お菓子をくれなきゃなんですの?
連続投稿二話目です。よろしくお願いします。
バイト仲間参加のハロウィンパーティは非常に盛り上がっている。
パーティといっても特になにか催しがあるわけでもないので盛り上がるのはやはりと言うか、おしゃべりなのだが、その話題は多岐に渡るものの基本的には季節の話題がメインだろうか。
「ハロウィンの時期になると急にかぼちゃを使ったデザート等が増えると思うのだけれど、普通に美味しいし年中置いてくれてもいいくらいですわ」
「それに関して言うなら期間限定っていうのがそもそもどうかと思うのですっ! 期間限定とか季節限定って言われるとプレミア感がある気がしますけど実際それって企業がそういう季節のイベントに合わせて売ることで特別を演出しているだけで、実際そこまで特別じゃあないと思うんですっ」
今の話題は季節限定メニューのなんで美味しいし売れるのに季節限定なのか。的な話なのだろう。
なんとも女子らしい話だがそれをしているのが女の子らしいけど感性がアレなアイネと女の子らしくないシュエリアと色々壊滅的なエルなのがな。
「季節毎に旬の食材があるということを考えると致し方ないことな気もするけれど一年に一度この時期にしか食べられないと思うと……つい買ってしまうのは企業の戦略に負けた気がして悔しいですわね……」
「そうですね……」
「それなら自分で作ればいいじゃない。あんた無駄に器用なんだから」
「あぁ、それもそうですわね。不自然に不器用な駄ークエルフにはできないものねぇ」
「っ……今変な当て字したわね?! このアホエルフ!!」
あのエルフ二人の仲が悪いのはいつものことなんだが、どうして仲が悪いのに呼んだのかとか、呼ばれて律儀に来たのかとか、色々気になる二人。
さっそくケンカしてるし。
「アイツら……仲いいですね」
「そうですねぇ~。アイにゃんは~シュエリアさんの事を~お姉さんみたいに~思ってますから~」
「うん、そっちじゃなくて、エルフ二人です」
「あ~……」
俺の言葉にトモリさんはう~んと首を捻った。
「まあ~類友ですよねぇ~とっても滑っ……面白い方々~ですから~」
「今完全に滑稽って言おうとしましたよね?」
「そんなことないです……よ~」
う、嘘くさい。口調とか、表情が真面目なのが凄く嘘くさい。
「そ、そうだ、トモリさんが言ったようにアイネとシュエリア、仲いいですよね。トモリさんもですけど」
「そう~でしょうか~?」
「えぇ。アイネなんてトモリさんのことお姉さんのように慕ってますし、トモリさんはどうです?」
俺がそう話しを振ると、トモリさんは首を傾げた。
「どうでしょう~? アイにゃんは~私を~お母さんとか思ってる~かもですよ~? 私は~宿……友達と思って~ます~」
「母って……トモリさん俺と同い年くらい……ですよね?」
俺はまだ20代なのだが、トモリさんもかなり若く見えるが大人びた雰囲気も併せて大学生くらいだろう。しかし、魔王だし、アレか、この人も見た目と年齢違う系なのか?
