12:国境会戦
あけましておめでとうございます。
これからも拙作をよろしくお願いします。
6月1日 午前5時20分 ミレリヤ帝国領ケンドラン ケンドラン方面軍総司令部
宣戦布告が示された直後の空爆と陸自地上部隊による反転攻勢が開始されてからおよそ5時間。
空襲によって前線基地が壊滅的な打撃を受け、展開する地上軍もニホン軍の猛攻を受けていることに5時間近くが経過してケンドラン方面軍はようやく自軍が危機的状況にあることを理解した。
前線部隊からの断片的な通報を司令部は黙殺し、たかが蛮族と侮っていたことでケンドラン方面軍は黄金よりも貴重な時間を浪費してしまったのだ。
首都ヒガリのミレリヤ人居留区にある高級住宅街で寝入っていた方面軍総司令官テナ-マス-アルヴィス大将が叩き起こされ、司令部指揮所に到着したのはつい15分ほど前。
巨大な戦況盤の麓では前線部隊との通信に追われる士官たちの怒号が飛び交い、幼年学校の生徒でも戦況盤を一瞥するだけでその事態の深刻さが分かるというものだ。
最前線に展開する2個師団はニホン軍の怒涛の波状攻撃によって壊滅し、前線は事実上崩壊していた。
だが唯一救いなのが第25師団の存在であろう。
同部隊は前線が崩壊したとみるや否や、拠点喪失で混乱に陥っていた3個師団を叱咤し防衛線を構築したのである。
つまりは押し寄せるニホン軍の侵攻を一時的に停止させ、ケンドラン方面軍に会戦を挑む機会を25師団は与えたのだ。
「空軍は?空軍は何をやっているのだ。前線基地が破壊されたとはいえ航続距離内に飛行場があるではないか?」
怒気を交えながらアルヴィス大将は皆々を睨みつけたものだったがそれは無理があるというものだ。
確かにミレリヤ空軍の主力戦闘機ディラ-27やエスメルは3000kmの航続距離を誇るが、戦闘行動半径800kmという括りで見ると前線から遠く離れた飛行場から向かおうにも現地にいられるのは僅か15分程度で無理がありすぎる。
「本国は何と言ってきている?」
慌てふためく将官たちの中で比較的冷静だったのは参謀長のヴェアン-ガロ-ロディアス中将だろう。
彼は側にいた通信士官を呼び寄せた。
だが通信士官は浮かない表情で言った。
「それが……上に報告し指示を乞うと言ったきりで何の返答もありません。陸軍総司令部の方は前進せよ、前進せよと盛んに通達してきますがーー」
この時、ケンドラン方面軍の面々は知らなかったがミレリヤ本国では夜中であったこともあり当直士官以外は一部の将官のみしか事態を把握していなかったのだ。
ニホン軍が弱小なることを言い聞かせ、自分たちもまた信じてきた彼らの身としては、世界最強であるはずのミレリヤ軍が敗北するなど想像の範囲外だった。
だが、ようやくそれらが真実なることを理解した彼らは慌てて彼らよりもはるかに上の存在、ミレリヤ総統であるゼネウスに急報を届けた。
しかし、その頃には後に国境会戦と呼称される日本自衛隊とミレリヤ軍の全面衝突が始まる寸前であった。
ミレリヤは再び貴重な時間を逃したのであるーー。
ーーー
午前6時01分 サドレア大陸派遣部隊 陸自第3師団 第3戦車大隊
朝日が照らす大地を地響きを立てながら軽快に疾走する鋼鉄の獅子の群れーー。
それこそが陸上自衛隊が誇る10式戦車あるいは90式戦車の姿だった。
鈍重そうな見た目とは裏腹に戦車大隊は味方の航空支援の援護を受けながら敵陣地に突進している。
「前方、敵機関銃陣地ーー。弾種榴弾、照準用意」
戦車長の宇野 仁 准尉はディスプレイに映る敵陣地を見とめた。
10式戦車は戦争の高度技術化に伴い、現代戦に対応する高度なコンピューター装置からなる最新のC4Iシステムを備え、車輌同士でのリアルタイムで射撃データ共有や味方戦車の燃料や損害などの把握をできるだけでなく、ネットワークシステムによって戦車部隊と普通科部隊が一体化した作戦行動を取れるように設計されている。
その高度な機器を搭載したうえで強力な滑腔砲や装甲類を充実させるには当初のコンセプトであった日本全国で運用可能という目標からは逸脱してしまったがこれは開発技官の「新世界において日本はいずれ自衛隊を海外派遣する」という未来予測によって10式戦車は90式をベースとした設計となった。
ガゴンーーッと砲弾が装填される音と同時に宇野准尉は言った。
