#23 第2の妄想犯行 探索篇 Part.1
【202X 1月1X日 AM10:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局】
【残解決時間 167時間30分】
「ふぅ――寒っ……暖房……暖房」
「杜鷹君……ほこやぎビルに行くんでしよ?」
「あ、そうだった」
「白葉さんの忘れ物は持った?」
「大丈夫……持ってるよ、じゃあ行こうか、喜冬さん」
23時間振りにほこやぎ町へ来た僕と喜冬さんは、萬屋記録局の局長である萬屋赤葉さんの姉の一人、萬屋白葉さんが勤務するほこやぎ商事が入所しているほこやぎビルへと向かった。
「寒いな――喜冬さん、五感転送は慣れた?」
「私?――だいぶ慣れて来たよ――」
「あとベッドに入ってから、身体を温めてから――」「メガネ型ゴーグルをかけてログインしてるから――」
「ログアウトした時の五感酔いはあまり無いかな」
「え?椅子に座ってゴーグル掛けてないの?」
「杜鷹君……時間停止してても、私達の世界の寒さは変わらないよ」
「そうなの?どおりで五感酔いが……喜冬さん――」
「いい情報を聞いたよ、ありがとう!」
「どういたしまして」
喜冬さんと雑談しながら歩いていると、駅から少し離れた場所にあるほこやぎビルに到着した。
【202X 1月1X日 AM11:00】
【ほこやぎビル 入口】
【残解決時間 167時間】
僕と喜冬さんは今、白葉さんが勤めるほこやぎ商事が入所しているほこやぎビルの入口にいる――
「白葉さんはどこだ……あっ!」
僕たちがほこやぎビルの入口で、白葉さんを待っていると、エレベーターから降りて来た白葉さんが僕たちを見つけて駆け寄って来た。
「ごめんね――ありがとう!」
「大丈夫ですよ!はい、忘れ物のお弁当」
「ありがとう!にしても、あの赤葉ちゃんが――」
「風邪引くなんてね――」
「とりあえず、お弁当ありがと!」
「キャアアア――!」
悲鳴?!どこからだ?
「え?――なになになに?!」
「雪護さん!行こう!」
「えっ?どこに?」
「悲鳴が聞こえた場所だよ!」
「えっ?だからどこ?」
「多分、ビルの裏だ!行こう!」
「私はどうすれば良い?杜鷹ちゃん」
「白葉さん!警察に通報!お願いします!」
「了解!」
悲鳴が聞こえたと思われる方角と僕が急いで向かうと、ほこやぎビル裏には、まだ人集りはできていなかった。
「ここだ!――うっ!」
「杜鷹君!ちょっと待ってよ!」
「喜冬さん!――ダメだ!見ちゃダメだ!」
僕は咄嗟に喜冬さんの視界を手で塞いだ。
仮想空間で起きている事とは言え、これは喜冬さんに見せてたらダメなんだ!
「え?いきなり何?杜鷹君!」
「うっ――杜鷹君……これは現実?」
「そう……これが妄想犯行計画……だ」
「ここまでリアルだと……気持ちが落ち着くまで――」
「時間かかりそう……」
「大丈夫!僕がついてるから!」
ウー!ウー!ウー!ウー!
パトカーのサイレンが鳴り響く中……
僕は、座り込む喜冬さんを落ち着かせていた……
「もしかして――匂いの妄想犯行の時も同じだった?」
「……そうだね……でもここまででは無かった――」
「この感覚だけは、慣れないよ……」
「いくら五感再現された仮想現実であってもね」
――なぜこの人は、ゴーグルの様な物をかけているんだ?
