第9話「また笑ってくれた」
「社食で優勝」――その言葉の裏に、二人の距離がまた少し近づく予感がして。
「社食で優勝は笑いましたw たしかに、あれは無敵です」
あのリプライを見てから数日。
結衣は毎晩、その一言を思い出しては、ふわりと頬をゆるめていた。
今日も涼也がXに何か投稿していた。
レシピ動画に、さりげない日常の一コマ、そして……結衣へのさりげない返信。
《……僕もあれ何度か作りましたけど、実際ほんとに優勝でした》
なんでもない一言なのに、たまらなく嬉しい。
会話が続いていく。それだけで、胸の奥がじんわりとあたたかくなっていく。
《実は今日、また社食で食べちゃいました 笑
あれ以来、定食の日を密かにチェックしてますw》
「送信」
スマホを置いた結衣は、ちょっとそわそわしながら画面を眺めた。
すると――通知。
涼也からの返信だった。
《なんと……!社食マスターですね 笑
いつか感想レポート聞きたいかもです》
結衣の指が止まる。
その「いつか」に、少しだけドキッとした。
「いつか……って、なに?」
〈……会いたいって、思ってくれてるのかな〉
早とちりかもしれない。
でも、言葉の端々からにじむ優しさに、どうしても期待してしまう。
“他の誰かにも、同じように返信しているかもしれない”――
そんな不安がふっとよぎっても、今は このやりとりを信じたかった。
《じゃあ、社食マニアとしてお話できるようにネタ集めておきます 笑》
送信してすぐ、また通知が届く。
《楽しみにしてます》
たったそれだけなのに、今日一日分の幸せをもらった気がした。
どうして彼の言葉は、こんなにも優しく響くんだろう。
画面をそっと伏せて、結衣は小さく笑った。
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