第13話「──バレてないよな?」
抑えてきた気持ちが、ふいに揺らぐ。
大悟の言葉が、涼也の胸に刺さったとき──
結衣への想いが、静かに試される。
たまたま行き先が一緒だっただけ。
結衣ちゃんと、結衣ちゃんの兄──大悟さんと駅まで歩いた帰り道。
俺は、結衣ちゃんが乗った電車が見えなくなるまでホームに立っていた。見送るように、最後までその横顔を目で追っていた。
まいったな。
バレてないよな──って、何がって話だけど。
あのとき、大悟さんに言われた一言。
「妹のこと、今後何かあったら教えてください。一応、兄なんで」
あの流れで連絡先を交換した。
名乗るときも少し緊張したけど、それ以上に「妹のこと」って言葉が胸に引っかかって仕方なかった。
*
電車を降り、家に向かう途中。
ポケットの中のスマホがブルッと震えた。
──大悟さんからだ。
『結衣のこと、よろしくお願いします。変な奴とかいたら、すぐ教えてください。』
既読をつけた後、すぐには返事を送らなかった。
というか、何を返せばいいのか迷った。
“よろしくお願いします”って、あの人、どこまで気づいてるんだろう。
ただの“仕事で関わってる人”だし、兄としての建前なのか。
それとも──。
いや、そんなのは俺の考え過ぎだ。
……多分。
*
それにしても、あのときの結衣ちゃん。
「涼也さんみたいなお兄ちゃんだったらよかったのに」なんて、冗談でも反則だって。
「……それだと、付き合えないからお兄ちゃんじゃなくてよかったかもね」って、喉まで出かけた言葉は どうにか飲み込んだ。
言った瞬間、絶対バレる。俺の気持ち。
ほんと、付き合ってなくてよかった。
“彼氏”って立場で、隣にいたら絶対耐えられなかった。
笑うときの顔とか、眠そうな目とか、どうでもいいLINEに律儀に返信してくれるとことか。
惹かれる要素しかなくて、好きにならない理由がどこにもない。
バレてないよな……?
でも、大悟さんが気づいてるっぽいってことは、ひょっとして──。
告白のタイミング、今じゃない。
もっとちゃんと、結衣ちゃんの隣に立てるって自信を持てるようになってから。
──それまでは、せめてそばにいさせてほしい。
その頃、大悟は こんなふうに思っていた。
「いつか自分にも、こんなふうに心が動く出会いがあるのだろうか」
涼也と結衣の関係を見守りながら、大悟は少し切ない気持ちを抱えていた。
一方で、涼也は その大悟の気持ちを、どこか照れくさく感じながらも、心の中で思った。
「大悟さんには、俺と結衣ちゃんがそんなふうに見えてるんだな……」
涼也は、出会って間もないのに、いつの間にか大悟と頻繁に連絡を取り合い、結衣のことを相談したり話す機会が増えていた。
その流れは、自分でも驚くほど自然で、少しずつ心の距離が縮まっていることに気づいていた。
ふと、あの日の大悟の言葉がよみがえる。
――「結衣と涼也は、出会うべくして出会ったんだろうな。きっと、うまくいくと思うよ」
「こういう出会い、か……」
涼也は一人、微笑みながら心の中でつぶやいた。「確かに、運命みたいなものを感じたかもしれないな」
その後も、結衣のことを思い出しては、涼也は ついニヤニヤしてしまうのだった。
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