第24話「“聴き専”だった私の、一歩目」
一つの歌声が心の扉を開けた。
その一歩が、結衣の恋の始まりを静かに照らしていきます。
初詣から帰宅した夜。
お風呂から上がって、なんとなくスマホを手に取る。
ふと、ずっと“聴き専”だったポケカラに、登録してみようかなと思った。
──あの歌を聴いたのが、全ての始まりだった。
たった一つのリンク。たった一曲の歌声。
何気なく見ていたXのプロフィールに貼られていた、ポケカラの「あーー」さん。
数百曲も公開されている中で、偶然聴いた、たった一曲。
あれがなければ、私は今も“好き”という気持ちに気づけなかったかもしれない。
「……登録、してみようかな」
小さくつぶやいたけれど、指は なかなか動かなかった。
“聴くだけ”だった世界に、自分が何かを残すことになるなんて、思ってもみなかったから。
「……うん」
結衣は、そっとスマホを操作してログイン。
本当は少し緊張しているけれど、それでもどうしても、伝えたい気持ちがあった。
あの曲──ずっと繰り返し聴いていた、あの一曲にコメントを残そう。
そう思って探したが、ページを開こうとしても、もう存在しなかった。
「……そっか。消しちゃったんだ……」
仕方なく、別の投稿のコメント欄を開く。
少し迷って、それでも心を込めて打ち込んだ。
文章を打っては消し、また打ち直す。
この一言だけで、本当に伝わるのか不安になった。
でも、それでも──たとえ届かなくても──
この気持ちは、きっと本物だから。
「おかげで付き合うことになりました❣️」
もちろん、返信はない。
プロフィールには「コメント不要」「返信しません」と明記されていたから。
でも、それでいい。
ただ、伝えたかっただけ。
──この恋の、始まりの場所へ。
画面を閉じた後も、胸の奥は ほんのりあたたかかった。
お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!