#2 契約と妄想犯行計画 前編
『我は刻想器、汝らヒトの想いを叶える存在』
僕――森咲 杜鷹の目の前に今、自称想いを叶える存在――刻想器がいる。
刻想器は、確かに僕の目の前にいた。
でもあれは堂々と目の前にいると言えるのか?
刻想器はどんな感じ?――と聞かれたら僕の返事はこれだ。
片手の手のひらに収まるぐらいの黒いスマホ――
推理やトリックモノ以外で――SFモノをよく見る僕からしてみれば、男心をくすぐるムードが台無しのレベル……
『神秘的な輝かしい光を放つ、謎の観測者!』――とか。
『君の願いをなんでも叶えてあげるから言ってごらんよ』――とか。
ワクワクするような登場を――僕は期待していたのに――
非現実に引き摺り込んだのだからもう少し、演出を頑張れよ……
――しかも『我は、プラネタリウムの投影機と同化してました』は――流石にないだろ……
と、僕は心の中で素直にそう思っていた――
『我が見せた未来は――』
『今の汝が、必ず辿り着く――未来の形』
今の僕が辿り着く未来?
僕自身の未来は、僕自身が決めること。
非現実的で、よくわからない存在に――僕の未来を勝手に決められてたまるか――
「僕は、あんなバッドエンドみたいな未来は認めない」
「バッドエンドを見せられたなら、ハッピーエンドを目指すだけだ!」
『ふっ――無駄だ。汝の未来――汝だけの問題であの未来になったのではない』
『汝は、あの未来を観た今、何を想うのだ?』
あの未来を観た僕が今、何を思うか――
「――信じる訳……ないだろう」
「僕は今、こうして元気に生きているじゃないか!」
僕は刻想器の問いに対して、胸の中にある想いを伝える。
「未来は――自分で選択、掴み、前にある道標を歩いていくこと――だからこそ、後ろを振り返ることは許されない!」
――それが未来というモノだ!
『なるほど……後ろを振り返ることは、許されないか――』
『汝の強き想いは分かった』
『では――我が見せた未来の汝が、泣いていたのは何故なのだ?』
刻想器の問いに僕は、今日雪護さんと映画館に来る理由となったキッカケを思い返していた――
僕と雪護さん、そして柊先生との関係。
それは柊先生の作品である、萬屋 赤葉の事件帳から始まるきっかけの話。
僕が見た絶望の未来という映像の中で、なぜボクが涙を流していたのか――
それは半年前……
【半年前】
僕はトリックや推理モノを鑑賞、考察して終わるだけの単純な趣味として、色々な作品を観ていた。
当時の僕には、それだけで充分で、満足だった。
雪護さんと意気投合したきっかけ、柊先生のファンになったタイミングは同じだった。
若手女性小説家――柊が執筆した、萬屋赤葉のアニメ。
アニメ第一話のトリック、推理モノにありがちな感情的でない犯人の犯行動機。
人を殺めることはどんな理由があれ、あってはならない。
例えそれが、創作上の登場人物だとしても――
だからこそ、【この物語はフィクションです】という言葉があると思う。
しかしこの第一話の犯人は、人を殺めることについて、最後まで葛藤していた。
最大限の自身の知恵を絞り、偶然を装う完全な犯行を実行した。
――赤葉に暴かれたけど。
この事件を暴いた赤葉は、膝をつく犯人にこう告げる。
『あなたの気持ちはわかる、理解できない訳じゃない』
『殺める以外の色々な選択肢を選ぶこともできたのに、あなたは人を殺めるという選択をした』
『結果、私に暴かれた――それだけのこと』
『でも途中までは完璧だった――』
『でもあんな強烈な匂い放つ凶器を選んだ時点で、あなたの運命は決まっていたの』
『たった一滴の致命的ミスが、招いた結果なのよ』
殺める以外の選択肢を選ぶこともできたのに、あなたは人を殺めるという選択をした。
どんな選択をしようと、決めたのは自分自身。
罪を暴かれる未来を選んだのは、犯人自身なのだ。
――この赤葉のセリフは、僕がいつも心の中で思っている考えと同じだ。
僕が犯人だったら、あんな強烈な匂いを放つアレをもう少し違うやり方で――
トリックを実行できただろうなと考えながら僕は、昼休憩中のデスクで赤葉の第一話を視聴していた。
――赤葉を見ながら食べる昼飯は癒されるよな……
同僚の雪護さんに僕が声をかけられたのは、昼休憩も終わる頃――
赤葉のエンディングで【原作:柊】のクレジットが表示された時だったこと――
突然声をかけられて、僕が驚いてしまったのは今でも鮮明に覚えている。
「森咲くん!――今見てるそれって……もしかしてアニメ萬屋赤葉の事件帳?」
「うあぁぁ!――びっくりした……ゆ、雪護さん?」
「ごめん、ごめん――私を昨日見たから――声かけちゃった」
「雪護さんも萬屋赤葉の事件帳、好きなんですか?」
「うん、好きだよー――昨日のアニメの一話も面白くて楽しかったよー」
「だよね――僕も好きなんだ、萬屋赤葉――」
「昨日の第一話の赤葉のセリフがカッコいいんだよな――」
「雪護さんもそう思わないですか?」
「もちろん!でもね…………」
赤葉は高校卒業したばかりのフリーターで、街の記録人を自称して事件に首を突っ込む設定。
相棒の刑事からは、フリーター探偵や赤葉の赤髪から赤毛のフリ探と呼ばれていてる。
いつも相棒の刑事であるスキンヘッドの明堂警部と喧嘩をするシーンがあることも、
【萬屋赤葉の事件帳】が、僕が住む日本で有名な人気作品になったキッカケでもある。
雪護さんと他にも色々話をしたかったが――タイミングが悪く、昼休憩は終わってしまった。
それから雪護さんとは、赤葉が放送される度に――
お互いの感想と考察を語り合う趣味友になった。
彼女が僕のことをどう思っているか分からない。
でも僕の心には、同僚でも、趣味友でもない、特別な感情が雪護さんに対して芽生えていた。
簡単に言えば、初恋だ……だから【絶望の未来】のボクは泣いていたのだ。
『初恋か――あの未来で汝が呟いていた名前――』
『それも――あの未来に繋がってしまった要因』
刻想器は、半年前の僕の記憶――雪護さんが絶望の未来の要因として告げた上で――再度、僕にある問いかけをしてきた。
『あのような未来を変える意志、本当に汝にはあるのか?』
「どうだかな……でもあんな絶望の未来、本当に変える事ができるのか?」
『……知らぬ――だが汝と話をする時間も無くなってきた――』
『だから最後に――汝へ問おう!』
『我は、刻想器――汝はあの【絶望の未来】を観て、今、何を想う?』
これは想いを叶える存在、刻想器から僕に対して、未来を変えること問い。
だから僕は刻想器の問いにこう返した!
「僕の想いは、ハッピーエンドの未来だ!」
僕の強い想いに刻想器は応える。
『汝、いや【森咲 杜鷹】――刻想承認……契約締結』
『我は、常に杜鷹のそばにいる』
『それだけは――――』
刻想器が何を言いたかったんだ?
ここで僕の意識は、途切れてしまった。
途切れゆく意識の中。
いつも聴く優しい女の人の声が聞こえてくる。
そう、僕が護りたい人の声が――――
「森咲くん――森咲くーん」
#2 契約と妄想犯行計画 前編 完
#3 契約と妄想犯行計画 後編につづく
最後までお読みいただきありがとうございました!
12月10日(火)、内容を一部改訂いたしました。




