにも感じた。

 強気なヒメこと姫夏。正義感が強い莉乃。そんな二人が今は一緒に協力している。


 ヘンなもんだな、と思う。

 三人の争う場所とトランシーバーのある場所は遠いらしく、大きな声でしか聞き取れず、よく状況がわからない。

 べつに僕のいないところでの戦いの争いで……今のこの二人なら問題が全然ないわけで……僕がいなかろうとこのゲームは成立しているわけなんだし、ここから今から猛ダッシュで向かったところで役立たずで、足を引っ張ってしまうことが確実なわけで…………だから…………。


『……くそ……ヨルさえ……いれば』脱力している僕の耳に入ってくる。

『こんな場面なんかコーヒーをすすっているあいだに打破するでしょうに』

とても近くからヒメの声が聞こえた。


 トランシーバーのある付近を横切っただけなのか、その時にONにされていた応答も途切れてしまい、なにも聞こえなくなった。

 耳からトランシーバーを放す。

 ついでに時間を見ると五時十二分。

 スクッと立ち上がる。そのままグッと背筋を伸ばす。

 なんだかすべて吹っ切れた気分になる。十分前の自分より遥かに気分がいい。

 今なら……違う……これからどんなことにも全力でやれる気がした。


「……よし!」


 だからヒメと莉乃が行ったほうに全力疾走し、夕方にも関わらず蒸し暑いジャングルで精一杯に、汗が目に染みるのも気にしない。

 そんな暇なんかない、ただただひたすら走る。

 もう逃げない。遊びだから手を抜くなんて失礼極まりないマネなんてしている身でもないクセに「自分は大人」とか負けた時の言いわけで、自分を誤魔化しているだった。


 ヒメに引っ張られている時の僕は大好きだ。みんなと雑談している時は幸せだと感じている。

 行き当たりばったりでジャングルを駆け抜けた。何分経ったとかどれぐらい走ったとか、今は関係ない。

 頭の中にずっとずっとあるのは、二人と合流して一緒に戦いたい、協力して勝利をわかちあいたい気持ちだけだ。

 ひたすら足を上げ、踏み下ろし、草をかきわけ、目を凝らして進んでいく。

 僕より背のある草を抜けると一つの広場にたどり着いた。


「こ、ここは……」


 バトルフィールドみたいになっていて、ここだけは普段の庭の人工芝になっていた。

 すると、


「南雲……ここでリタイアしてもらうぞ!」

「それは莉乃……貴様のほうだ!」


 聞き覚えのある声が聞こえる。


「ヨル……」


 立ちつくしている僕に誰かが話しかけてくる。

 横に振り向く。


「ヒメ、その……」

「来てくれましたのね、信じてましたわ」

「えっ、あーうん、その……戦いたくなってな」

「そうなんですか」


 ヒメがはにかむ。


「それよりトランシーバー落としてるだろ?」


 それを聞いたヒメが「それならここに……あれ? ありません……」と腰回りを手探りで触り、ないことに今気づいたようで。

「なにか知ってますの」と続く。

 返事に困ったが包み隠さず話すと、ヒメは


「そうなんですか、まーいいですわ、それより手始めに南雲をリタイアさせますわよ」

「あーそのつもりで来たんだ。絶対勝ちたい」

「そうですわね。では、この勝負に終止符をうちますわよ!」


 ヒメの顔が凛々しくなり、風も空気を読んで、ヒメの綺麗な黒髪をなびかせた。


「おう!」




 莉乃に応戦するように加わり、3対1となり、断然有利にことが進むように思えた。そう錯覚もしていた。

 負ける気なんかさらさらなかった。南雲ちゃんを三人で囲む。


「南雲。これで終わりだ! 観念しろや!」


 莉乃が南雲ちゃんを挑発する。それに対して、


「ふふふ……なに言ってんだ? バカじゃねえの? そんなんでオレを止めてるとでも思ってんならお門違いよ」


 なにを言ってんだ? と考えるのもつかの間でしかなかった。

 こんな状況でも豹変をやめず、ましては逆にこっちが圧迫されている気さえする。

 初めて出くわした時に感じた、ヘビに睨まれたカエルみたいな鋭い目つきに変わる。

 だが、今回は一人ではない三人いるんだ。

 左に莉乃、右にヒメ。こんなに心強い仲間がいる(南雲ちゃんも仲間だが)。


「一気に決めますわよ!」


 ヒメのかけ声と共に南雲ちゃんに突っ込み水鉄砲を乱射する。


「二人とも! 当てずっぽうに打っても水が無駄になるだけですわ! ここはしっかり狙って打ちますわよ!」


 ヒメが南雲ちゃんの向こう側から助言してくれる。

