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新世界戦記  作者: アルビオン
第一章
11/31

11:開戦

感想と高評価、ありがとうございます

開戦


6月1日 午後23時59分 日本国東京 首相官邸 危機管理センター


サドレア亜大陸において日本がミレリヤと軍事衝突しまもなく2ヶ月が経過しようとしている。

広大な面積を誇る危機管理センターの中は異様な空気に包まれていた。

官僚や職員が動き回るのに対し、大河内以下閣僚らは瞑目し、ただ時計の針が刻む音のみが彼らを支配しているーー。

外交交渉が決裂する要因となった最後通牒の期限はあと数十秒もしないうちに切れる。

今まさに第三国ではミレリヤの代表団が交渉団に宣戦を布告する旨の文書が渡されようとしているところだった。

同時に危機管理センターの大型モニターにはミレリヤの国営放送が流れており、連中の総統とやらが開戦演説を行おうとしているところだーー。


そして日付が変わったことを告げる時報が鳴ったーー。

「総理、交渉団によるとたった今ミレリヤ帝国より宣戦が布告されました……」

そう耳打ちされた大河内は冷静に頷き、古賀 統合幕僚長に問いかけた。

「古賀くん。ミレリヤ軍はいつ頃に動き始める?」

「各種諜報活動により少なくとも夜が明けてからと判断しております」

大河内は一同を見渡し、言った。

「自衛隊に対し、防衛出動を発令。サドレア亜大陸よりミレリヤを排除する」

時に6月2日午前0時5分、大河内総理は戦後初となる防衛出動を発令。

サドレアに鉄の嵐を吹き起こす号令が下ったのだ。


そして時を同じくしてディズナス-ヴィラ-ゼネウスとかいうミレリヤの総統が演説を始めていた。

『ーー愛国心に溢れるミレリヤ軍将兵よ!残虐なる蛮族ニホン人は高貴にして優等人種たるミレリヤ人の差し伸べた手を振り払い、あろうことか牙を剥く始末!このような蛮行を諸君らは許せるか!?いや、そうではない!親愛なる同胞たちに告ぐ。我ら栄えあるミレリヤ帝国は悪逆なるニホンに対し宣戦を布告したことをここに宣言するーー!』

なるほど、これが連中の首魁かーーと一同は映像に釘付けとなっている。

その後も続く演説を無視し、大河内は言った。

「早朝に臨時国会で開戦演説をするがーー古賀くん。第一撃はどのような具合になる?」

ゼネウスの演説映像は角のモニターに追いやられ、代わってサドレア亜大陸とその関連地図を映し出す。

「まず空自戦闘機部隊によって飛行場などの重要施設を空爆。続いて海空の爆装機が敵地上軍への空襲を開始します。それと連動し、サドレア東部で布陣していた陸自地上部隊が前進を開始。包囲撃滅を目指して機動しつつ上陸作戦を展開し第二戦線を構築します」

ちょうど地図上に爆撃隊を示す輝点が表示され、高速で敵基地に向かって移動している。彼らが目標に到達するまでおよそ1時間半。

敵基地を攻撃してからは最早後戻りもできないことを誰もが知っているーー。

「海上自衛隊は上陸作戦の支援の後、洋上に展開する敵艦隊を撃滅。続いて敵海軍基地を空母戦力を持って、爆撃しますーー」


『戦争はたった一発の銃弾で始められる。だが、終わらすには途方もない苦労がかかる』とは古人の言葉だ。

仮に全ての作戦が成功し、ミレリヤ軍に甚大な被害を与えてももしそれで敵が屈服しなかったらーー?

