#25 第2の妄想犯行 探索篇 Part.3
【202X 1月1X日 AM07:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局 モリタカルーム】
【残解決時間 146時間30分】
ピリリ!ピリリ!ピリリ!
【ほこやぎ町への五感転送が完了しました!】
「……本当に……朝になってる……」
視界に映るほこやぎ町の時刻を示すUIに表示された現在時刻が、前回ログアウトしてから約半日以上の時間を紡いでいることを改めて僕は、実感している……
――これが本当の妄想犯行計画の攻略の仕方だったのか……
「でも確かに身体の感覚がいつもより楽だし――」
「頭のボッーとした感じも無いな」
30時間以上起きて僕が解決した、匂いの妄想犯行の様にステージ毎に休憩しないまま攻略してたら……僕の身体と心は壊れてしまっていたのだと改めて実感させられた。
そんな事を考えながら萬屋記録局の局員服に着替えた僕は、モリタカルームの扉を開けた。
「あ、おはよう、杜鷹」
「おはようございます、赤葉さん――」
「風邪、治りました?」
「おかげさまでね、でもまだ完全回復ではないかな――」
「ありがとね、杜鷹――あっ!そうだ!」
「スキンハゲからなんかメール来てたよ!――」
「例の新年の幸せコインのICチップの件?――」
「もしかして事件?事件でしょ?」
「まあ……今のところは……事故ですかね――」
山北さんの転落事故の事を僕は赤葉さんに話をした――もちろんあのコインのことも含めて。
「なるほどね……本当にそうかな?」
「どういうことですか?」
「えーと、山北さんだっけ?仮にその人が転落させられたとして――」
「ゴーグルと新年の幸せコインが犯行に使われたとしたら――」
「転落させた人はなんでそんな面倒くさい事をしたの?」
「だって新年の幸せコインは名前が登録されるコインだし――」
「簡単に足がつきそうな物を犯人は本当に使うと杜鷹は思ってる?」
「……確かにそう言われてみれば……」
「でもさ……その空き会議室は調べてないんでしょ――」
「あの金餅さん事件の時みたいな計画的な犯行だったら分かんないけどね」
赤葉さんの言う通り僕たちはまだ空き会議室を調べてはいない――
新年の幸せコインに登録されている名前は……恐らく……
ガチャ!
「おはようございます、赤葉さん、森咲君」
「おはよう、喜冬」
「おはよう、喜冬さん」
「おはようございます――」
「赤葉さん、体調どうですか?」
「うーん、まだ完全回復ではないかな――」
「今日も調査に行くんでしょ?――」
「また帰ってきたら話、聞かせてよ」
「了解です、じゃあ行こうか喜冬さん」
喜冬さんとほこやぎビルに向かうと僕が立ち上がった際、赤葉さんが声をかけてきた。
「スキンハゲのメール、見ていかなくていいの?」
「あ、そうだった」
「喜冬も一緒に行くなら見た方がいいよ」
「はい、分かりました」
喜冬さんと僕は、局長の赤葉さんが使用しているPCに届いた明堂警部からのメッセージを赤葉さんに見せてもらった。
「なるほど……あのコインの持ち主は……ほこやぎ商事のツアー企画部社員――」
「東川 雫美さんのコインだったと――」
「数日前にビル内で落としてから探していた……」
「詳しくは現場で……か」
「ありがとうございます!赤葉さん!」
「メール見せただけなんですけど……」
「まあ、スキンハゲによろしく――2人共いってらっしゃい」
赤葉さんにお見送りされた喜冬さんと僕は、ほこやぎビルに向かう事にしたのだが……
喜冬さんと外に出た僕は、ここが仮想空間なのかを一瞬忘れてしまうぐらいの寒さであることを体感した……
――寒っ!ほこやぎ町も氷点下零度を下回ってるよ……寒すぎる!
