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資料-20260919-09:ボイスレコーダー音声の書き起こし

【資料番号】資料-20260919-09

【媒体種別】ICボイスレコーダー

【対象人物】首藤 隆一(フリーライター)

【録音日時】2026年9月4日 14:22 〜 2026年9月4日 16:03(推定)

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■ FILE_003.WAV(14:22 録音開始)


首藤:……足利駅に到着した。前回来た時よりも人が多い。報道陣らしき影が多数。駅前に停まっている車も報道関係者のものと思われる。以前の取材で話を聞かせてもらった地元の民俗学研究者である九条氏と合流。これより郷土資料館に移動する。


【乗用車に乗り込む音、エンジン音】


首藤:今日はわざわざ迎えに来ていただきありがとうございました。早速ですがいくつかお伺いしたい事がありまして、録音していますが宜しいでしょうか?

九条:はい、問題ありません。え~、ただですね、メールで頂きました『栖網喪岡』付近は今朝から封鎖されておりまして。住民でも近づく事が出来ない状態なので、我々も無理でしょうね。

首藤:あー、確か、熊による食害事故があった件ですか? まだ捕獲されていないんでしょうか?

九条:いや、それがどうも熊じゃないんじゃないかって話も出てまして。ただ、どうもね、色々と妙なんですよ。

首藤:妙、と言いますと?

九条:首藤さんも感じませんでしたか? 外を歩いていると常に蜘蛛の糸が顔にかかったような感じがするんですよ。

首藤:ああ、確かに。駅のホームに降りた瞬間にも感じましたね。たまにある事なのであまり気にしなかったんですが。

九条:ええ、まぁそうですよね。たまにあります。実際には髪が触れただけだったり、本当に気のせいな事もあるし。

首藤:風に乗って蜘蛛の糸が飛んできている事もありますしね。ちょっとした木立の中なんかを歩くと、何度も糸がついた気がして鬱陶しかったりしますが。

九条:ちょうどそんな感じなんですよね。何度も糸がかかったような気がするんですよ。それで私も気のせいだろうって思ってたんですけどね。ほら、見えますか? 車のフロントガラスのところ、よく見ると細く、……きらきら光るラインが見えるじゃないですか。それも一本じゃない。何本も見える。

首藤:え、まさか本当に蜘蛛の糸なんですか?

九条:家内ともそんな風に話してたんですよ。まぁこの辺じゃたまにある事です。数年に一度、蜘蛛が大量発生して、『栖網喪岡』あたりの木が蜘蛛の巣だらけになったりとかね。

首藤:……だとしても今年は多い、と。

九条:ええ、そんな気がしますね。近所の小学校でも、夏休み明けに体育倉庫を開けたら一面蜘蛛の巣だらけだったとか、そんな事を言ってました。

首藤:それはちょっと不気味ですね。

九条:まったくですよ。

首藤:それで、その、熊の食害の件とどう関わって来るんでしょうか? まさか蜘蛛の大量発生と『ががも様』が関係あると?

九条:いや、その、流石に飛躍した話だとは思うんですけどね。この辺りじゃ昔っから、人がいなくなると「ががも様に喰われた」ってよく言われてたもんですからね。だからまぁ、今回も「ががも様に喰われたんじゃないか」って話が出てまして。

首藤:なるほど。

九条:すいません、突拍子もない話でしたね。

首藤:いえ、とんでもないです。

九条:ただ、どうもおかしいんですよ。食害だって言う割には、防護服を着た連中が歩き回ってたって話で。それに今朝から『栖網喪岡』が封鎖されてるっていうのも、捜索隊がいなくなったっていう話なんですよ。

首藤:捜索隊がいなくなった? ええと、何人かが行方不明になったっていう話は以前にも出ていましたよね。

九条:何人かどころじゃないんですよ。現地にいた捜索隊と連絡が取れないとかなんとか。

首藤:現地と? え? まだ500人以上がいるって話ですよね? その全員と連絡が取れないんですか?

九条:いや、自分も聞いた話なんですけどね。ただ様子がおかしいってのは確かですよ。今朝も自衛隊の装甲車っていうんですか? あれが何台も走っていくのを見ましたからね。

首藤:それは、確かに不穏ですね。

九条:ああ、そろそろ到着します。


(録音終了)

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■ FILE_004.WAV(15:08 録音開始)


首藤:神楽坂教授が書かれた「『栖網喪岡』に眠る土蜘蛛伝承」についての資料を見せて頂いた。PDF化したものを自宅のPCに送信済。興味深い内容だった。あらためて九条氏にインタビューを実施する。……え~、それでは九条さん、よろしくお願いいたします。

