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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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開宴ですわ!

「皆、飲み物は持ちましたわね」

「あぁ、それじゃあ」

『かんぱーい!』


 春、いつも通りの日常にほんのささやかなイベント、桜を見る回こと花見回だ。

 ちなみに今回は飲酒無し、理由はコイツ等が酔うと面倒くさいから。

 なので皆飲み物はジュースかお茶だ。


「場所取りお疲れ様だね、ゆう君」

「ん、どうも」


 義姉さんはこういう時、直ぐに労いの言葉が出て来るのは社会人だからだろうか。その言葉に続いてアイネとトモリさんからも「お疲れ様です」と言葉を掛けられる。


「ていうか場所取りってなにしたのよ」

「うーん? 朝4時からここで座って場所の確保してたくらいだな」

「そこまでする必要あるの?」

「……無いな」


 実際今日は平日なのもあって、ぶっちゃけ人が全然居ない。まあ、ちらほらとは居るが、少なくとも場所取りしないといけないほどではなかった。


「まあ、これも一つの楽しみってことでいいんじゃないかと」

「そういうもの?」

「そういうもんだよ」


 でも、シュエリアと同じくエルフのアシェからしたら花を見るために場所取りなんておかしな話かもしれないな。コイツも見飽きてそうだし。


「ユウキも暇ですわよねぇ」

「お前に言われたかねぇよ」


 コイツの思いつきで始まった花見の為に場所取りしてたってのに、暇人扱いされるとはなんとも癪である。


「まあそんなことより……」

「そんなことってお前なぁ」

「そんなことより、早速暇ですわ」

「あぁ……」


 まだまだこれからって時に、何を言っているんだこの阿保は……と、出会った頃の俺なら思っただろうが、今の俺ならコイツの言っていることがなんとなくだがわかる。

 つまりあれだ。


「進行しろと」

「ですわ」

「なんで今のでわかるのよ」

「いや、付き合い長いから」

「まだ一年でしょ……」


 いや、一年も一緒に暮らしてたら結構見えて来るものもあると思うんだけど、どうだなんだろう。


「ではとりあえず、最初は軽い口上……はシュエリアが凄く嫌そうな顔をしているので飛ばして、さっそく芸の披露会から行こうと思う」

「芸の披露ね、一応聞いていたから仕込みはしてきたけれど」

「アシェってそういうとこ真面目よね」

「いつも不真面目なあんたに言われてもねぇ」

「わ、私もやりますっ」

「わたし~も~」

「お姉ちゃんもできるよ!」

「よしよし、皆やる気は十分っと」


 シュエリアだけ確認は取れていないが、まあコイツに限って何も用意していないということはないだろう。


「では早速、一番手は誰から行こうか」

「じゃあわたくしから――」

「シュエリアはトリで」

「――なんでですの?」

「ほら、真打は最後に登場するものだし」

「さらっと嫁に高いハードル押し付けやがりますわね」

「やや、シュエリアこんなん得意だろ?」

「そんなこともねぇですわ」

「仕方ない、じゃあ俺がトリで」

「自分から上げたハードルよく回収しようと思いますわね」

「ケガするのには慣れてるからな」

「もうケガする前提ですの……?」


 素人芸なんて大ケガ必死である。その程度の覚悟も無ければやれないのだ。


「で、最初は誰からやるのよ?」

「あぁ、そうだったな。んーじゃあ……アシェやるか?」

「ふふん、いいわよ?」

「おー。やる気ですわねぇ」

「ま、大したことできないけどね」


 そう言ってアシェは立ち上がると俺達から少し距離を取ったところで再度座った。


「何するんだ?」

「これから指を詰めるわ」

「……はい?」

「あ、間違えた。人体切断マジックをするわ」

「それ間違えた内に入るのか?」

「そして回復魔法で即座に直すわ」

「まて、それ本当に斬っちゃってるじゃん!」

「駄目?」

「駄目だろ!!」


 この阿保は何を考えてんだ。こんな公共の場所でやることじゃないだろ……。


「でも確実にマジック(魔法)よ?」

「確かにマジックだけれども!」

「なるほど……確かに魔法を使えばマジシャンとして稼げますわね」

「お前は影響を受けるな!」


 エルフっていうのは実は皆馬鹿だったりするんだろうか。コイツ等だけだといいんだけど。


「とにかく駄目だから!」

「えー……せっかく準備したのに……」


 何故かやけに不満そうなアシェだが、こんな場所で流血沙汰なんてできるわけないので我慢してもらおう……。


「さて……とりあえずアシェの芸は無しということで、時間は押してないが、シュエリアが暇するといけないから次いくぞー」

「わあ、シュエちゃん優先してるのまったく隠さないねゆう君」

「だって隠してもわかるだろ」

「まあそうだけどね……」

「で、次は誰が?」

「わたし~いきます~」


 そう言って立ち上がったのはトモリさん。一体どんな芸ができるのだろうか。


「抜刀術で~リンゴを~うさちゃんに~しま~す~」

「日本の法律は大丈夫なのか」


 それって銃刀法とかに違反はしないのだろうか。大丈夫なのか、本当に。

 とまあ、それは置いておいて。トモリさんの言葉を受けて用意されていたリンゴに細工がないかどうかをシュエリアが念入りに確認している。しかも魔法まで使って。阿保か。

 シュエリアが確認を済ませると、リンゴはトモリさんの手に渡る。

 その後リンゴはトモリさん持参の折り畳み椅子の上に置かれる。


「では~…………。いきます――」


 トモリさんは言いながら髪を縛ると本気モードに入ったのか、いつものおっとりとした優し気な垂れ目を鋭くし、リンゴを睨みつけ刀に手を掛けた。

 そしてそのままほんの一秒ほど。


「……。終わりま~した~」


 そう言ったトモリさんは刀に掛けた手を既に放しており、代わりに髪を結っていたリボンを手にしていた。


「終わったって、まだリンゴが斬れてないようですけど……?」

「そん~な~こと~、ないです~よ~?」


 そう言われても、どうみてもリンゴはまるっとそのままリンゴである。どうみてもウサギではない。


「ユウキ」

「ん?」

「もしわからないようなら、リンゴを触って確認してみるといいですわ」

「……?」


 何を言っているのかよくわから……え、いや。まさか? そんなことある?

 もしかしなくてもこれは、アレなのか。

 そう、アレかもしれない。そう思って俺がリンゴに触れてみると、まるで粉のようにリンゴが崩れ、残ったのはウサギの形にくり抜かれたリンゴだった。


「えぇっと」

「まあ抜刀術ってそもそも目で追えるような速度じゃないから、見えてなくても仕方ないですわね」

「しゅばばばばって速かったですよっ」

「わたし見えなかったわ」

「お姉ちゃんも……」

「てれ~ちゃいます~」


 どうやらシュエリアとアイネ以外には見えていなかっただけで、とんでもない速度でリンゴを斬っていたようである。しかもこの斬られたリンゴのさらっさら感。この人どんだけ無駄にリンゴを切り裂いてんだ。