【202X 1月1X日 AM09:00】
【ほこやぎビル 4階 ほこやぎ商事 転落現場】
【残解決時間 145時間】
ほこやぎビル入口で、明堂さんと合流した僕と喜冬さんは、山北さんが転落してしまった現場であるほこやぎビル4階のほこやぎ商事の空き会議室に来ている。
会議室の前にはあの人がいた……萬屋八色警視が……
「おはよう、杜鷹君、久しぶりね」
「お久しぶりです、八色さん、おはようございます」
僕が八色さんに挨拶を返すと八色さんは喜冬さんに声をかけた。
「あなたが雪護喜冬さん?」
「はい、はじめまして、萬屋警視」
「ええ、こちらこそ初めまして――」
「萬屋八色です、萬屋と呼ばれると赤葉や白葉と混同してしまうから――」
「下の名前で呼んでください」
「はい、わかりました、八色警視」
「で?杜鷹君、赤葉の代わりに雪護さんを連れてきたの?――なぜ?赤葉は?」
「……あ……え、赤葉さんは……」
「八色警視、私から説明してもいいですか?」
「ええ、雪護さんが代わりに説明してくださるなら」「はい、分かりました……赤葉さんは前回の金餅さん事件で一睡もしない森咲さんに警告していました――」
「『一睡もせず、集中力が無いまま、万が一推理が間違っていたら責任を取れるのか?』と……」
「確かに……私の妹の赤葉なら間違いなくそう考えるでしょうね――」
「でもそれは、赤葉が絶対に言わない言葉よ」
「ええ……赤葉さんならそうは言いません――」
「だから私がここにいるのです、八色警視」
「……合格、よろしく、雪護さん」
「杜鷹君、良かったわね――」
「雪護さんがいなかったら帰ってもらってたわよ」
「…………はい、すみません」
八色警視には、誤魔化しは聞かない。
赤葉さんが何故来ないのかを誤魔化さずに自分の言葉で説明できるかを僕は問われていた。
だから嘘をつこうとした時点で僕は、調査する事ができず、ゲームオーバーになってしまっていた……
「ごめん――雪護さん」
「大丈夫だよ、森咲君――」
「やっぱり八色さんの迫力が凄いね」
「うん……そうだね」
「落ち込みすぎたよ、森咲君」
「分かった、切り替えていくよ」
喜冬さんは八色警視と何やら話をしているみたいだが、僕は会議室を調べていくことにした。
今回は明堂さんも僕と一緒に周り、説明してくれる事になった。
「森咲、会議室は昨日の鑑識が調べた後のままだ――」
「気になることがあったら聞いてくれ」
「分かりました、明堂さん」
まずはどこから調べようか……やはり会議室のテーブルかな。
会議室のテーブルデスクは、会議がしやすい様に長方形になる様に配置されていて、山北さんが昨日座っていたと思われる席は、窓から1番離れた角の席だった。
その席には、山北さんの物と思われるコートが椅子にかけられており、その椅子の横には山北さんのカバンが置かれていた。
――転落させたいならなぜ、窓に近い方の席じゃないんだ?……うーん……
「明堂さん……山北さんの嵌めていたゴーグルは――」
「山北さんの私物でしたか?」
「ガイシャの私物?――」
「いいや、あのゴーグルはほこやぎ商事のツアー企画部の備品だったよ――」
「新年の幸せコインの件のメッセージにも送ったが――」
「コインの落とし主の東川 雫美さんもツアー企画部の社員さんだ」
「なるほど……ツアー企画部ですか?」
「なんだ森咲、何か引っかかるのか?」
「引っかかってはいないのですが……山北さんが所属していた部署はどこでした?」
「ガイシャが所属していた部署は営業部で――」
「この営業部の部署はこの会議室から近い場所にある――」
「だから森咲は何が言いたい?」
「白葉さんから山北さんの話を聞きました――」
「殺意を向けられていたと……」
「ああ、確かにな……ガイシャは自分より下と判断した社員さんやビルのメンテナンス業者にマウントを取ることで有名で――」
「その分相当、ガイシャを憎んでいた人間は多かったという――」
「萬屋白葉が提供してくれた情報の裏取りは済んでいる――」
「東川さんもそのうちの1人だ」
つまり遅かれ早かれ、山北さんは殺めれていたのかもしれない……でも山北さんが例えマウントを取る人物だったとしても殺める以外の方法もあったはずだ……と言いたいところだけど……これは、あの子が仕組んだトリックの結果だ。
もしかして現実世界の暴かれる側のプレイヤーであるあの子は、マウント取る人間が許せないということなのか?……殺められるほこやぎ町の住人を暴かれる側の妄想犯行計画で選べれるというのなら…………それでも僕は、自分と喜冬さんのハッピーエンドの未来を掴むために絶対に暴いてみせる!
