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一番近くにある日常  作者: 友城にい
六月編
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8/19

第六話 サバゲー畑に飛び込んだ 前編

「ヒメ!」


 木の影に隠れて、ヒメを抱きかかえる。映画のワンシーンのように。


「まだ寝たらダメだ!」


 力一杯呼びかける。

 それに応えるように、ヒメは最後に力を振り絞って、


「あとは…………まかせ……たわ……ガクッ」


 それだけを言い残して瞳を閉じた。

 精一杯に腹の底から叫んだ。


 ――どうしてこうなった。


 説明したら長いがまあ説明するとこうなったのは、およそ一時間半ぐらい前の四時ごろのこと。

 日直の仕事があったため、いつもより少し遅く帰ってくると、庭の辺り一面がジャングルになっていた。

 わずかに右端に屋根の先っぽだけが、飛び出ているくらいだ。

 今更こんなことでは驚かないが、入口である門に手紙と小袋が置かれていた。

 とりあえず手紙を読んでみると。


 サバゲーをしているので、着替えたらトランシーバーで知らせてください。チームは私と莉乃のチームです。 姫夏


 用意されていたのは、迷彩服とヘルメットと水筒と……水鉄砲?

 なんだこれ、と確認するとヘルメットのおでこの部分には白い紙が貼られていた。

 どうやらこれを濡らされたら終了らしい。

 さっさと終わらせたいブルーな気分で、いっぱいなので着替えを済ませて、トランシーバーで連絡する。

 側面にあるボタンを押したまま応答を待つ。

 しばらくして、


『はい、こちら姫夏ですわ』

「あー、夜夏です。用意できたがどうすればいい?」

『あら、じゃ入って左側を目指してください。こちらからも向かいますから、では』


 一方的に機械音と一緒に途絶えた。

 一歩目から草をかき分ける音がする。

 正しい通路みたいに道もなく、目に映るのは森しかなかった。

 どうやらアジトはいつもお茶会をしているところらしいので、そこに向かって歩き出すのだが、草や砂利で足を取られるし、あと湿気のせいか物凄く蒸し暑い……。



 もう着いてもいいころあいなのに一向にその兆しさえない。

 空を見上げてみる。視界が悪く、木が邪魔で空を覆っていた。

 タオルぐらいないのかと暗い中で小袋をあさっているがないようだし、諦めて袖で汗を拭う。

 方向は間違っていないはずなので、再び一歩ずつまっすぐに進んでいく。

 十分も歩いていないにもかかわらず、すでに全身に汗をかいていた。服が肌にへばりつく。

 そんな僕に突然、暑いはずなのに背筋が凍るほどの悪寒が全身に走った。


「な、誰かに見られてる……気がする」


 人生で誰かの視線を感じ取ったことは一度でもなかったのだが、僕の中にある動物的カンが今ここで働いた。

 スッと振り返る。


「誰か……いるのか?」


 答えるはずもないのに問いかける。

 すると五mぐらい先にある木の影に誰かが隠れた。

 薄暗いため黒い影になるので、誰かは判別ができない。

 腰に装着している水鉄砲を抜き取り、隠れたほうに構え、そーっと近づく。

 一歩ずつ確実に慎重に。

 合流する前にやられたらあとでなに言われるか、わかったもんじゃない。

 それだけはたまらん。

 残り三mのところまで近づいた時に向こうが動きにあわせて、こちらに姿を現した。


「手をあげなさ~い! ……ってあれ~? 夜夏……く~ん?」


 正体は南雲ちゃんだった。

 僕と同じように迷彩服を着ているが、正直似合わない。


「南雲ちゃんか……びびった……」


 肩の力を抜いた時だった。

 ――――またさっきの感覚が戻ってきて、身体が怯えているのがわかる。

 元凶はまぎれもなく南雲ちゃんから発せられているもので間違いないはない。