「じーっ」

「ん??」

「じぃーーーーっ」

「なんですか、トモリさん」

「じぃーーーーーーーーっ」

「…………?」


 なんだろう……何かを求められているような…………。あ。


「凄いですね、トモリさん」

「へへぇ~」


 どうやらあっていたようだ。褒められたかったらしい。いや、正直本当に凄いんだけど、あまりのことに言葉が出ないレベルだった。


「じゃあ次ですわね」

「うさ~ちゃんは~食べて~くださ~いね~?」

「じゃあアイネに」

「はぐっ」

「躊躇なく食ったわね」

「う?」

「ある意味アイちゃんらしいけどね」


 アイネなら可愛いから食べられないとか言い出しそうな容姿はしているが、意外とがぶっと行ったな……。


「次はわたしがやりますっ」

「アイネは何するんですの?」

「お姉ちゃんとコントだよ!」

「うわ……大丈夫かな」

「心配ですわねぇ」

「え、なんで?」


 そう言って首をかしげる義姉さん。いや、なんでって。


「そんなマジでわからないって顔するか? 義姉さんってボケのセンスないじゃん」

「うわぁ……なんだろう、笑いに命を懸けてるわけでは無いけど地味に傷つくね」

「まあ、だから。心配だなぁと」

「ですわね」

「でもそっか……心配してくれてるんだね嬉し――」

『アイネが』

「……うん、知ってた」


 ここの誰も義姉さんを心配なんてしちゃいない。むしろ一人で勝手に滑る分には問題はないくらいだ。


「でも大丈夫! 姉妹の絆の力を見せるとき!」

「ですっ!」

「おぉ……」


 ということで、結城家姉妹のコントスタート。


「ショートコント!」

「新婚生活っ!」

「ガチャ……ただいま」

「おかえりなさいっあ・な・たっ……ご飯にしますっ? お風呂にしますっ? それとも……」

「お」

「た・わ・しっ?」

「じゃあ私を頂いちゃおうかな!」

「ちょちょちょちょちょっ! 待ってください、ツッコんで、ツッコんでくださいっ」

「ん? だからこれから突っ込……」

「最低っ! そうじゃなくてっ! ボケましたよねっ?! ツッコんでくださいっ!!」

「そこまで言われちゃ仕方ない……」

「まったく……頼みますよっ」

「さ、股を開いて――」

「下衆っ!! だからそっちじゃなくて!! ボケにツッコんで下さいっ」

「え、だからボケた妻に突っ込もうかと……」

「失礼ですねっボケてないですよっ!」

「なんでたわしなんだよ!」

「タイミングっ!! なんですかこの息の合わない夫婦っ! やってらんないですっ」

「もうええわ!」

「こっちのセリフですっ」

『どうも、ありがとうございましたー!』


 言って締めくくると頭を下げる二人……。そして観客であるこちらの反応は……。


「ぐっ……ふふっ……ぶふっ……!」

「へぇー案外よかったんじゃない?」

「ぱち~ぱち~」


 俺の嫁が笑い堪えて悶えている以外は割と普通の反応。どうやら一芸としては成功したようで安心だ。


「うーん、イマイチ手ごたえがなかったですっ」

「お姉ちゃんはよかったと思うよ? シュエちゃん腹抱えてるし」

「兄さまに笑って欲しかったですっ」

「ゆう君あんまゲラゲラ笑う子じゃないもんねぇ」

「ですっ」

「ふむ」


 まあ、実際そんな大笑いするタイプでもないのは事実なんだが、なんだろう、ボリュームに欠ける感があると言うか、笑いきれなかったというか……。

 まあでも、シュエリアが笑ってるし、その結果だけで良かったと言える気はする。


「ま、でもアイちゃんが考えただけあってお姉ちゃんよりは受けてたよ」

「ふんすっ」

「え」


 アレ、アイネが考えたのか……。


「アイネ、やりますわね!」

「ふっふんっそれほどでもですっ」