……っていうかサラッと『宿敵』とか言おうとしていた気がするのは気のせいだろうか。
「ふふふ、どうでしょう?」
なんだろう、今の笑い方がすごく、怪しかったんだけど。
「そういえばシュエリアさん! とりっくおあとりーと。ってなんですか?」
「それは、あれですわ。悪戯されたくなければトリートメントしやがれ、って意味ですわ……たぶん」
「シャンプーやリンスじゃダメなんでしょうかっ?」
「どうなのかしら? コンディショナーならいいのかもしれませんけれど……この世界の風習って変わってますわよね?」
「何言っているのかしらこのアホエルフは。スプラ〇ゥーンの勢力争いでしょう?」
何アホな事言っているのだろうあのエルフ達は。
俺よりやたらとゲームやアニメに詳しくなった割に変なところで常識を欠いている奴だな。
「シュエリア、それ間違ってるから。いいか、アイネ。お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、だ」
「ふぇ?」
シュエリアが間違ったことを教えていたので俺がアイネに正しい意味を教えたのだが、アイネは急に顔を真っ赤にして動揺し始めた。
「ユウキ……あなたいきなり出てきてこんな小さなアイネにお菓子をくれなきゃイタズラするぞ、とかなんなんですの? ロリコンなんですの? 通報しますわよ?」
「ちょっ! なんでそんな犯罪扱いなんだよ、お前が間違ったこと教えるから代わりに教えただけだろ?」
「兄さまは、その。私にイタズラしたいんですか?……」
「ごめん! 顔を赤らめてそういうこと言うのやめてくれないかな! 誤解だから!」
俺が本気で訴えると、エルが俺の腕に絡みついてきた。
「ねぇ。私にならしてくれてもいいのよ? イ・タ・ズ――」
「黙ってろ駄ークエロフ」
「――貴方、私の扱いもシュエリア並みに雑よね?」
ったく、このエロフめ。
そうこうしている間にもシュエリアにはめっちゃ怖い目で睨まれるし、アイネは赤くなってもじもじして、なんか若干嬉しそうにしてる気がする。
こういう時は天然だけど意外と常識人のトモリさんに……。
「トモリさん! あの――」
「私に悪戯をしたら~……デュラハンにしちゃいますよ?」
「…………」
この人もか!!
しかも脅し文句がタイムリーな上に怖い!! 眼が真剣だし声が間延びしてないし、主に腰に下げた刀に手を掛けているからマジっぽいし!!
っていうかなんでいつの間にか帯刀してんだこの人!!
「やだなあ! トモリさんに手を出すわけないじゃないですか!」
「じゃあ兄さまは私には手を出すんですか??」
「いやあ、アイネはほら、妹みたいな感じだし?」
「う……妹……うぅ……」
え……っと? なんで泣きそうなのかなアイネさん? ていうかあの、後ろですごくいい笑顔で木彫りのヴァンパイア構えてるシュエリアが怖いんですが……。
「アイネを泣かせるなんて許せませんわ……木の杭ぶち込みますわよ?」
「ははは……またまた御冗談を……それ木の杭っていうか木彫りのヴァンパイアだし、あれだよね、ヴァンパイアだけに杭、みたいな?」
「ユウキ、私には手をだ――」
「ださねぇよエロフ」
またもうっとおしく腕に絡みついてくるエルゥを引き剥がしてシュエリアと対峙すると、何故かさらに怒りが増していた。
「クソつまらない冗談言った上にそんな駄エルフを相手にする余裕まで見せるとは良い度胸ですわ。なら、それが遺言ということで、よろしいですわね?」
「ハハハ…………」
なにこれ、なんでこんな四面楚歌な感じなの。
まあでもほら、冗談だよな? さっきからデュラハンとかヴァンパイアとかやけにハロウィンならではなネタを飛ばしてくるし……。
「トリックおあブラッド……」
「アイネさん?! 怖いこと言わないでくれるかなぁ!!」
なんだそれ、血を寄こさないと悪戯するぞってか……
「とりあえずユウキ、一旦死んでゾンビの仮装をして出直すといいです――わっ!!」
「あっぶねぇ!! 死ぬから! 仮装をする前に火葬されるわ!!」
「うまいですっ」
「上手くないですわ!!」
そう言っている間にもシュエリアはヴァンパイアを振り回しながら追いかけてくる。
主に下半身を狙って。