 焦りを隠して、冷静を装ってどうにかしっかりと狙いを定めて、こっちに振り替えさせるように仕向けるためにハッタリをかける。


「しまった!? 水が……」


 聞こえたのか驚いたのかはわからないのが、こちらに顔を向けた。


「覚悟しろ! 南雲ちゃん!!!」


 トリガーを引き、水弾が一直線に描き、南雲ちゃんのヘルメットに飛んでいく。


「ふん……かかったのは貴様のほうだあああ!」


 放たれた水弾より速く、上にジャンプして避け、そのままあの時のように僕に突っ込んできた。


「三度目の正直――オレの勝ち……だあああああああああ!」


 恐ろしい身体能力で南雲ちゃんは空中で水鉄砲のトリガーを引く。

 僕はその動作を目で追うことしかできなかった。

 テキパキとした動きに感動を覚えたから、いや南雲ちゃんだったからかな。

 だが、このゲームにピリオドを打ったのは僕じゃなかった。

 今僕の前に立ちすくんでいる人。

 トリガー引く手前に僕を庇うかのように両手を広げ、前に立った。

 そう――リタイアになったのはヒメだった。

 結果、水の魔物はヒメの頭部を襲った。


「ヒ…………ヒメ…………」

「き、姫夏!」


 命拾いをした僕と向こう側で叫ぶ莉乃。


「ちっ……余計な邪魔しやがって」


 舌打ちをかまし、再び僕に水鉄砲を向ける。

 すると莉乃が、


「南雲…………タイマンをしよう……」

「うん? そうだな、いいぜ」


 莉乃の挑戦を受ける。


「夜夏、そこで待ってろ、逃げんなよ」


 南雲ちゃんは綺麗な顔つきでガンを飛ばしたあと、莉乃のところに行く。


「ヨル……この戦いを……ヨル……あなたの手で終わらせなさい……」

「ヒメ……うん……わかった」


 水鉄砲を強く握り、動く。



「さあ、さっさとやろうぜ」

「そんなに急かすなよ南雲、じゃカウントするぜ」


 三……二……

 背中を見せあい、ゆっくりと歩きながら数える。

 ……一……

 刹那。


「もらった莉乃!」

「ふふふ……南雲……お前の、負けだ……」

「な……に……」


 南雲ちゃんの水弾は莉乃の頭部を濡らし、勝利した。だが、


「四度目の正直だ!」


 莉乃の小さな背中から僕は放つ。

 狙いは外さず、南雲ちゃんの頭部を捕らえた。


「ふっ……やるな……。…………南雲~疲れました~」


 どうやら、崩壊した。結果は引き分けにさせた。


「ヨル……よくやりました……」

「ヒメ!」


 ヒメを抱きかかえる。映画のワンシーンみたいに。


「まだ寝たらダメだ!」


 力一杯呼びかける。

 だが、ヒメは最後に力を振り絞って、


「あとは…………まかせ……たわ……ガクッ」


 それだけを言い残して瞳を閉じた。

 精一杯に腹の底から叫んだ。


「どうしてこうなったー!」


 皆さん忘れていると思いが、では冬葉を……ん?

 ひたいから水が垂れて……。


「な、なんじゃこりゃー!」


 ゆっくりと振り返る。

 そこには可愛い顔をドロまみれにしている冬葉(?)が立っていた。


「ごめんね、夜夏くん」


 両手を胸の辺りであわせて、謝罪してくる。

 冬葉はすぐにチームの南雲ちゃんのところに駆け寄り、


「南雲ちゃん! わたしたち勝っちゃったよ!」

「南雲~今、死体です~」


 南雲ちゃんはうつ伏せで倒れていた。

 するとヒメがスクッと立ち上がり、


「では皆さんサバゲーバトルをこれにて終了します」


 手をパンパンと叩いて、高らかに宣言した。


「あ~あ、負けちまったか~」


 莉乃が残念そうに言う。

 さっきのことを謝ろうと僕は駆け寄る。


「莉乃……」

「うん、なんだ?」

「さっきはすまなかった。その……」

「そんなことか、気にすんな。そういう仲だろ?」


 莉乃はニッと笑い、南雲ちゃんのところに行ってしまった。

 そっか、許しあえる仲か。こんな良い仲間はいないよな。


「では帰りますわよ」


 かくしてようやくサバゲーが終わった。

 人生で一番長いであろう一時間四十分となった。




 うらばなし。

 ・給水のための蛇口はあちこちに設置されていた。

 ・冬葉たちのアジトは入口の右に2m先にあった。

 ・冬葉はずっと僕についてきていた。怖っ……。

 ・南雲ちゃんのあのキャラはいまだにわからない。多分永久封印(?)。


あっけないラスト!


感想などまってます


友城にい

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