今の日本の国力では敵本国、つまりはサドレア亜大陸を越えてミレリヤ本土まで攻め入ることなど到底不可能だ。

したがって最終的には外交的解決になるーー。


そして銃後ーー。

戦時に突入しても“余程の事“がない限り、国民にまで戦争が波及することはないだろうが市井では今にも始まる戦争の気配に怯え、各方面で混乱が起こり始めている。

例えば『本土決戦が勃発する』という流言飛語を間に受けた家族世帯では買い溜めに走り、とある地方の町内会ではいざ本土決戦が勃発した場合に備えるとして樺太帰りのほぼ呆けているも同然の100歳をとうに超えたご老体を招いて竹槍訓練を始める始末だ。


動揺、混乱ーーありとあらゆる負の感情が日本を覆い、そしてそれは国会と官邸前の抗議活動として姿を表している。

かつて安保闘争のときに国会前に集結した時よりも遥かに上回る群衆ーー。

老若男女問わず、文字通りの“大衆”は単なる報復や反戦などを主張するためにこの永田町に集結したわけではなかった。


「皆、怯えているのだろうな……」

小休止の最中、ガラス越しに見える群衆に大河内はポツリと呟いた。

「ですがこのままでは万が一暴発した時、収拾がつきません。警視庁からは万が一の暴発に備えて規制の進言がありましたが」

傍らに控える城山 官房長官が言った。


「ーー戦後、我が国は安全保障について官民一体となって深く考えたことはなかった。それは平和を維持してきたということで誇るべきことだ……。だが、新世界に転移して現在に至ってからはそうもいかなくなったがな」

大河内の静かな独白は総理大臣としての責務からくる無念のような感情が含まれていた。

そしてサドレアでは命懸けで戦おうとする自衛官たち、そして銃後では経験することのなかった戦争に怯える民衆ーー。

深呼吸をし、大河内は力強い意志を持った眼で呟いた。

「彼らを勇気づけんといけないな……」



同刻、サドレア亜大陸上空ーー。



常闇が支配する空を切り裂くように通過する先鋭的な機影ーー。

電波探知を避けるために地を這いながら飛行する第6攻撃隊は巧みに山間部を掻い潜り、目標たる敵前線基地を目指していた。


今頃、他の攻撃隊も自分たちと同じように地表接近を示す鬱陶しい警報音に耐えながら飛んでいるのだろうーーと第6攻撃隊編隊長の須崎 3等空佐は感慨に耽った。


須崎機であるF-2戦闘機は敵艦隊に攻撃を仕掛ける支援戦闘機として生を受けた機体だった。両翼のハードポイントに対艦誘導弾4基を搭載できるという破格の攻撃力は戦闘機としては異例の能力であろうーー。

開発当時の貿易赤字に悩むアメリカの圧力からF-16をベースとする開発になってしまったものの、当初の目標を達して要撃/支援戦闘機の区分廃止後はマルチロール機として活躍している。

今回の空爆任務では両翼に積める限りのありとあらゆる誘導弾、爆弾、ロケット弾の上に増槽を搭載したことで操縦桿が重かった。

だが須崎3佐にとっては物理的な重さよりも精神的な重さーーつまりは自身が開戦の火蓋を上げる者としての重圧感が彼の身体を支配しているーー。

だがやがてその時は訪れたーー。

『隊長機より全機、爆撃陣形に移行ーー』

単縦陣で密集していた編隊は一糸乱れぬ横滑りで左エシュロン隊形に移行ーー。

『攻撃を許可する。攻撃開始!』

その瞬間、編隊は堰き止められていた水が流れていくかの如く急上昇ーー。

立て続け様にミサイルや誘導爆弾を投下したのち、翼下に取り付けられていたありとあらゆる兵装を投下したーー。



ミレリヤ軍前線基地「ハイファ」に据え付けられた警戒レーダーが第6攻撃隊を探知した時にはもう遅かった。

基地のレーダー、滑走路、弾薬庫などと考えられる限りの重要施設に空対地ミサイルAGM-65やJDAM、クラスター爆弾といった爆弾が炸裂しその能力を喪失させる。

炎上する司令部や黒煙が立ち上る状況にようやく敵襲という事態を飲み込めた兵士たちは慌てて戦闘配置に取り掛かる。

そしてけたたましく鳴り始めた空襲警報音ーー。

「敵襲ーーっ!」「敵機接近、超低空ーー!」

それはミレリヤ兵にとって晴天の霹靂だった。

ニホン軍は弱小な軍備しか持たず現代文明を持たない後進的な国だと聞かされてきた者たちにそれを疑う心はなかったし、敵手が自分たちと同等あるいはそれ以上だと考えたこともなかった。

