第49話「モテ要素しかないじゃん!」
涼也が打ち明けてくれた、静かで強い過去。
それは結衣の中で、涼也への想いをさらに深めるきっかけに。
知らなかった一面を知ることで、心は また一つ近づいて――。
涼也の過去を話した後、結衣は静かに涼也を見つめる。言葉を選びながら、ゆっくりと口を開いた。
「…そんなふうに育ってきたなんて、知らなかった。正直、びっくりしたけど…でも、聞けてよかった。もっと涼ちゃんのこと、大切に思えた気がする」
「ごめんね。なんか…結衣ちゃんといると、つい話したくなって」
「ううん、話してくれて嬉しかったよ。翔平君が、“涼ちゃんが学費稼いでくれた”って言ってたこと、なんとなくすごいなって思ってたけど…そういう背景があったんだね」
「まぁ…弟のために必死だっただけだよ。自分のことは後回しで、とにかく前に進まなきゃって思ってた」
結衣は ふっと息をつき、少し照れくさそうに微笑む。
「でもさ…努力家で、家族思いで、責任感もあって、お金の管理もちゃんとしてて…」
言葉にするうちに、思いがどんどんこぼれ出ていく。
「優しさもあるし、強さもあるし……」
そこで一拍、間を置いてから、ほんの少し笑った。
「…もう、モテ要素しかないじゃん」
涼也は思わず苦笑しながら、少し肩をすくめる。
「いやいや、それは言い過ぎだって」
「ほんとだよ。なんでそんなにカッコいいのに、もっと自慢しないの? 誰かにひけらかしたくなったりしなかったの?」
「うーん…そういうの、得意じゃないし。頑張るのが当たり前だと思ってたから」
「そういうところも、またモテ要素…」
「やめてってば」
笑い合う二人の間に、あたたかな空気が流れる。
「でもね…そんな涼ちゃんが、私にだけそういう顔見せてくれるって思うと、すごく嬉しい」
涼也は静かに頷き、穏やかな声で答えた。
「今までのこと、全部大切にしてきたけど…今は、結衣ちゃんに少しだけ頼ってもいいかなって思ってる」
結衣の瞳がふっと輝く。
「もちろん。いつでも頼っていいよ。むしろ、もっと頼ってほしいくらい」
「ありがとう。これからは、もっと一緒に歩いていこうね」
その言葉に、結衣は優しく笑いながら、そっと涼也の肩にもたれかかった。
静かな部屋の中で、二人の体温が、心の距離をそっと埋めていく。
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