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悪女の悪あがき。2回目!~今度は親友の破滅フラグをへし折りたい~  作者: 杏仁堂ふーこ


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51.それでも耳を塞げず

 ユウリからバトンを渡された形になったジェイルが居住まいを正す。

 嫌な予感を感じながらも話を聞く以外はできなかった。だって、あたしがいい、って言ったんだもの。

 ジェイルもユウリ同様に何をどう話そうか少し迷っている様子だった。けれど、ユウリほどに時間を置かずに話をし始める。


「自分がディディエ様と向かったのはアルセンの事務所です。

 打ち合わせまでの間、色々と話を聞きました。ご本人は独り言だ、と言っていましたが」


 独り言、ねぇ……。

 あたしはディディエの顔を思い出す。綺麗な顔をしてるくせにいつも不機嫌そうにしていて、色々と面倒臭い性格をしてるヤツ。


「ディディエ様は自分がお嬢様から”事情”を聞いた上で同行を申し出たと考えていたようでした。

 何も聞いていないといったらひどく驚いていましたので……」

「……そう」


 ジェイルの探るような視線、全員の視線があたしに集中する。

 誰も何も言わないせいで、またもや時計の秒針の音を聞く羽目になってしまった。

 どうやら、ジェイル含めた全員がこの場であたしが『事情』を話すと思っているらしい。あたしは視線を伏せてふっと溜息をついた。


「ディディエはあたしの口が随分軽いと思っているみたいね。

 ――悪いけど、話す気はないわよ」


 はっきりと答えて、視線を持ち上げた。ジェイルを見ると少し残念そうな顔をしている。

 正直、話しても問題はない、ような気はする。ただ、話すとこいつらか勝手に何かしそうなのよね……。六狼会の中でもデリケートな話なのに、勝手にべらべら話すわけには行かないわ。

 ……何より、彼らには関係ないことだから巻き込みたくない。

 あたしの意思が堅いと見たのか、ジェイルは「わかりました」と言って続きを話し始める。


「ディディエ様の言葉は抽象的なものが多く、理解できないことが大半でした。

 なので、覚えている限りの言葉をそのままお伝えします」

「? わかったわ」


 ジェイルはやけに真剣で、それでいてどこか緊張しているようだった。あたしの顔色を窺うような視線が、らしくない。

 わかったと答えたものの違和感を覚える。

 ユウリにしろジェイルにしろ、どうしてこんなにもあたしの様子を気にするのか。

 そして、宣言通りにジェイルはディディエの言葉を話し始めた。

 ザインは気にしすぎだということ。自分が今日事故に遭ったとしても何も疑われないだろうということ。

 ジェイルの淡々とした話し方に呼応するように、秒針の時計の音がやけに響いた。


「……お嬢様を訪ねたのは、その目を借りるためだそうです。

 こんな状況で他の会の『後継者候補』に会うならアリバイにもなるし、屋敷に籠もっているよりマシ。久々に会えばお嬢様の記憶にも残るだろう、と」


 ぞわりと鳥肌が立った。知らず知らずのうちに腰を浮かせて、前のめりになっていた。

 ジェイルの驚いたような顔が目に映る。


 ――ゲームに、九条ロゼリア(あたし)はいない。本来なら前作で殺されているから。

 だから、あたしはゲームには存在しないイレギュラーな存在。ザインがそんなあたしに会うという選択肢を選んだのは、とにかくどこにいるかもわからない犯人から逃げるため。護衛も側近もいない今、強力な立場を持つ人間に会うことで、僅かでもその庇護を得るためだった。

 ディディエがこんな話をジェイルにした理由は?