通報を受けて到着したほこやぎ警察により、規制線が張られたビル裏は、封鎖区間と化し、人集りと同じ様に僕たちは、ビル裏から追い出された。
【数時間後……】
【残解決時間 163時間】
「喜冬さん、おかえり」
「ごめんなさい、でもだいぶ落ち着いたから――」
「ありがとうございました、白葉さん」
「いえいえ――あんな衝撃的な光景を見た――」
「あとですもの――落ち着いてないのが普通よ――」
「八色姉さんにはほうこ――あっ!」
喜冬さんと戻ってきた白葉さんが、言葉を止めながら僕の後ろの方へ指を指していた。
白葉さんの指を示した先にいた人物……スキンヘッドの刑事明堂 真警部が、険しい顔をしながら僕がいる場所に向かって来た。
「森咲、おまえさ!また事件現場周辺にいやがって!――」
「赤毛のフリ探はどうした?」
「明堂さん……僕は偶々白葉さんに忘れ物を――」
「届けに来ただけですよ――」
「それと赤葉さんは、風邪でお休みです」
「赤毛のフリ探が風邪ひいたぁ?」
「そうよ、赤葉ちゃんも風邪ぐらいひくわよ――」
「おかしい?明堂ちゃん」
「……げ、萬屋白葉……ということはつまり……」
「そっ!八色姉さんには報告済みよ」
「くっ……八色警視に……」
「いいか森咲、現場だけは絶対に荒らすなよ――」
「それと……ほらよ」
スキンヘッドの明堂警部から渡された物は、白い手袋と袋だった。
「ありがとうございます――明堂さん」
「お礼は……ん?――そちらの女性は?」
「こちらの女性は先日、萬屋記録局に入局した事務員の雪護さんです」
「雪護喜冬です――はじめまして、明堂警部」
「雪護さん?……こちらこそ、はじめまして」
喜冬さんを見て、すっかり鼻の下を伸ばしてしまった明堂さんは、さっきまでの僕への対応と全く違うテンションで、喜冬さんに白い手袋を渡している……
――明堂さん……あなた、奥さんがいるのに……
僕は金餅邸での事件でやってしまった同じミスを繰り返さない為、明堂警部に今回の事件の被害者の方の名前を聞く事にした。
「明堂さん、命の灯火が消えた方の名前を教えてください」
「あぁ……ガイシャの名前は山北悟さん、ほこやぎ商事の社員だ――」
「ガイシャの命の灯火が消えた原因は……今現在の調査段階では、窓から誤って転落した可能性が高いと見ている――」
「転落場所は、ほこやぎビル4階の会議室――」
「会議室を含めて、4階の全フロアをほこやぎ商事が利用している――」
「なんで、4階会議室からガイシャが転落したのかは分からないがな――」
「森咲……本当に転落事故だと思うか?」
「何か引っかかる気がするんだよな……」
明堂さんの言う通り、転落事故にしては引っかかる点が幾つもある……
山北さんがなぜ、4階の会社の空き会議室にいた点も引っかかるけど……
でもまずはビル裏の探索から始めよう。
「明堂さん、ビル裏の調査から始めてみますよ――」
「何か分かったら、報告しますね」
「ああ――頼んだぞ、森咲」
明堂さんからの返事を合図に、探索開始の合図を知らせるUIである帽子を被った虫眼鏡を持つアイコンが、僕の視界に写しだされた。
――このアイコンを見るのは何日ぶりだろうか?、とりあえずビル裏からだ。
「喜冬さん、行くよ――ビル裏に」
「えっ?――今から?すぐに暗くなるよ」
「ほこやぎ警察がいるこのタイミングでしか――」
「ビル裏を正確に調査できないから」
「なるほど……了解です、森咲さん」
喜冬さんと僕は、ビル裏の転落現場に向かった。
【202X 1月1X日 PM16:00】
【ほこやぎビル裏 転落現場】
【残解決時間 162時間】
喜冬さんと僕は、山北さんの転落現場である、ほこやぎビル裏に来ている。
青いビニールシートで覆われた立入禁止エリアを調査するのは、僕は初めてだ、だけど事件解決の手掛かりになるものを探すタイミングは今しかない、むしろこのタイミングを逃してしまったら詰む。
「森咲君――ここで何を探すの?」
「…………」
「ねぇ森咲君、聞いてる?」
「ごめん、聞いてる……何を探しているか、でしょ?――」
「えーと、音を出せる物なんだけど……」
「音を出せる物?」
「そう、人が視覚を奪われた時、次に何を大事にするのか――」
「考えた時、聴覚がヒントになるから――」
「赤葉の事件帳の暗刺のトリックも――暗闇通路で、被害者の方の視覚を奪い、犯人は赤外線ゴーグルとナイフを使って、被害者を殺めた――」
「あの時の犯人は女性だった――」
「でも被害者と犯人の体格差があったけど、音を出せる物で、被害者に隙を作らせて殺めたのは覚えてる――」
「だから暗闇の中で隙を与える事ができる唯一の物――」
「それが音を出せる物だよ」
「……えーと、森咲君?――」
「ここビル裏だよ、お寺さんではないよ」
そう……確かに喜冬さんの言う通り、ここはビル裏だ。
ほこなぎ寺と違って、色々な環境音がある中で音を出せる物を探すのは困難……でも視覚の次に人が大事にする五感は聴覚だと、僕は考えているから音を出せる物が現場にあるはずだ。
「そこなんだよな喜冬さん……ん?――」
