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再生回数7回のラブストーリー  作者: 市善 彩華
第2章 コスモス ── ふと、重なる気持ち
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第12話「本物の方が100倍かわいい」

週末のモールで偶然出会った涼也。

兄との何気ない会話に、結衣の胸がざわめく。

思わぬ一言が、心の奥に静かに波紋を広げて──。

週末の午後、久しぶりに兄と会った。


駅前のショッピングモールで待ち合わせて、他愛もない話をしながら ぶらぶら歩いていたときだった。


「なあ結衣、お前さ……もうちょっと気をつけろよ」


「……なにが?」


「SNS。アイコンもプロフィールも、出し過ぎ。加工してるっつっても、あれぐらいならすぐ特定されるぞ」


「え、でも別に困るようなこと何も載せてないし。デジタルタトゥーくらい知ってるし、気をつけてるよ」


「お前が気にしなくても、世の中には変な奴いっぱいいるんだよ。万が一、アンチとかに絡まれたらどうすんだ」


そんなやりとりをしていたとき。


ふと視線を上げると、ほんの数メートル先に涼也さんの姿が見えた。


スーツ姿のまま、コンビニの袋を片手にこちらを見ていた。


「あっ……」


私が口を開くより先に、彼がゆっくりとこちらへ歩いてきた。


「こんにちは。偶然ですね」


「あっ……こんにちは」


横にいる兄が、少し警戒したように私を見る。


「……誰?」


「あ、えっと、会社の……」


私が言い淀んでいると、涼也さんが軽く会釈した。


「はじめまして。涼也と言います。結衣さんとは、仕事関係で」


兄がじろっと私を見てから、涼也さんに向き直った。


「結衣とSNSの話してたんです。アイコンとか、ちょっと危ないかなって」


「加工してるから大丈夫だよ、って結衣は言うんですけどね」


「そういうとこ甘いんだよ。顔出し系って、何かあったとき本当怖いんだから」


涼也さんは少し考えてから、ぽつりと呟いた。


「……でも、加工されてても、僕は本物の方が100倍かわいいと思いますけどね」


その言葉に、私も兄も一瞬きょとんとして、時が止まったみたいになった。


「なっ……何、急に」


「いや……すみません。つい、口が滑りました」


そう言って、彼はちょっとだけ顔を赤らめて目を逸らした。


兄がぽかんとした顔で私を見る。


私はもう、恥ずかしさでいっぱいだったけど、どこか嬉しかった。


“本物の方が、100倍かわいい”──


その言葉が、ずっと胸の中でぽわんと響いてた。



(駅前での別れ際)


「……あ、よかったら俺の連絡先、教えときますね」


「え?」


「妹のこと、今後何かあったら教えてください。一応、兄なんで」


「……はい、わかりました」


スマホを差し出し、連絡先を交換する。


二人のやりとりを、私は少し離れた場所から見守っていた。


なんだか、ちょっとくすぐったい気持ち。


二人の間に流れる空気が、どこかあたたかくて。


思わず、口をついて出た。


「……涼也さんみたいなお兄ちゃんなら、よかったのに」


自分でも、何を言ってるんだろうって思った。


でも本当に、そう感じたから。


きっと、兄には聞こえてなかったと思う。

涼也さんには──どうだろう。


ふと目が合って、彼が優しく微笑んだように見えた。


胸の奥が、ふわっとあたたかくなった。

お忙しい中、読んでいただきありがとうございました!

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