だが連中は、ニホン軍は卑劣にも奇襲攻撃を仕掛け、驚愕するミレリヤ人たちの上空を舐めるように自軍と同じように先鋭的な機影の戦闘機が通過する。

翼下よりロケット弾が次々と吐き出され、駐機していた戦闘機に命中してゆく。

「馬鹿な……!」

絶句し立ち尽くす基地防空隊指揮官は己の使命を思い出し、健在な対空陣地に飛び込んだ。

ちょうど兵士たちが眠っていた移動式防空ミサイルの発射装置を叩き起こし、発射準備を終えようとしているときであった。

先に発砲を始めていた対空機関砲に取り付いていた隊員が叫んだ。

「こっちに来るぞーーっ!」

兵士たちが迫り来る新たな脅威に気付いた時には、チャフ、フレアを撒き散らしながら低空侵入したF-2戦闘機が陣地に向けてロケット弾を発射していた。

「悪魔め……!」

兵士たちの意識は爆風と共に途絶えたのだった。


第6攻撃隊は戦果を確認したのち、上昇しつつ編隊を組む。

全機無事であることに安堵した須崎3佐は自身らを指揮するAIWACSことE-767早期警戒管制機との回線を開いた。

『ーーE-767。第6攻撃隊は予定通り敵基地破壊を完遂。合流空域への案内を求む』

ややあって安堵が混じった声が共に須崎3佐の耳に届いた。

『AIWACSより攻撃隊。そのまま高度30000を維持しつつポイントDまで離脱せよ。なお、貴隊の針路方向に迫る脅威はなし』

『アタック・リーダー了解。他の隊も無事かーー?』

『こちらAIWACS、全攻撃隊目標の破壊を達成だ。第4攻撃隊は敵戦闘機とやり合ったらしいーー』

若干の間を置いて担当官は言った。

『ーーそうだ、良いものを聴かせてやる』

『………?』

怪訝そうな表情をする須崎3佐の耳に不快なノイズが走る。

音声を転送してるのかーー?と顔を顰めた須崎3佐だったが直後に鮮明な男性の演説する声が聞こえた。それも威厳のあるーー。

『ーーよりこの新世界に転移し7年。飢餓、資源不足、経済不況というありとあらゆる苦境を日本は乗り越え、平和主義を堅持しながら新世界各国と友好を結び、良き隣人であろうとしてきました。


しかし、ミレリヤ帝国なる侵略者は対話を希求する我が国に銃弾を浴びせ、事もあろうに戦争への偽装工作を繰り返した。虎に頭を咥えられがら道理を語ることはできない!宣戦布告が言い渡された以上、私は内閣総理大臣として戦場に身を投じる自衛隊員、そして動乱の終結を願う国民の皆様と共に闘う!


これから猛々しい波濤が押し寄せてくるでしょう……しかし日本政府は約束します。如何なる恫喝や暴力を受けようと、決して屈することはないとーー!』


その後も流れ続ける演説を耳に通しながら須崎3佐はポツリと呟いた。

「うちの最高指揮官、案外立派だったんだな……」

色々補足するのを忘れていました。

・ミレリヤ艦隊への対処に当たっていた海保巡視船部隊は既に撤退している

・サドレア亜大陸には派遣部隊全てが集結している

・本作での「いずも」型護衛艦は正規空母として就役

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