「山北さんの……そのマウント取りで、これは異常だと判断した行動はありましたか?」
「萬屋白葉の情報だと山北さんは、気に入った女性のプライベートを詮索もしていたらしい――」
「東川さんへマウントを取る様になったのは、ガイシャの誘いを東川さんが断ったからだそうだ」
「ははは、分かりやすいな……」
――晴山先輩はそこまでの人じゃないだけマシだな……
「まあ、偶に生まれる組織のモンスターみたいなもんだ、ガイシャには悪いが……でもだからって人を殺めていいもんじゃねえよ――」
「そうだろ?森咲、違うか?」
「そうですね、殺めていい理由になってない……え?転落事故の可能性は無くなったんですか?」
「萬屋警視がここにいるという事は、つまりそういうことだ」
八色さんがいる時点で、殺めた事件に切り替わったと言う事は、僕は今以上にちゃんと調査しなければとならないと悟った……
「……明堂さん、他に山北さんが言い寄っていた社員さんはいますか?」
「ああ、ガイシャが言い寄っていたのは備品管理部の中崎杏さん、萬屋白葉と同じ情報管理部の西平明凛さんだ」
「ありがとうございます、逆に異常にマウントをとっていたのは?」
「ああ、ほこやぎビルを管理しているK.Sビルメンテナンスのリーダー、森南徹さんだ」
「ビルメンテナンスのリーダーさんにまで?!」
「ああ、森南さんへの嫉妬心からではないか?と――」
「萬屋白葉は言っていたがな」
「そうですか……現時点で明堂さんや八色さんは、誰が山北さんを殺めたと思っていますか?」
「チッ!それが解けりゃ森咲、お前はここにいないだろうが!」
――あっ、やばい……キレた……
「明堂君の言う通りよ、杜鷹君――」
「昨日、白葉から事件の報告を受けた時――」
「君がいると聞いたわ――」
「だから君の知恵を借りようと思った――」
「私達もある程度の予想はできてる――でも……」
「確たる証拠が無い……と?」
「そう――西坂さんが起こした事件とはまた違う事件――」
「だから君の力を借りることになるけど……君はどうしたい?」
「先日も言いましたが、どんな理由があれ――」
「人が人を殺めるなんてあってはいけない――」
「だから僕はここにいるんです、八色さん」
「……合格ね」
「その言葉を待っていたの、あの事件の様に頼んだわよ――杜鷹君」
「はい、分かりました!」
八色さんから正式許可を得た僕は、喜冬さんと調査を開始した。
山北さんが転落してしまった要因がこの会議室あるはずだ……
「森咲君……これ……なんだろう?」
喜冬さんが僕に見せてきた物は、窓際のテーブルの角につけられていた小さな四角い機械だった。
「……なんだろうね、これ?……2つ、小さい横穴があるみたいだよ」
「小さい横穴?……森咲君、もしかして……スピーカーじゃない?」
「スマホと無線接続するタイプの!」
「無線接続するタイプの?……ちょっと待って――」
「白いスマホに…………あった!」
「雪護さん、これスピーカーだよ!」
白いのスマホのペアリングリストの画面に表示されていたこの小さな四角い機械の正体は、スマホと無線接続できるタイプのスピーカーだった!
#25 第2の妄想犯行 探索篇 Part 3 完
#26 第2の妄想犯行 探索篇 Part 4につづく!
最後までお読みいただきありがとうございました。




