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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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癒し癒されですわ

「癒しが欲しいって思う事、ないかしら」

「ふむ……」


 いつも通りの日常に、いつもと違ったまともな発言に、俺は興味を示した。


「癒し……俺はいつでも求めてるぞ」

「実はわたくしもですわ」

「現代社会って疲れるからな……色々」

「仕事とか人間関係とか、疲れますわよねぇ」

「だなぁ」


 まあ、俺の場合仕事は一人仕事だし、人間関係は恵まれすぎているくらいなので、疲れるのは仕事の内容くらいだが。

 シュエリアはあの喫茶で働いているからな、人間関係めんどくさそうだ。


「ということでユウキ」

「ん?」

「今日はお互いに癒し合う日にしたいですわ」

「おぉ……いいかもしれない」


 いつも阿保みたいなことばかり言うシュエリアだが、今日はまともな事言っている気がする。


 ちょうど今日は二人きりだし、癒しもイチャイチャもし放題だ。


「ということで、まずはユウキがわたくしを癒してほしいですわ?」

「オーケー。で、何をすれば?」

「そうですわねぇ。膝枕から始めてもらおうかしら」

「ん、了解」


 まずは膝枕をご所望ということなので、べったりくっ付いた状態ではできないので、少し距離を空けて、膝に頭を乗せやすい状況を作る。


「どうぞ」

「ん、では…………。ふぅ……いいですわね、既に幸福感と安息を感じますわ」

「それはよかった」


 男の膝枕なんて正直どうかと思ったが、シュエリアには満足して貰えているようだ。


「…………ユウキ」

「んー?」

「もう既に飽きましたわ」

「癒しどこ行った」


 今日は癒しを求めていたのでは……。飽きちゃってどうすんだよ。


「癒しは重要だけど、こう、流石に横になっているだけは、暇ですわね」

「うーん、そうか。じゃあ追加で何かするか」

「何かって何ですの」

「そうだな、例えば――」


 言いながら俺はシュエリアの頭に手を伸ばした。

 こういう時はとりあえず、頭を撫でてみよう。いつもアイネにはそうしてるし。


「んっ…………悪くないですわね」

「そりゃよかった」

「……でも暇ですわね」

「う、うーん」


 そうは言われても、これ以上は特に思い浮かばないんだよなぁ。やること。


「なんか話でもするか?」

「……そうですわね。やることもないし、いいと思いますわ?」

「よし」


 さて、そうと決まれば何を話そうか。退屈しているシュエリアに有効そうな話題はすぐには思いつかないな。

 俺がしばらく悩んでいると、シュエリアの方から話し始めた。


「癒しと言えば、ユウキは何を連想するかしら」

「ふむ、耳かき?」

「好きですわねぇ。それ。今日もして欲しいんですの?」

「そうだな、俺のターンになったら」

「いいけれど、床に座るのは嫌ですわよ」

「わ、わかってるって」


 流石に耳かきの度に毎度毎度、婚約者を床に座らせるのは忍びない。というかそれで嫌がられてしてもらえなくなる方が辛い。


「まあ、耳かき自体は嫌いではないから、後を期待していいですわよ」

「おう……というか、そうか、耳かきか」

「ん、なんですの?」

「いや、シュエリアもするか? 耳かき」

「……いいですわね? 試してみようかしら」

「よし」


 そうと決まれば、さっそく始めよう。


「さて、まずは左耳からだな」

「っていうかなんでサラっと耳かき棒持ってんですの」

「常備してるからな」

「わかってはいたけれど、本当に好きですわね。耳かき」

「まあな。さて、シュエリアの耳はどうなっているのかな…………っと」


 まあ、わかってはいたが、中を覗き込んでも暗くて手前の方しか見えない。ライト無しじゃ普通こんなもんだな。

 まあ、とりあえず手前の見やすいところからだな。


「なんていうか、耳の中見られるのって妙に恥ずかしい気がしてきましたわ?」

「……そうだな……お前耳かきしないだろ。垢溜まってるわ」

「余計に恥ずかしくなるようなこと言いやがりますわねコイツ」

「そう思うなら日頃から綺麗にすることだな」

「……そういえばユウキの耳って綺麗でしたわね」

「俺は耳かき好きだからな」

「まさか耳かき快楽に溺れた耳奴隷にマウント取られるとは思いませんでしたわ……んっ」


 話しながらも耳かきは続けているのだが、力加減を誤っていないか少々心配だ。人によって耳の感度は大分違うので、繊細な耳をしているとこの力加減だと強過ぎるかもしれない。