 その証拠に僕とわかっていても構えのポーズを緩めず、それとは逆にさらに警戒心が高まっている。

 このままでは、あっけなくやられるのがオチ。頭ではなく身体がそう信号で知らせていた。


「やられる前に殺る! それがここの戦場でのモットーだ!!!」


 完全に戦闘モードの南雲ちゃん。なぜだか口調もいつものゆるふわなしゃべりではなく、ドスのきいた声で怖い男の人みたいになっている。

 豹変しすぎだろ……。

 迷っている場合ではない。


「気が乗らないが……やりあうしか、選択肢がないみたいだ」

「いい心構えだ……だが手加減はしねえ!」


 それを皮切りに目にも止まらない速さで、辺りにある木に俊敏に移動し、狙いが定まらないようにしている。


「み、みえない……」

「どうした! その程度か!」


 右に向けて構えれば、左にいるという状態が延々に続く。

 これではむやみにトリガーを引くこともできないし、身動きもとれない。いったいどうすれば……。

 その時――


「もらった――――!」


 しまった!?

 一瞬の迷いをつかれ、南雲ちゃんがこっちに向かって飛びかかってきた。

 や、やられた……視界がスローモーションのよう映る。

 まだ始まってもいないのにゲームオーバーの文字が頭によぎる。もう諦めた時――――


 突如、僕と南雲ちゃんとのあいだから黒い物体が投げこまれ、破裂した。

 とたんにその周辺が白い煙に覆われて、身を低くしたとたんに南雲ちゃんが僕の上を飛び越えていった。

 背中から「クソっ! 煙幕か!? 前が見えねー!」と動揺する声がする。

 助かったことには助かったが、僕にもどうすることができない。

 次の行動に移せず、あたふたしていたら、何者かに突然、右手を掴まれて南雲ちゃんから離れるように反対に走り出した。

 煙を抜けて、その人のほうに目をやると、見覚えがない黒髪のストレートヘアーの人だった。

 でも何度も味わったことのある手の感触。そう言うまでもないが――ヒメこと中野姫夏である。


「危機一髪でしたわねヨル。さあアジトに急いで行きましょうか」

「お、おう……」

「気になりますか? 髪が黒なこと」

「そりゃーな」

「金髪では目立ちますから、即興で黒に戻しただけですわ」

「あ、なるほど、そうだよな」


 久しぶりに見たなヒメの黒髪。なんせ二年ぶりだった気がするたしか。

 そのまま引っ張られて、アジトであろう三本の木に挟まれ、周りには背丈のある草で囲ってあるアジトだった。

 あの場所からアジトまではそんなに遠くはなかったが、非常にわかりづらいところあったため、一人ではおそらく見つけられなかっただろう。

 ヒメは真ん中にあるイスに座り、話をする。


「まずはこれだけは誤解されないうちに話しますけど、これ、私の発案でやってませんのであしからず」

「え? じゃー莉乃か?」

「違いますわ、南雲ですのよ」


 水筒を飲みながらに答える。


「…………マジなのか?」

「嘘は言いませんし、昨日頼まれましたの『サバゲーがしたいんです~』って」

「意外というか……素直に驚きの発言だな……」


 それであの豹変とガチっぽりなワケか……これで納得したな。


「そういうわけですの。それと莉乃を見ませんでした? あれこれ二十分ほど戻ってきてませんのよ」

「いや、見てないけど……」

「ですわよね」


 頬に手を当てて、心配していた。

 いつもはいがみあっている二人でも仲間となれば、心配する仲に切り替わるものなんだな、と思えた。


「トランシーバーで連絡とれないのか?」

「さっきもやってみましたが、応答しないんです。どこかに落としたんでしょうか」


 莉乃のことだし、単独行動でも十分にイケそうな感じはするが、やっぱりチーム戦なわけだから、団体で行動したほうが安全と作戦を練りやすいし、すぐに実行には移せるわけだ。