「このお菓子おいしいですっ」
「そっちかよ! ってあぶねぇから! マジで死ぬからぁああああああ――アっーーーー!!」
「あら~あらあら~うふふ~」
「ふぅ、仕置き完了。ですわ」
ちくしょう……なぜに俺がヴァンパイアを突っ込まれなければならないのか……何処がとは言わないが、これでゆるくなったらどう責任とってくれるのかこのエルフは。
「にしても男の下半身からヴァンパイアが生えてる絵は中々にシュールですわ」
「ですねっ」
「あらあらぁ~」
「なんて言うか、仄かにエロいわね」
「…………」
もうこれ以上ツッコまないでほしい……。
というか今更だが、この状況で姉さんが出てこないのってどういうことだろう……六々ちゃんは……まあ元から影薄いから仕方ないけど。
「でまあ、結局あれですわね、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、が正しいと」
「イタズラってなんでしょう?」
「まあユウキを見るに、性的ものではないのは確かですわね」
「というと~爪を剥いでみる~とかかしらぁ~?」
「……何気に怖いことサラっといいますわね」
「普通に……軽い悪戯だよ。水鉄砲掛けるとか、そういう」
「あら、生きていたのね? それともゾンビの仮装ですの?」
「死んでねぇよ……!」
くそう、勝手に殺してくれやがって……。
「てかさ、姉さんはどうしたんだよ。六々ちゃんも」
「あぁ、シオンならわたくしが用意したお酒入りのチョコ食べてぶっ倒れたから六々が連れて帰ったわよ?」
「お前姉さんに酒盛ったのか」
「その毒盛ったみたいに言うの止めてくれないかしら。たまたまですわ。たまたま」
そう言ってシュエリアは目を逸らした。
これ絶対ワザとだな。
「なぜそんなことを」
「……以前お酒盛られたから。ついですわ」
「根に持ってたのか……」
まあ、アレは、うん。
色々と酷かったからな……。
盛られたっていう言い方はどうかと思うが。
「にしてもあれだな……よく考えたら俺以外は皆、人種じゃないから、あるいみ仮装みたいなもんだな」
「確かにそうですわね。私はエルフですし、アイネは猫又みたいなものでトモリに至ってはリアルにサキュバスで魔王だものねぇ……」
「ちょっと、私も数に入れなさいよ」
「あぁそうね、もう一人淫魔が居たわね」
「ダークエルフよ!! この駄エルフ!!」
「あーはいはい、申し訳すいませんですわー」
「あっ、あんたねぇ――」
コイツらホント仲悪いな……なんで呼んだし、来たんだろう。
「うーん、そう考えると普通の人間って兄さまだけですっ」
「そのユウキさんも~今は血まみれゾンビさん~ですもの~ねぇ~」
「あ、あぁ。そうですね」
ハロウィンにエルフはどうなんだろうなと思わないでもないけどな。
かといって魔王には突っ込みたくないなぁ……べつに怖いわけではないぞ?
「――仮装と言えば、近年都心では若者がハロウィンに仮装と称して様々な格好をして街中でお祭り騒ぎをしてその後の散らかり放題の後片付けが問題になってましたわね」
「そうね、やることだけやって片付け無いなんてまるでレ――」
「仮装っていうよりどちらかというとコスプレと言ってしまった方がいい人が多いですよねっ」
シュエリアの話を受けてのアイネの言葉にシュエリアはウンウンと頷いて話を続けた。
ていうかあのスルーされて一人で若干恥ずかしがってるアホのエロフかまってやれよ。
「まあそもそも仮装とは普段とは違う装いをすることであり、コスプレは漫画やアニメなどの架空の存在に似せた装いをして成りきることですもの。ハロウィンで装うのは大半がお化けや亜人ですから仮装ではなくコスプレになるのは仕方がない気はしますわね。仮に仮装パーティと銘打つならば普段と違う装いであれば振袖やサンタ服でもいいことになりますわ? そこを行くとコスプレと制限して架空の存在に限定した方がまだハロウィン感は出る物かもしれませんわね」
なるほど。確かに。シュエリアの言わんとすることはわかる。
近年ハロウィン=仮装というイメージは広まりつつあり、若者の仮装の中にはMの付く配管工というハロウィン関係なくね? とすら思えるコスプレや、単純に婦警やナース服といった制服コス、果ては人気芸能人の扮装等もある。