「力加減、これで大丈夫か?」

「ん…………問題ないですわよ?」

「ん、ならいいや」

「っていうか……普通に上手いわね」

「そうか?」

「えぇ。流石に自分の耳で散々やっているからか、慣れている感じがしますわね?」

「他人の耳掻くのはまた違う気もするが、まあ気に入ってもらえたら何よりだよ」

「えぇ……ふぅ…………いいですわぁ」


 ……ふむ。なんだかとても気持ちよさそうなのは嬉しいのだが、まだ今やっているのは耳の手前の部分。まだ穴には入っていないところだ。

 ここで気になることがいくつかある。

 一つ目はエルフの耳の構造だ。これ、このまま奥もやって大丈夫なんだろうか。人と造りが違ってたら凄くやりにくい……というか、大問題が発生しかねない。

 二つ目は手前で既に気持ちいと言っているが、もし人と同じ造りなら奥の方がより敏感で、気持ちがいい傾向にあるということだ。奥をやったらどうなるかちょっと気になる。

 そして三つ目は……。


「んっ…………んん…………うぅん」

「変な声出すのやめろ」

「ん……何がですの?」

「自覚ねぇのかよ……」

「?」


 三つ目。この阿保、さっきから変な声出しやがる。正直気になって手元が狂いそうだ。


「とりあえず声抑えてくれ、意識的に」

「よくわからないけど、わかりましたわ?」


 とりあえずこれで集中はできそうだ……ただでさえ耳の構造がわからんのに、うっかり手元が狂おうものなら大惨事になりかねないからな。


「さてシュエリア」

「んー?」

「ここから耳の穴、奥に入れるわけだが」

「下ネタですの?」

「ちげぇよ…………。で、エルフと人間の耳の構造の違いがわからないから、少しずつ入れていくからな? 違和感とか、痛かったりしたらすぐに言えよ?」

「ん、りょーかいですわー」


 なんか妙に返事が軽いが、大丈夫だろうか……。

 まあ、コイツとて阿保だが馬鹿では……無くはないが、流石に耳かきに危険もあることくらいはわかっているだろうし、何かあればちゃんと教えてくれると思いたい。


「じゃ、入れるぞ」

「うっ中に出すぞ、ですの?」

「お前刺さっても知らねぇぞ」


 コイツ本当に大丈夫かな…………馬鹿過ぎて何か問題が起きそうな気がしてきた。


「冗談ですわ。ちゃんと何かあったら報告しますわ」

「はいよ……じゃ、さっそく」


 意を決して、俺はシュエリアの耳の穴に耳かき棒を入れ、掃除を始める。

 が、しかし。


「んっ……奥にっ……はいっ…………て……んんっ」

「よし、刺すわ」

「ちょまっ! 冗談! 冗談ですわ!!」


 この阿保はなんでいつもこうなんだろう。本当に危険だから、ふざけないで欲しいものだ。


「本当に危ないから、ふざけるのは禁止だ」

「うー、つまらないですわねぇ」

「安全の方が大事だろ」

「ふぅ。仕方ない、わかりましたわ。あ、あともう少し強めでいいですわよ?」

「そうそう、そういうのを言ってくれないとな」


 今度こそちゃんとわかってくれてるといいんだが。


「とりあえずどこまで入れて大丈夫か確認しないとな、ここら辺はどうだ?」

「ん……そうですわね、もうちょっと行けるんじゃないかしら」

「ふむ…………。このくらいか?」

「あー……丁度いいですわ?」

「ふむ」


 やってみた感じ、どうやら人とエルフでは耳の構造は大して変わっていない様だ。俺の耳と比べて若干浅い気はするが、個人差というのもあるだろうし、気になるほどではないか。