 でももし、この二人のことだから意見があわずに喧嘩に陥る可能性もないわけではない。

 どちらにしろ、メリットとかデメリットのコトを考えると、今の状況が一番いいのかもしれない。


「さがしに行くか?」


 アジトにはイスしかないため依然として、暑さが僕らを襲う。

 幸いにもこの場所は少しだけ日差しが入ってきている。少しだが風もある。


「留守中に戻って来られるのは厄介ですし、どうしましょうか」


 ヒメは手足を組み、名案を考察している。

 時間を消費するのは痛手なのでここは、いち早く対処するため僕は切り出す。


「僕だけでさがしに行ってみるよ、それなら莉乃がここに戻ってきてもトランシーバーで知らせることもできるし、それでいいだろ?」

「大丈夫なんですの?」

「あー道は覚えたから心配すんな」


 集まればいいと願ってるくせに自分からつき放すように促している気がした。

 いつものようにみんなでワァーワァーいっていればいいと心で思っていた。

 でもこれは一連の流れというか、宿命とまでのハードルでもないが天から渇せられた課題と考えればラクになるかもしれない。


「困ったことがありましたら、いつでも連絡していいですからね」


 いつものような自信に溢れた顔ではなく、心の底から見送るような目をしていた。

 空気にのまれたのかなぜか「行ってきます」と言ってしまった。

 わずかな隙間から出ると改めて感じるホントにここは庭なのか? と。

 立ち止まっていても仕方ないので来た方向とは逆のほうに歩み始める。


 ただいま四時二十分。

 ゲーム開始から二十分が経過。とても長い二十分なのが身に染みると心底実感するのだった。

 草をかき分けて、しばらく重い足どりながらに進んでいくと水のはじく音が耳に入ってくる。


「誰かいるのかな……もしかしたら莉乃かもしれない」


 一応警戒してゆっくりと草をかき分けながら音の聞こえるほうへ向かった。

 木と木を行き来して徐々に近づく、どうやら蛇口かなにかから水が出る音らしく、もうすぐだなと確信しながら、なるべく草の音を最小限に抑えて、足を運ぶと、薄暗い視界で一人の姿を捉えた。

 こちらに背を向け、お辞儀の大勢でどうやら髪を濡らしているようだ。

 視界の悪さとみんなが迷彩服を着ているため誰かが判別ができない。

 確認のためリスクを背負ってまでそーっと木の陰に身を潜める。


「よく見えない……」


 小声で囁く。

 確認とはいえ、ここまで来たらイケる! と思った自分で後悔した。

 なんと一歩踏み込もうとしたところで草につまずき転んでしまった。

 さすがに向こうも気づいたようで「誰だ!」とこっちに振り返り叫んできた。

 ヤバい、と感じたが運よく背丈のある草むらに転んだためにまだ向こうには誰だかは気づかれてはいない。

 でも僕は最後に目にした髪色で誰だかわかってしまった。

 そう南雲ちゃんだった。茶髪でよく見れば身長が高いし、足の長さだって莉乃より長いわけなんだし、確認できるところはいっぱいあったはずだ。

 どうやら暑さと暗さで観察力が低下しているようだ。


 過ぎたことはしょうがない。まだ南雲ちゃんは、濡らした髪をしぼっているような音が聞こえるため、行動には移してはいないが時折「待ってろ! すぐ行くからな!」と言葉を飛ばしてくる。