「でもどこに?――202X010X?……新年の幸せコイン?」
「森咲、何かあったか?」
「明堂さん……これは?」
「これか……ほこやぎ寺の新年の幸せコインだな――」
「そうそう……確か俺も持ってるよ、ほら――」
「コインの中にICチップが入ってて、名前が登録されてるんだ――」
「なんでこんな所にあるんだろうな、報告にも無かったしな――」
「とりあえず、ICチップの持ち主を調べてみるか」
「よろしくお願いします」
「ああ、そうだもうすぐ日が暮れる……危ないからあまり長居するなよ」
「分かりました、明堂さん――ちなみに明日なんですが……」
「ふぅ……たく、明日も来れるのか?――いやもちろん来るよな?」
「もちろんです!」
「そうだよな!――ふ、じゃあな森咲」
「はい、また明日」
雪護さんを見て、僕が今まで見たことのない顔をしながら、やはり鼻の下を伸ばしていた明堂さんは、ほこやぎ警察署に帰って行った……
「やっぱり生で見る明堂さん――迫力があるよね」
「いや『生で見る』は、ちょっと違う気もするけどね」
「そう?――赤葉さんと明堂さんの例のやり取りも森咲君は、ニヤニヤしながら見てたんでしょ?」
「あーえーと?どうだったかな?」
「その反応!やっぱり見たんだ」
「いやいや喜冬さん、流石に誰かに聞かれたらまずいよ――」
「暗くなって来たし、萬屋記録局に帰ろう」
「了解です、森咲君」
ビル裏の立入禁止エリアが暗くなって来た事もあり、喜冬さんと僕は一度萬屋記録局に帰る事にした。
「あっ!杜鷹ちゃんと喜冬ちゃん!今日はもう帰るの?」
「はい、辺りも暗くなって来たので、明日また来る予定です」
「そうなんだ――こっちはあの後、会社に戻ったら、マ……山北さんの件で、電話鳴り放題だし、社員総出で対応してたからクタクタだよ」
――ん?今、白葉さん、何か言いかけた様な……
「白葉さん……もしかして山北さんの転落した原因、心当たりがあるんじゃないですか?」
「えっ?――知らないよ…………なんてね――」
「杜鷹ちゃんや喜冬ちゃんに嘘をついても私にはメリットが一つもないから、手掛かりの1つの情報として聞いてね――」
「山北さんはマウントルと呼ばれていて、本人は自覚が無かった様だけど、彼に殺意を向ける人は多い――」
「でも組織の中には、そんな感じの人もいるでしょ――」
「それだけ、これは八色姉さんと明堂ちゃんにも報告済み」
つまり白葉さんの話から考えると山北さんは、現実世界の僕たちの会社にいる晴山先輩をさらに別の意味で強化した方だった。でもだからといって、ほこやぎ商事に勤める人の中で、山北さんの転落事故に本当に関わっている人がいたのなら……許されていけない。もしあの子の組んだトリックを実行したのだとしたら……これは僕、仮想の五感探偵森咲杜鷹が妄想犯行計画の暴く側のプレイヤーとして、この妄想犯行は必ず暴かないといけない!
「白葉さん、情報ありがとうございます!」
「いえいえ――赤葉ちゃんと萬屋記録局を支えてくれてる杜鷹ちゃんや喜冬ちゃんにしてあげられるのは、情報の共有、それだけよ」
「ありがとうございます」
「じゃあね、2人共、気をつけて帰ってね」
「分かりました!」
【202X 1月1X PM 18:30】
【ほこやぎ町 萬屋記録局】
【残解決時間 159時間30分】
喜冬さんと僕は、萬屋記録局に戻って来た。
ソファーに対面で座った喜冬さんが、僕に話しかけて来た――
「杜鷹君、1つ聞いてもいい?」
「いきなりどうしたの?喜冬さん」
「なんで杜鷹君は、匂いの妄想犯行を攻略中に仮眠しなかったの?」
「……えっと、なんでだろう?」
「白いスマホの設定画面を一度でも開いた事はある?」
「いや……ない、どういうこと?」
「ふぅ……やっぱり、睡眠ログアウトの設定、変えてなかったのね――」
「もしかして、ほこやぎ町の時間を進めるには、ずっと起きていなきゃいけない」
「杜鷹君はそう思ってた?」
「そうだよ……だってルールに書いてあるじゃないか、解析禁止って」
「やっぱりね……杜鷹君、解析と設定変更は違うよ――」
「例えば……最近五感酔いが減ってきたんじゃない?」
確かに五感酔いは、喜冬さんが探偵ヘルプとして、妄想犯行計画に参加する様になって、大分軽減されたのは確かだな――
夜遅い時間にほこやぎ町からログアウトしても次にログインした時は、なぜか朝……朝?――そうだ!
次の日にログインした時には、ほこやぎ町の時間は必ず朝になってる!
「どうやってやったの?喜冬さん」
「白いスマホのアラーム機能――」
「ここは五感再現されてる仮想現実だから――」
「ほこやぎ町の私達の体調と体力管理も必要だよ――」
「寝かせてあげなきゃ、ほこやぎ町の私達は疲れたままだからね」
五感酔いを軽減させ、ほこやぎ町で起きている以外で朝を迎える方法。
それは白いスマホのアラーム機能だった。
#23 第2の妄想犯行 探索篇 Part 1 完
#24 第2の妄想犯行 探索篇 Part 2につづく
最後までお読みいただきありがとうございました!