「それじゃあ、限界もわかったし、本格的に始めるかな」


 ということで、耳かき本番。


「わっ……すごいですわ」

「ん?」

「こう、カリカリっとして、ぞわぞわっとして、気持ちいいですわ」

「耳かきって感覚も気持ちいいけど、音も心地いいよなぁ」

「これは……ユウキが好きなのも分かる気がしますわ?」

「まあ、自分でやるのと人にやってもらうのとじゃ、全然違うけどな」

「そうなんですの?」

「あぁ。慣れてくれば自分でやるのも十分気持ちいいんだが、大抵は他人にやってもらう方が断然気持ちいいだろうな」

「ユウキもそうですの?」

「そうだな。自分でやるのもいいけど、シュエリアにしてもらった時の方がリラックスできたし、心地よかったな」

「そういうの、したときに言って欲しかったですわね?」

「さいですか」

「さいですわ」


 などと話しながら耳かきをして10分程経過。


「はい終わり」

「ん。もう終わりですの?」

「綺麗になったしな」

「うーん、そう……」


 うん、どう見ても「もっとして欲しい」という顔だが、これ以上やるのもな。


「あんまりやり過ぎると炎症とか起こすかもしれんからな。次は右耳だ……ってあぁ、そうか。うーん」

「ん? どしたんですの?」


 俺があることを想いついて、しかし決行するか迷っていると、シュエリアから「早くしろ」と言わんばかりの目を向けられた。


「いや、俺は耳かきの後に耳吹きするの好きなんだけど」

「耳吹き?」

「うん、シュエリア、やってみるか?」

「よくわからないけれど……まあ、せっかくだしやってみようかしら?」

「そうかそうか。よし、それじゃあ――」


 よくわかってないのに了承したこと、後悔しないといいのだが。


「ふぅーーっ」

「ひゃあっ?!」


 まあ予想通りと言えば予想通りだが、随分と変……もとい可愛い声が出たもんだ。

 にしても、可愛い声が出たのが余程恥ずかしかったのか、シュエリアが俺を見上げながら睨んでくる。


「なっ、何しやがるんですの?!」

「いや、だから、耳吹き」

「こんなことするなんて聞いてないですわ!」

「と言われてもな。するって言ったのお前だろ?」

「うぅ……も、もう耳吹きはいいですわ! 次、右耳ですわよ!」

「はいはい」


 なんだかんだ言いつつも、耳かきを急かしてくるあたり、結構気に入ってくれたのかもしれないな。

 いや、耳吹きは恥ずかしかったみたいだが。


「さて、それじゃあ反対向いてくれ」

「ん、このままですの?」

「あぁ、顔がこっち向いててもできるから大丈夫だ」

「そう、なら、よいしょ」

 シュエリアは掛け声とともに俺の上でゴロンと半回転、右耳がこちらに向いている。


「それじゃ、始めるからしばらくじっとしてろよ?」

「はいはいですわー」


 で、流石に10分近く無言だとまた飽きたとか言い出しそうなので耳かきしながら雑談。


「シュエリアはどうなんだ?」

「ん、何がですの」

「俺は耳かきが癒されるけど、シュエリアは癒しと言ったら何を想像する?」

「そうですわねー。かわ…………ゲームですわね」

「おーい」


 今コイツ何か言いかけてゲームに変えただろ。


「なんで言いかけて変えた?」

「何のことですの?」

「かわって言っただろ、なんでゲームに変えた」

「ゲームって楽しいし、癒しもあると思いますわ」

「まあ、否定はしないが、言いかけたのが何か気になるな」

「う……それは、ほら、別にいいじゃない」

「癒されるものは別に一つに絞らなくていいと思うぞ?」

「うぅ、そんなに聞きたいんですの?」

「まあ、せっかくだし」

「…………わいいもの」

「ん?」

「か、可愛いものを……愛でたりとか」

「乙女かよ」

「うっせぇですわ!」


 なるほど、それで言いかけてやめたのか。俺にからかわれると思って。


「まあでも、いいよな。可愛いもの。アイネとか愛で甲斐がある」

「また出ましたわね、猫バカ」

「いや、実際可愛いだろ、アイネ」

「まあ、可愛いけれど」

「シュエリアも可愛いよな」

「ぶっ! ふふっ」

「なんだろう、軽く傷ついたわ」

「い、いきなり変な事言うからですわ?!」

「言うほど変か……?」


 ただ婚約者を褒めただけなのに、吹き出し、笑われる要素あるか?