「目標、敵機関銃陣地。撃てーーっ!」
射撃ーー。
薬莢が排出される音ーー。
そして次弾を装填しようとする給弾装置ーー。
「続いて撃て!」
迫り来る濃緑の悪魔に恐怖したミレリヤ兵らは立て続け様に対戦車ロケット砲を豪快に放つが、10式の複合装甲は難なくとそれを弾き返した。
そして発砲ーー。
90式戦車をベースにしながら重量を2トンも削減できているのは複合装甲の成せる技であった。
軽量化と重防御という本来対立する両者を両立できたのは単に科学技術の進歩とは括れず、技術者の努力の賜物だった。
塹壕が踏み潰され、逃げ惑うミレリヤ兵に容赦なく12.7ミリ弾の弾幕が浴びせられる。
味方の普通科部隊が陣地を制圧しようと前進してきた時、警戒レーダーの甲高い警報音が鳴った。
「10時方向、敵戦車接近!」
徹甲弾が装填され矢継ぎ早に砲塔が素早く旋回した。
ディスプレイ越しに映る敵戦車は74式戦車のような傾斜角を多用した前時代的な印象ーー。
その敵戦車が発砲した。
車体に走る衝撃ーー。
ミレリヤ軍の主力戦車「ヴェルガー3」の115ミリ滑腔砲が放った徹甲弾は確かに10式戦車に直撃した。
だが分厚い正面装甲の上にさらに増加装甲が施された10式を撃ち抜くには威力不足であったーー。
「目標照準中の敵戦車。撃てっ!」
敵戦車の砲撃を避けるために回避機動を行いつつの射撃ーーいわゆるスラローム射撃だ。
発砲ーー。
装弾筒付翼安定徹甲弾は硬い戦車の装甲を喰い破り、内部でその威力を解放したのだったーー。
ーーー
午前8時10分 ミレリヤ軍ケンドラン方面軍 第25歩兵師団 司令部
ニホン軍の反攻が始まったとケンドラン方面軍首脳部が理解した時には既に前線は事実上崩壊状態にあり、押されるがままになっていたが、第25師団が中心となった遅滞防御で何とか数時間程度の時間が稼げた。
……だが4個師団で臨んだ会戦の戦況も思わしくない。
ニホン軍はこちらの装備を上回る技術力を持っているだけでなく、卓越した指揮統制とそれを実現できる練度を兼ね備えていたーー!
正面の2個師団の対応に追われている間に南北から迂回機動した機甲部隊に北方の第31師団と南の第29師団は鮮烈な圧倒的攻勢に防御を余儀なくされており、気づけば第25師団以下4個師団は半包囲状態にあったのだ。
ニホン軍の爆撃を避けるために巧妙に隠された塹壕内の師団司令部では狭い壕内に設置された机に師団長のカーダスと幕僚たちが戦況図を睨みつけていた。
「北の第31師団は我がミレリヤ陸軍の第2機甲師団と同等の戦力とのこと。隷下2個連隊が撃破され、危機状態とのことです」
「第29師団は敵空軍の濃密な近接航空支援により全滅に等しい損害を受けているとのこと」
「我が師団は辛うじて戦線を維持できていますが敵戦車部隊の進軍で後退を余儀なくされています」
次々と凶報が届く中、カーダスは瞑目しながら思考していた。
現在に至るまで会戦での死傷者は1万名以上。
そのうち戦死者は3000名近くで、貴重な戦力を刻一刻とすり減らし続けている。
このままでは我が軍は完全に包囲され全滅してしまうーー。
重々しい口調でカーダスは言った。
「撤退を……具申しよう」
カーダスは賢明だった。
ここで独自の判断で撤退し混乱を巻き起こすよりも上級司令部からの命令によって後退する方が賢明だと判断したのだ。
無念さのあまりに男泣きする者もいた。
戦前から政府が喧伝していた東方の蛮族は決して弱小ではなく、強力な軍事力と闘争心に溢れた戦士たちの国だった。
だが、整然とした撤退は行われなかった。
方面軍司令部との通信回線を開いた直後、第31師団が壊滅し敗走したとの凶報が届いたのだーー。
時に午前10時40分、第31師団の敗走によって戦線は崩壊。
国境会戦と呼称される自衛隊とミレリヤ軍の最初の全面地上衝突は自衛隊の勝利によって終わったのだった。
しかし、戦闘に勝とうともまだ日本は戦争には勝っていないーー。
文中にもある通り10式は現実世界とは違い90式や欧州諸国の重厚な戦車として誕生しました。
まぁ、海外派遣も考慮しないといけないという視点から見れば整合性は取れているかな……?
テストやら何やらで忙しいですが何とか今月中にもう1話か2話と新世界地図を投稿します。