 今がチャンスだ。さっさとここから逃げ出そう。

 這ったまま後ずさりする。冷静に確実なミッションをこなす。

 幸いにも上半身の部分だけ草むらに突っこんだだけなので手先に神経を集中させ、足を下げ、上半身だけを下げ、最後に手と腕をさっと離した。

 近くの木に身を隠す。

 ちら見で確認する。

 どうやら南雲ちゃんはまだ用意していたようなので大丈夫だなと思い、気をくばりながらその場をあとにした。


「ふぅ~あぶなかったな~」


 ひと息ついた。

 なぜだか生きた心地もしなかったし。


「へ~どんなことがあったんですか~?」

「そうだな話せば長くなる…………へっ?」


 幻聴か? 今南雲ちゃんの声がしたような……。


「それはなんなんですか~?」


 そうか……とうとう暑さで頭がイカレたようだ、ハハハ……。

 声のする後ろに振り返ると、


「………………」

「早く聞かせてください~」


 思考解除。


「ぎゃ――――――――!」


 僕の叫び声に南雲ちゃんがビクビクっと身体が跳ねた。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか~それより、南雲とヤリませんか?」


 ま、まさかバレてた? アンドこんなところで『殺』ですね。ワカリマセン。


「クソっ……当たって弾けてたまるか!」


 距離を取り、右手を腰にやり、指をくいっと曲げる。だが、


「あれ? ない…………」


 ただいま思考中。


「あっ……あの時か……」


 ヒメに手を引かれた時に落としていた。ということは、


「夜夏くんのお求めの品はこれですね~」


 峰不○子か! とツッコミたいほどの豊満なバストから取り出したのは、まじれもない僕のだった。


「そうだよ」

「じゃ~お返ししますね~受け取ってください~」


 下投げで放り出された銃は僕のところにドンピシャで飛んできた。

 それを両手でキャッチする。


「いいのか? 今のはかなりチャンスだったと思うが」


 僕の言葉に南雲ちゃんは顔をはにかむ。


「南雲はそんなズルはしません。殺るなら正々堂々しましょ~。……では数分前の借りを返させてもらうぜ」


 一瞬でドスボイスにモードチェンジし、僕の元に歩み寄ってきた。

 手の内にある銃を構える。汗まみれの指でトリガーにかける。

 視界が汗で曇る。あとは引くだけだ、躊躇している場合じゃない。


「殺られる前に殺る。それがここの戦場でのモットーだ!」この言葉が脳裏によぎる。

「さあ早くオレの頭にぶちこみやがれや!」


 薄目でトリガーに力をいれた。

 ――――すると。

 勢いよく吹き出てきたのは『水』だった。

 それを南雲ちゃんは紙一重で何事もなくよけ、僕のヘルメットに、その……水鉄砲を突きつけた。


「おめーもここまでだ。まあ退屈しのぎにはなった。じゃーな」

「………………」

「そいつを放してもらおうか!」


 どこからか声がする。


「だ、誰だ!?」

「あたしは……ここだ!」

「………………」


 木の枝に登っていた莉乃がターザンのようにして「あ~っあ~」と雄叫びとともに僕を腰から抱きかかえ、奪うように連れ去られる。


「すまねーな南雲! ここはお預けにさせてもらうぜ!」

「二回も逃げやがって! 次会った時は覚えていやがれっ!!!」


 可愛い顔で悔しがっている南雲ちゃんが戦隊ヒーローモノの悪役みたいなセリフをはいていた。

 木から木に事前に用意していたようなロープで次々と渡っていき、南雲ちゃんの姿が完全に見えなくなったところでようやく下に降りる。


「どうやら間にあったみたいでよかったぜ」

「そー……みたいだな……」


 自分でなぜこんなテンションが低いのかわからない。


「じゃっいったんアジトに戻るか、姫夏のことも心配だしよー」

「そ、そうだな……」


 なぜ暗いのかもわからない。


「さっきからどうしたんだ?」


 莉乃が気にかけてくれる


「いや……なんでもない……早く合流しようか」


 隠したり、ごまかしたりしたわけではない。けどいつもの僕のクセで雰囲気を壊したりしたくはないから空気を読んで、胸の奥の引き出しにしまっておくことにする。

 それが正しい行いだと僕は信じて決めているから今はこれでいい。

 莉乃とだんまりしたままアジトにたどりつく。


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