正直言って日本に本来の意味として伝わっている風習など皆無に等しいのだが、それでもある程度のイメージを守る必要はあるだろう。
そしてシュエリアも同じことを思っていたらしく話は近年の仮装に対する仮定に入っていた。
「仮にですわよ? マ〇オやりゅう〇ぇる、ダンディ坂〇の格好をした人間がトリックオアトリートと言ってきたら私は確実に吹き出しますわよ?」
「た、確かに……それは威力高すぎるな……」
「でしょう? どうしますの? 最悪トリックオアピーチ『ピーチ姫を出さなきゃイタズラするぞ』とか言い出しますわよ?」
「うわぁ~それは嫌ですっ」
「トリックオアゲッツ、アンドターン、アンドリバース、アンドステップステップとかな」
「ドン引き~ですねぇ~」
「ですわね……」
そういう意味でもできれば仮装ではなくコスプレという域である程度空想の範囲内に収めて欲しい物だ。
しかしそう考えるとだ。
「ハロウィンってもともと悪霊退散的な意味がある風習で、トリックオアトリートも悪霊のセリフで――我々をもてなさなければ災いを起こすぞ――的な意味合いだろ? 日本では子供が言う前提の意訳でお菓子をくれなきゃイタズラするぞだけど、てことはあれだよな、仮装は悪霊の仮装であるべきってことで――」
「つまるところマリ〇ではなくテ〇サ、りゅ〇ちぇるではなくク〇ス松〇、ダンディ〇野ではなくスリム〇ラブのフランケンなら問題ないわけですわね」
「その通りだ。あれなら間違いなく悪霊側だからな」
「なるほどですっ」
「あらあらぁ~」
「今完全に生きてる人物入ってたわよね……」
おっと、エルゥがまともなこと言ってるぞ……。
というかそう考えるとやっぱりエルフって駄目なんじゃないか。
俺がそう思っていると、シュエリアも何かに気づいてしまったような顔をしていた。
「はっ! ということは――」
「どうしたん~ですかぁ~?」
ついにシュエリアも自分がハロウィンに適していないことに気づいてしまったのか……?
「悪霊の親玉は恐らく魔王ですからトモリのところには毎年この時期に各地で押収されたお菓子が!!!」
そっちかよ!!!
ていうか魔王って悪霊の親玉なの? 魔族の王ではなく?
「…………ふふふ~そんなこと~ないです~よ~」
「今の沈黙はなんだったんですの……」
そりゃ無いだろういくらなんでも…………無いよね?
ていうかコイツ実はお菓子食いたいだけじゃないだろうな。さっきもアイネとお菓子の話に熱が入ってたし。
まあトモリさんの沈黙も気にはなるが、ツッコまないでおこう。藪から魔王を出す必要もない。
「でも、なんだかんだハロウィンって楽しいですわねぇ~」
「なんだ急に?」
「いえ、だって。皆でお菓子を食べて、騒いで。本来の意味合いとは違うのかもしれませんけど、こんな風に楽しめるのも日本人がお祭り好きなおかげですわね!」
「……そうか、そうだな。まあお前のエルフは悪霊ではなく精霊とか妖精だから間違ってるけどな」
「なっ! 本当ですわ!! なんで早く言わないんですの?! こっ恥ずかしいですわ!!」
「なんだ、お前にも恥じらいってあるんだな」
「ふ、ふふふふ。今すぐ息の根を止めて正真正銘の霊にでもなりたいのかしら?」
「え? いや! まて! すぐに暴力に訴えかけるのはアイネの教育によろしくないぞ!」
シュエリアは俺の制止を振り切り、切払うように鎌を出してきた。
「ちょ、そんなものどこから!!」
「ふっふっふ! 本当はユウキに死神のコスプレをさせようと思っていたのですわ! でも、今はわたくしが死神になって貴方を狩ってあげますわっ」
「ま、まて! そうだ! お前はもう立派なリーパー――死神――だから仮装の必要はないかな……みたいな?」
「くっそつまらねぇですわ!!」
「わ~い! やっちまえですっ」
「羨ましい……」
「あらぁ~あらあらあら~?」
「俺に味方はいないのかぁああああああああああ!!」
こうして、俺と異世界人だらけのハロウィンパーティは夜中アイネが寝落ちするまで楽しく陽気に続いていった。
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