第50話「ご挨拶は、家族まるごと」
結衣と涼也、少し緊張気味なとある一日。
穏やかな空気の中に、少しだけ特別な想いが混ざります。
結衣の実家。玄関前に、涼也と結衣が並んで立っていた。
「緊張してる?」
結衣の問いに、涼也は ふっと笑う。
「うん……正直、めちゃくちゃ緊張してるよ」
「でも、うちの家族は そんなに堅苦しくないよ。両親は放任気味で、兄は ちょっと過保護だけど」
「へぇ……放任ってのは ちょっと意外だけど、大悟さんが過保護ってのは、なんか分かるかも」
涼也が玄関先を見つめながら言う。
その視線の先には、あの日の記憶が重なっていた。
「駅前での偶然……今思うと、本当にタイミングが良すぎたよね」
結衣は小さく笑った。
「あのときの一言、いまだに思い出すと顔が熱くなるんだけど」
涼也が少しからかうように微笑む。
「……“本物の方が100倍かわいい”?」
言われた瞬間、結衣の頬がぱっと赤くなった。
肩をすくめて、照れくさそうに視線を逸らす。
そのタイミングで、玄関のドアが開いた。
「まあ、結衣のお相手さんね? どうぞどうぞ、上がってちょうだい」
にこやかに迎え入れる母の声に、少しだけ緊張がほぐれる。
リビングのソファには父の姿。テレビを見ながら、こちらに目だけを向けた。
「本人がいいって言ってるなら、それでいい」
その一言が、案外と心強く感じられた。
「初めまして。藤宮涼也と申します。本日は、ご挨拶に伺いました」
丁寧に頭を下げる涼也に、母は笑顔を向ける。
「まぁ、イケメンで礼儀正しいわ。結衣が選んだだけあるわね」
その声にかぶさるように、奥から現れたのは兄・大悟だった。
「よう、涼也。ちゃんと来たな」
「こんにちは。今日は、お邪魔します」
「もう何度か会ってるし、改まってって感じでもないけどさ。こうして正式に来てくれて、やっぱ嬉しいよ」
「俺も、大悟さんにまた会えて嬉しいです。義理の兄が大悟さんなんて、心強いです」
「駅前で会ったときも、飲みに行ったときも思ったけど──お前、ほんと真面目だよな」
「ありがとうございます。多分……それ、褒め言葉ですよね?」
「はは、わかってんじゃん」
大悟は笑いながらも、真剣な目を向けた。
「最初は正直、ちょっと警戒してたんだよ。妹のことだからな。でも、あのとき感じた直感……間違ってなかったなって思う」
「そう言ってもらえると、本当に救われます」
「まあ、もし調子に乗ったら ぶん殴るけどな?」
「肝に銘じておきます」
横から結衣が口をはさむ。
「いやいや、もしぶん殴られたら私が仕返しするから。涼ちゃんは私が守る」
その言葉に、大悟もふっと笑い、場の空気が一気に柔らかくなる。
母がちょうどお茶を運んできた。
湯気の立つ湯のみと一緒に、優しい言葉が添えられる。
「いいわねぇ、みんな仲良しで。こうやって少しずつ、“家族”になっていくのね」
父はソファに座ったまま、ちらりと涼也を見る。
その視線は静かで、それでいて真っ直ぐだった。
「……ああ。ちゃんと幸せにしてくれたら、それでいい」
涼也は、その言葉の重さを受け止めるように、ゆっくりと深く頭を下げた。
「ありがとうございます。“幸せにする”なんておこがましいかもしれませんが……結衣さんと一緒にいると、俺の方が幸せをもらってるんです」
隣に立つ結衣が、そっと涼也の方を見た。
視線が重なり合い、二人の間に静かなぬくもりが流れる。
二人は自然に微笑み合った。
まるで、言葉なんてもういらないかのように。
二人の距離が縮まった、あの日の出来事。
ずっと心に残っていたあの言葉が、今日のこの時間に繋がっていたのかもしれません。
第12話との繋がりを感じていただけたら嬉しいです。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました。