 まあでも、納得ではあるな、義姉さんのネタだったら確実にスベってただろうし。


「さて、じゃあ後はユウキとわたくしですわね?」

「ん、そうだな……」

「ユウキから行っていいですわよ?」

「ん? 俺がトリじゃなくていいのか…………んまあいいや。じゃあ俺から」


 ということで、俺の芸だな。


「ふぅーっ…………。…………。ピッーーーー!!」

「……?」


 俺は指笛は吹けないので口笛を吹いて見せた。


「まさか、それが芸ですの?」


 どうやら俺の嫁はこれだけではご満足いかなかったようで、すっげぇ睨んでくる。

 こわ。


「まあまあ、これからだから……あ、来たな」

「来た……?」


 俺の言葉にシュエリアは首をかしげているので俺はある方向を指さした。


『ダダダダダダダダッ』

「な、なんですのアレ」


 俺に指をさされた方を見たシュエリアの顔が引きつり、トモリさんとアシェも見るからに引いている。

 その理由とは。


『にゃーーーーーーーっ!!』

「きもっ!」

「失礼な」


 シュエリアがキモイと言った物、それは猫だった。というか、猫の大群だが。


『にゃーにゃーにゃーにゃー』

「五月蠅いですわね……」

「まあ、確かに……静かに!」

『にゃー……』

「なんで意思疎通できんのよ」

「また妙な特技ですわね……」

「ふっふっふ」


 そう、これが俺の特技、近所の猫を呼び集める……である。


「この妙な技が芸……ですの?」

「妙ってのはまあ、妙だが。そうだ、これが俺の特技兼芸だ」

「ゆう君昔っから猫に好かれるなぁとは思ってたけど、まさかこんな技術まで体得していたなんてね……」

「まあ本当はこれだけじゃないけどな」

「まだあるの?」

「猫に指示出しができる」

「どの~よう~な~?」

「まあ、色々? 探し物手伝ってもらったり、芸見せてもらったり」

「猫って芸できるんですの?」

「できる子もいるな。アイネもできるし」

「アイちゃんも?」

「むすーっ」

「って、なんかアイネ機嫌悪そうですわね」

「あぁ、俺がアイネ以外の猫を呼ぶとアイネの機嫌は悪くなるからな」

「また妙なデバフ付いてますわね……」


 デバフって程でもないと思うんだが……。

 ちなみにアイネの芸とは猫の姿で歌う事である。これは昔からそうだった。


「ま、いいですわ。で、この猫たちどうするんですの」

「ん、一応集まってもらったらお礼におやつをあげることにしてるから、ちょっと待っててくれ」

「はいはい、ですわ」


 ということで、集まった猫役30匹におやつを上げ、リクエストがあったので一部の猫に芸を見せてもらい、30分程。


「最後にシュエリアの芸だな」

「ですわねぇ」

「で、どんな卓越した芸を見せてくれるのよ?」

「わく~わく~」

「トリだもんねぇ、期待しちゃう」

「ですねっ」


 何故かシュエリアのターンだけハードルを上げていくメンバー。

 それに対して余裕たっぷりのシュエリア。


「それじゃあ…………一曲歌いますわ」

「おぉ」


 そういやコイツは人泣かせなくらいに歌が巧い。確かに一芸の部類だろう。

 だがしかし……。


「らーららららーらららーらーらー」

『…………』


 普通に上手すぎてツッコミどころがない……。

 いや、上手いし、聞いてて心地よいとても素敵な歌声なんだ。でも。

 でもこれ……オチとしては……どうなんだろう。


 と、まあ、その…………。こうして、俺達の花見は、オチとしては微妙な歌を聞きながら、その後もなんやかんや楽しく続いていった。


ご読了ありがとうございました!

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