九条:はい、よろしくお願いいたします。

首藤:土蜘蛛伝承の中にも書かれていた通り、『栖網喪岡』付近には洞窟が点在しているというのは間違いないのでしょうか。

九条:ええ、本当です。神隠しの話も、たいていは縦穴から落下したんじゃないかって言われていますね。それに、埋葬された遺体が無くなるというのも、土を掘り返した事によって土壌が脆くなって、洞窟内に落下したんじゃないかと思っています。

首藤:確かにその方が納得できますね。そうした危険な土地を土蜘蛛伝承などと交えて、忌み地として近づかないように戒めて来たというのは全国各地に見られる風習です。

九条:ええ、その通りです。

首藤:だとすると、やはり『栖網喪岡』はマンション群を建てるにはまったく不向きな土地であったと言えますね。

九条:仰る通りです。うちの親父も「あんな脆いところにマンションなんぞ建てたらいつか山ごと持ってかれるぞ」って言ってました。いやはや、まさか本当にそうなるとは思いませんでしたが。

首藤:本当にその通りですね。予兆はなかったんでしょうか?

九条:勿論あったんでしょうね。地下に穴が開いてたってのはもう大分前から言われてた話です。そのせいで地中から風が吹き上げてきて不気味な音がするってね。マンション裏手にあるっていう丸井戸だって、ようは鍾乳洞への縦穴です。

首藤:ですがそれらの予兆はすべて見過ごされてきた。

九条:見て見ぬふりをしてきたんだろうね。聞いた話じゃ、マンションの壁に目に見えるような大きな亀裂が走ってたって話です。廊下でボールを転がしたらどこまでも転がってくって話も聞いてました。

首藤:それは、……随分前から地盤沈下が始まっていて、マンション全体が歪んでいたという事ですか?

九条:そういう事でしょうね。まぁ今となっちゃ証拠もないし、言ったところでどうしようもない話ですけどね。


【十秒ほどの沈黙】


首藤:今のは? 地震ですか?

九条:ああ、最近は多くってね。また大きく崩れるんじゃないかってみんな心配してるよ。

首藤:……気象庁の地震情報は、出ていないですね。となると、本当にまた崩れるかもしれません。


【再び十秒ほどの沈黙】


首藤:これは、さっきより大きいですね。不味い、外に出ましょう。離れた方がいいかも知れない。

九条:そうですね、これは……、すぐに出ましょう!


(録音終了)

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■ FILE_005.WAV(15:42 録音開始)


首藤:揺れが断続的に続いている。九条氏の自宅に到着。九条氏の細君と連絡がつかなかったため確認に来た。……九条さん、どうですか!? 奥さんはいましたか? 九条さん!? ……入りますよ。……九条さん、……ぅ、なんだ、この臭いは、いったい、……うわ、手に何か、べたべたと、……九条さん? ……これは、いったい、何が?

九条:わ、分からない、なにが、……なにが……。

首藤:……倒れていらっしゃるのは、奥様ですか?

九条:ちがう、そんな訳がない、だって、こんな、……。

首藤:失礼します、……な、これは、駄目です、九条さん、触らない方がいい。これは、(呼吸が激しく乱れ、しばらく咳き込む)……これ、……は、遺体とおぼしきものを発見。衣服は残っているが、肉はすべて削ぎ取られたかのように骨が露出、……ううッ、酷い、なんなんだ? 着衣は、ほとんど乱れることなく残っている、大きな損傷は確認できない、……だが、中身がない、骨と……髪、ああそれにこれは、……床に転がっているのは、爪、なのか?

九条:嘘だ、嘘だ、……ああああ、嘘だろ! こんな、陽子! なぁ、おい、まさかお前じゃないよな!

首藤:また揺れが、……! 九条さん、出ましょう! とにかく逃げるんです!

九条:でも、陽子が!

首藤:陽子さんじゃないかもしれません! 行きましょう!

九条:あああ、……うう、……。

首藤:立って、歩いて下さい、……運転は僕が変わります。

九条:いえ、…いえ、大丈夫です、……なにかやってないと気が狂いそうになる。


【乗用車に乗り込む音、エンジン音】


首藤:行きましょう。揺れがひどくなってきた。

九条:ええ、分かってます、首藤さん、シートベルトを締めて下さい。

首藤:分かりました。……ああ、見て下さい、あそこ『栖網喪岡』方面で土煙が上がっている!

九条:ああ、なんだありゃ、山が!!

首藤:なにが? え? あれは、……山が崩れて……いや、斜面が動いている? なんだ、何が起こってるんだ? まるで山全体が蠢いて、……山そのものが崩壊、……まさか、土石流か!?

九条:違う、土石流なんかじゃない! 何かが凄まじい勢いで溢れ出して、ああ、クソ、逃げないと!

首藤:急いでください! 急いで! 土石流がこっちに!

九条:違う、違う、違う!!! あれは――……!!!!


【激しい自動車のクラクション音およびタイヤのスリップ音】

【金属が捻じ曲がるような突如の衝突音】

【約15秒間のノイズの後、録音強制終了】

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