「大体、心にもないことを言うから変なんですわ」

「そんなことないが」

「じゃあ具体的に、どこが可愛いと思うんですの?」

「笑顔」

「即答……」


 まさか俺に即答されると思っていなかったのか、顔を赤くしてちょっと照れているシュエリア。

 こういうのも可愛いけどな。


「で、でも、ほら、アイネだって笑った顔、可愛いですわ?」

「まあ、それは否定しないが。シュエリアの笑顔の方が好きだな俺は」

「ぐっ……よくも恥ずかしげもなく言いやがりますわね」

「? 好きなんだから、そりゃあ好きっていうだろ、恥ずかしいことあるか?」

「……はぁ。そういうとこですわよ」

「何が」

「何でもないですわ」


 何でもないということはなさそうだが、かといってこれ以上突っ込んでも教えてくれそうにない感じなので、まあいいとしよう。

 それよりもだ。


「…………ふぅーっ」

「ひょわぁ!!」


 うん。いい反応だ。


「何しやがるんですの!!」

「いや、右耳終わったから耳吹きを」

「しなくていいって言ったでしょう!」


 なんだ、アレは「左耳はもういい」っていう話なのかと思ってたが、違ったのか。


「右はしなくてよかったのか」

「う…………それは……うーん」

「ん?」

「まあ、気持ちいいのは認めるけれど。いきなりやるのは止めて欲しいですわね?」

「ふむ、なるほど」


 つまりいきなりでなければいいわけだ。


「シュエリア、耳吹きするぞ」

「へ?」

「ふぅーっ」

「ひゃん!」

「おお、いい反応」

「あんたぶっ転がしますわよ?!」

「するって言ったのに」

「了承してねぇですわ!」

「なるほど?」

「なるほど? じゃねぇですわ!!」


 おぉ……まさか気持ちいいことされて怒る奴がいるとは……。


「はぁっもうっ……これはユウキの番には仕返しが必要ですわね?」

「癒し合うという話だったのでは」

「大丈夫ですわよ、過度に癒すだけだから」

「そ、そっすか」


 なんかそれはそれで怖いんですが……。


「じゃあ、今度はユウキを癒す番ですわ。ほら」


 そう言ってシュエリアは体を起こすと、膝をぽんぽんと叩く。

 膝枕されろってことだろうな。


「……では遠慮なく」

「ふふっ。覚悟しやがれですわ」

「お、おう」


 なんだろう、意気込み過ぎて耳とかえらいことにならないといいのだが……。


「まずは頭をなでなでしてあげますわ」

「ん……おぉ……」


 頭をシュエリアの細い指が優しく撫でる感覚が非常に心地よく、ちょっと変な声出そうになる。

 うーん、悪くない。


「どうですの」

「悪くないぞ」

「ふぅん、強がりますわねぇ」

「強がってはいないが」

「そう? なら素直に心地いいとか、好きとか、愛してるーって言っていいんですわよ?」

「最後のはなんか感想として違くないか?」


 まあ、素直に気持ちいい、好きだと言えないのは、ちょっとした強がりと言えなくもないかも知れない。


「……そうだな、気持ちいいよ」

「そうそう、そうやって素直なのが一番ですわよ」


 そう言って機嫌よく、俺の頭を撫でてくれるシュエリア。

 可愛い婚約者に膝枕されて頭撫でられるとか、こんな幸せな事、本当に世の中にあるんだなぁ……。


「さーて、なでなではこれで終わりですわ」

「ん、もう終わりか」

「あら、もっとされたいんですの?」

「まあ、欲を言えば」

「ふふっ、しかたないですわねぇ」

「お、ということは――」

「耳かきしますわよ」

「えぇ……」

「なんですのその反応」

「いや、だって。今の流れはもうちょっと頭を撫でてくれる流れでは?」

「そんなこと一言も言ってませんわよ?」

「ま、まあ」


 確かに、言われてはいないのだが。

 でも「しかたないですわねぇ」とか言ってたじゃん? 普通やってくれると思うじゃん?


「耳かき嫌なんですの?」

「嫌じゃない」

「そ、じゃあしますわよ」


 まあ、頭なでなでが物足りないのはあるが……その分耳かきに期待しようじゃないか。


「じゃあ右耳から始めますわよ」

「はいよー」


 ということで、耳かきスタート。


「おっ……以前より上手いな」

「でしょう?」

「あぁ、これは気持ちいいぞ。非常にいい」

「ふふっ。当然ですわ」

「ほう、当然とな」

「えぇ。だってあれから勉強したもの」

「ふむ?」

「旦那が耳かき好きなのだから、それを研究して物にすれば必然的に旦那を物にできるというものですわ」

「その理屈はさておき……いや、本当に上手いぞ、これはっ……素晴らしい」


 流石に手先が器用で天才なシュエリアという感じか、本当に以前とは比べ物にならないレベルで上達している。

 これで実戦経験はまだ浅いのだから、これからもっと上手くなるかもしれないとなると期待も高まるというものだ。


「その内わたくしが嫁で良かったと一生思う事になりますわね?」

「そうかもしれない……」


 これはありえるぞ、完全にものにされている感じがする!