 当然、これらの話が真実だから。

 ……黒幕に協力する立場で、そんな行動を起こすはずがない。

 ザインに話を持ちかけられた時は、彼が演技をしている可能性を考えていた。言葉全てを信じるには何もかも足りなかったから。


 ドクン、ドクンと心臓の音がうるさく響く。鼓動に合わせて、頭の奥で秒針が鳴っている気がした。

 遠ざけたい確信が、あたしを追い立ててくる。

 あたしはソファに座り直し、肘掛けに頬杖をついて視線を伏せた。


「……悪いわね、続けて頂戴」

「は、はい」


 ジェイルがどんな顔をしているのかわからない。

 その先を聞きたくない気持ちがあったけれど、あたしが聞くと言った以上は中断もできなかった。

 ディディエは嫌だと言ったけど、結局ザインとカミルに無理やり連れて行かれたこと。姉兄が嫌いなわけじゃないこと。

 ジェイルの口から出てくる情報全てが、ゲームの弟ルートでのセリフと被っていることに遅れて気付く。


「相手を害したいと思うほどに憎悪する気持ちがわからない、と仰っていました」


 そこで言葉を切るジェイル。室内を気まずい沈黙と、秒針の音が支配する。

 ……。

 ……。……。

 ……黒幕(カミル)に協力する立場なら、こんなセリフは出てこない。あたしが疑っていることがバレたとしても。

 だって、その気持ちが()()()()()ヴィオレッタの拉致監禁に協力するんだもの。

 ディディエはもちろん、ザインもカミルもあたしがヴィオレッタの拉致監禁のについて調べてるなんて、露ほども疑ってない。その発想すらない。それはコウセイさんも一緒。

 だから、こんなことをジェイルに言う時点で――その言葉は疑いようもなく事実なんだわ。


 あたしは頬杖をついたまま、ジェイルにそっと視線を向ける。

 ジェイルが戸惑いを見せた。


「他は?」

「はい、最後にザイン様の不安は最もだが的外れだから、お嬢様に会うのは無意味だと……。

 ザイン様はあれで身内を疑わないから、自分の考えは意味不明なのだと仰っていました。

 ただ、漠然とした違和感だけで、根拠も証拠もないそうです」


 ジェイルは「以上です」と告げて、話を終えた。

 あたしはジェイルから視線を逸らしてぼーっと虚空を見つめる。

 全員が心配そうにあたしを見ているけれど気にしている余裕なんてなかった。


 ――つまり、ディディエはゲームの弟ルートのように、既にコウセイさんを疑っている。

 ゲームでも兄に対する違和感を真っ先に口にしたのはディディエだった。

 けれど、それはあたしと同じでただの直感。兄弟だからこそ感じる違和感。まぁ、その違和感を元にヒロインととともに真相を探っていくんだけどね……。


 ……ヤバい。現実逃避したくなってきたわ。

 ”落ち着いて考えよう。一旦保留よ、保留”って思ってたところに、あたしじゃ掴めなかった情報やディディエの証言が出てきてしまった。

 心臓は落ち着いてるけど、鳥肌がヤバい。あと秒針がうるさい。まるで結論を急かされているようだわ。

 あたしは思いっきり溜息を吐き出し、ジェイルを見つめた。


「あんたはどうしてその話をあたしに聞かせようって思ったの?」


 ジェイルが目を見開く。困惑を滲ませながら、ゆっくりと口を動かした。


「……お嬢様が何かお探しのようだったので、ひょっとしたら自分の聞いた話がお探しのものかもしれないと思ったまでです」

「あたしが何か探してる……?」


 眉間に皺を寄せる。すると、ジェイルがふっと笑った。


「見ていればわかりますよ。何かを探して、随分焦っていらっしゃるのは」

「どうして」

「その理由を聞くの無粋ですよ、お嬢様」


 あたしの言葉を遮るように言い、ジェイルはふっと笑う。

 その表情は庭で見せたものと一緒で――あたしの居心地を悪くさせた。

 まさか、ジェイルもユウリも、同じ理由であれこれ報告してくれるわけ……?

 そう考えると益々居心地が悪くなってしまった。

 あとはメロ。

 何を話そうとしているのかどうかわからない。けど、居心地の悪さも手伝って、嫌な予感が更に膨らんでいった。

 これ以上聞きたくない気持ちを抱えたまま、控えめにメロを見た。


「あとはメロだけど……あんたは何の話をする気?」

「おれの話は一瞬で終わるッスよ。――でも、その前にユキヤくんがちょっと聞きたいことあるんだって」

「ユキヤが……?」


 眉間に皺を寄せてユキヤを見る。ユキヤはいつも通り穏やかな表情をしていた。

 あたしは不審に思う気持ちを隠そうともせずに口を開く。


「何?」

「ロゼリア様が何にそんなに焦っていらっしゃるのか気になるんです」

「……言わないわよ」

「無理にお聞きしようなんて思っていませんよ」


 ユキヤは苦笑して肩を竦める。穏やかで控えめな分、いまいち考えが読めないのよね。推しなのに。


「立場上、私のところには色々な情報が入っていきます。

 ――例えば、ヴィオレッタ様のご病気が嘘であるとか、」


 そこで言葉を区切り、見透かすような紫の目があたしを真っ直ぐに見ている。

 ゾワッと鳥肌が立った。

 なんでそんなことをユキヤが知ってるのよ! と言いたい気持ちをぐっと堪え、”何のこと?”とばかりの態度を取るが精一杯だった。


「ギャラリーの撤去のことや、兄弟間で揉めているとか……そんな話が私の耳に届きます」

「それが?」

「いえ、何でもありません。話の腰を追ってしまい、失礼しました。花嵜さん、ありがとうございました」

「へ? あ、う、うん……」


 メロがわけがわからないと言わんばかりの顔をしている。ユウリとアリスも同様だった。

 ただ、ジェイルとハルヒト、そしてあたしはユキヤがあたしに対して”カマをかけた”ことに気付いている。話題を振って、あたしの反応を見ていたのは明らかだった。

 あたしのことが好きならほっといてよ、と喚きたいけど、そんなこともできない。できるはずがない。

 苛立ちを込めて肘掛けを引っ掻き、ゆっくりと息を吐き出す。

 メロが「お嬢」とあたしを呼ぶ。

 同時に、それまで忘れていた秒針の音が響き、あたしを現実に引き戻すのだった。

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