第44話「会いたくて来ちゃった」
激動の先にやっと見つけた安らぎ。穏やかな週末に、心がほどけていく。
チャイムの音に気づいて玄関を開けた涼也は、一瞬ぽかんとした顔を見せた。
「……え?」
「来ちゃった♪ 金曜遅くまで残業あって、行けたら行きたいけど無理かもって言った通りなんだけど……でも、眠気より涼ちゃんに会いたい気持ちの方が勝っちゃって。迷惑だったらごめんね」
「迷惑なわけないよ。ほんとに、嬉しい……サプライズだよ。結衣ちゃん、来てくれてありがとう」
涼也は思わず笑顔をこぼして、結衣の荷物に気づく。
「それ、もしかして……」
「うん。涼ちゃんの好きなケーキと、お弁当も作ってきたの。口に合うかわかんないけど……一緒に食べよう?」
「もう、最高の彼女すぎる……。俺には勿体ないよ、ほんと。このまま充電させて」
そう言って涼也は、そっと結衣を抱きしめた。
彼女のあたたかさが、疲れ切っていた心の奥にじんわりと沁みていく。
そのまま二人でソファに腰を下ろすと、少しの沈黙が訪れた。
でもそれは、心地よくて、安心できる静けさだった。
「涼ちゃん、今日は どんな一日だった?」
「んー……忙しかったけど、今は すっかり忘れたかも。結衣ちゃんが来てくれたから」
「ふふ、それは よかった。私も、来てよかったって思ってる」
結衣は そう言いながら、小さくため息をついた。
「……実は、仕事終わった瞬間までは、まだちょっと迷ってたんだ。
一応“行けたら行くかも”って連絡は してたけど、やっぱり急に行って迷惑かなとか、疲れてたら悪いかなって」
「そんなの、来てくれるだけで嬉しいよ。迷惑だなんて、思うわけない」
涼也は結衣の手をそっと握りながら、ふと思い出したように言う。
「……ていうか、連絡くれれば迎えに行ったのに。朝早くから一人で来るの、心配だよ」
「そっか……でも、涼ちゃんに早く会いたくて、ちょっと急いじゃったの。ごめんね?」
「謝らなくていいよ。でも、次は無理しないで。会えるのは嬉しいけど、結衣ちゃんの方が大事だから」
「……うん。ありがとう、涼ちゃん」
そう話す結衣の横顔を、涼也は優しく見つめた。
「やっぱり、来てよかったな。今日、会えたこと……絶対に忘れないと思う」
そして二人でお弁当を食べ終えた後、涼也がふと微笑みながら言った。
「次は、俺が作るから。楽しみにしててね」
「わー嬉しい!大人気の料理研究家の手料理をひとりじめできるなんて……私、幸せすぎてニヤけちゃう」
「俺も結衣ちゃんの手料理をひとりじめできて、幸せだよ」
二人で顔を見合わせ、思わず照れ笑いがこぼれる。
ほんのり灯りが揺れる部屋の中で、心まで温かくなるような、穏やかな時間が流れていた。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!