「さて、右耳はこれで終わりですわね」

「え、もう終わりか?」

「だってユウキ、耳綺麗なんだもの」

「ぐっ…………」

「はぁ、もっと汚れていたら、やりがいもあったのだけれど?」

「ぐぅっ………つ、次からは……自分でするのは控える……」

「ふふん。それがいいですわ?」


 ぐぬぅ……これはなんというか、嬉しい誤算というか、なんというか。

 まさかシュエリアがここまで心地よい耳かきをできるようになるとは……。


「さぁ。それじゃあ――」

「あぁ、左耳だ……ぬぁん?!」

「ぶっ!……ぬぁんってなんですの?……ふふふふっ」

「お、お前なぁ」


 まさか、ここで仕返しされるとは思わなかった。

 それは以前のシュエリアの耳かきには無かったもの。

 耳吹きだ。


「自分でする前には確認しろって言ったよな?!」

「言いましたわね。ふふっ」

「いつまで笑ってんだお前」

「だって……! ぬぁん! って……ぷぷっ」


 く、くそ、盛大に仕返しされてしまった……しかも何が悔しいって、気持ちよかったのである。それも凄く。


「ぐっ…………シュエリア」

「ぷぷっ……なんですの?」

「…………その」

「ん?」

「もう一回してもらっても?」

「あら、気に入っちゃったんですの?」

「ま、まあ」

「ふぅん。そう……仕方ないですわねぇ」

「お、この流れは――」

「左耳行きますわよー」

「ですよねぇ!!」


 うん、わかってた。この流れでやってくれないのはさっき学習した!!


「ぷぷぷっ……はぁーおかしいですわ。はぁ…………。ふぅー」

「ぬぅあ!」

「あはははははっ。ぬぅあ! ってなんですの……あはははははっ」

「くっ、くそ……このやろ」


 めっちゃ笑ってやがる……くそう……。でも気持ちいい……うぅ。


「さぁて、お望みの耳吹きはしたし、ほら、左耳出しなさい」

「ぬう……了解」


 言われた通り、シュエリアの上でゴロンと半回転し、顔をシュエリアのお腹に向ける。


「素直でいい子ですわねぇ、よしよし」

「ぬっ……ここで撫でて来るだと……でもいい!」


 コイツ……なんていいタイミングで……不覚にも喜んでしまった自分がいる。


「ユウキは反応面白くていいですわねぇ」

「うーん、見世物じゃないんだが」

「あら、違ったんですの?」

「お前俺をなんだと思ってやがる」

「道化?」

「本当に見世物だと思ってやがった」


 俺ってそんなにおどけているというか、滑稽だろうか……。


「まあ冗談はこれくらいにして、続き始めますわよ」

「ん、おう」


 そうだった、今は俺がピエロかどうかより耳かきの方が重要だな。


「それじゃあ、よろしく」

「はいはいですわー」


 そして耳かき10分後。


「はい、おしまいですわ」

「んー、ありがとう」

「最後に耳吹きしますわ?」

「おぉ、どんとこい」


 シュエリアは予告してから耳に息を「ふぅっ」と3回程掛けて来ると手をたたいた。


「はいっ、これで本当におしまいですわ!」

「ふぅーっ、大分癒されたなぁ。ありがとう、シュエリア」

「ふふん、いいですわよ、お互い様ですわ」


 そう言いながら、俺の頭を撫でるシュエリア。

 うん……ホント癒されるな…………うん……………………。


「ふぁ……」

「あら、眠いんですの?」

「あっ……いや」

「いいですわよ、このまま寝ても」

「え?」

「寝付くまで、ずっとこうしていてあげますわ」

「……いいの?」

「えぇ」

「…………」


 あれ、シュエリアってこんなにいい奴だったっけ。

 いや、俺が知らなかっただけで実はいい奴? もしやデレ期到来?


「まあ……いいか……」

「そうそう、素直が一番ですわ」


 そういって俺の頭を撫で続けるシュエリアの表情は朗らかな笑顔だった。

 そんな笑顔を見ながら撫でられ続けた俺は徐々に眠気が強くなり……。


「……大好きですわ、ユウキ」


 薄れていく意識の中、最後に聞こえたのは、そんな幻聴のような言葉だった……。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は金曜日です。

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