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第三話


「お...おかえりなさい、ライ姉様」


 言ってなかったが、ここは、大広間。つまり、家の扉を開いてすぐの場所で、僕は、ドレスを着させられていたのだ。


 「キュンッ」


 キュンッ?ライ姉様の口から聞いたことのない擬音が出た。


 「か、可愛いーーー!!!!」


 「うわっ!?」


 ライ姉様が僕を見るや否や、抱きついて来る。


 「ただいま~レインちゃ~ん」


 「ちょっ!!待って……がっっっっ!!!」


 ライ姉様、力強っ!!


 「レインちゃんレインちゃんレインちゃん!!!!」


 「あがっ!!」


 骨がっ!!骨がミシっていった!!ミシって!!


 「レインも寂しかったよねぇ~~」


 「離……して……ぐはっ!!!」


 そうか、思い出した。ライ姉様って力が強くて、スキンシップという名のプロレスが激しい人だったんだ。


 「助げ.... 」


 すぐそばで温かく見守っているメイド達にこれでもかと、助けを求める。

 

 「.......」 「......」 「.......」


 だが、メイド達は、まるで子猫のじゃれ合いを見ているかの様に微笑むだけだった。


 「く、クラム......」


 「レイン様......愛され者ですなぁ〜〜」


 「ち、ちが...ごばっ!!」


 レインの記憶が警告を出していた理由がわかった。ライ姉様、彼女は力が強いのだ。


 そしてその後、ライ姉様は、あれから少ししてやって来た、青ざめた顔をしていた護衛の人にお風呂へと連れられて、僕は解放されたのだった。


 ♢


 「ねぇ、ミミ?僕の背中ちゃんと付いてる?」


 「はい、付いてますにゃ。とびきり可愛らしいのが」


 「良かった……」


 すると、突然ミミが耳をピンっとさせ、ばっと立ち上がった。


 「あっそういえば!!花壇のマンドラゴラまだお水あげてなかったにゃ!!そういう事だから、じゃあねレイン様」


 相変わらず自由奔放で話に脈絡のないケモミミだと思った。


 「あぁじゃあね……ちょっと待て今、マンドラゴラって……もう居ない。しょうがない、あとで花壇を燃やしとくか」

 

 ちなみに今は、クラムが「少し待っててください!!」とか言ってきたので、僕は大広間にあるカーペットの表面を撫で、変わる模様をぼーっと眺めながらクラムを待っている。


 すると、住み込みメイドの一人のシルナが貴族家の大広間によくある大きな階段から降りてきた。


 「れ、レイン様……なんてだらしない姿でカーペットすりすりしてるんですか……」


 「シルナ、わからない?ガールデン家に代々伝わる悪魔召喚の儀式をしてるんだよ」


 「そんな物騒な儀式をうちのカーペットでやらないで下さい。ていうか、どこでも絶対にやらないで下さい」


 そう言いながら、シルナはジトっとした目を僕に向けてくる。


 「まぁまぁ、話半分ってやつだよ」


 「それ半分降臨して来ちゃってません?お家壊さないでくださいよ。あと世界とか」


 「大丈夫、大丈夫。世界はともかく僕達の帰る場所は、命に変えても守るから」


 「……」


 そういう事じゃないですよ、とでも言いたげな顔でこちらを睨む。


 「実は今クラムに待たされてるんだよ」

 

 「クラムさんに?」


 「うん、なんか”待ってて~”って、」


 「たく…あの人は…どこに自分の主を放ってくメイドがいるんですか。すみませんレイン様、クラムは私が探してきますので」


 「え?それは悪いよ、シルナの仕事だってあるんでしょ?」


 「いえ、私、今夏休暇中ですので」


 「いやいやいや、余計申し訳ないよ!!シルナの予定もあるだろうし…」


 「いえ…とか……ので」


 「……なんて?」


 「いえ、一緒に遊ぶ彼氏とか居ないので」


 ……………………


 「なにか言ってください」

 

 いつの間にか、僕の目は同情の色に染まっていた。


 「い、いろいろあったんだな」


 「何もなかったんですよ、出会いとか」


……今度みんなで海にでも行こう、そう思った。



 シルナがクラムを探し出してから数分後、首元を掴まれたクラムと首元を掴んでるシルナが奥の部屋から歩いて来る。無論僕はずっとカーペットを撫でまくっていた。


 「捕まえてきましたよ、レイン様」


 「捕まってきましたよ、レイン様」


 「どうしてクラムさんが、そんな態度出来るんですか」


 「それよりレイン様。今度はこの服を着てみませんか?」


 よく見ると、変に抵抗したせいで”掴まれる”から”担がれる”に昇華したクラムは、大量の服を持っていた。


 「クラムさん、レイン様を着せ替え人形にしないであげて下さい。殴りますよ?」


 シルナがこぶしを掲げ、ほれほれと見せびらかしている。


 それに対し、クラムがふふんと鼻を鳴らす。


 「安心しなさいシルナ。もちろんあなたにも徳があるわ。あなたにも服を選ぶ権利をあげるわ」


 いやいやそんな事でシルナが釣れるわけないだろ、ライ姉様じゃないんだし。


 「っ……!!!い、いやその手には」


 ………「っ……!!!」!?い、いやまさかな…

 

 「私知ってるんですよ。あなたのクローゼットの中身」


 何の話だ。


 「!?な、なぜそれを!?」


 「今ならあれが日の目を浴びることができるのよ」


 ……まさかそんなシルナまでもじゃな


 「…………クレン様、脱いでください」


 ダメだった。


 「くそっお前だけは大丈夫だと思ったのに……僕を着せ替え人形にするつもりだろ!!!」


 「ですがレイン様、そのドレスのままおかえりパーティーに出るおつもりですか?」


 シルナが僕の着ている服を指さしながら言う。


 「あっ!!っすぅぅーーっっ……子供用のスーツとかない?」


 「子供用のスーツですか!?もちろんありますとも!!とびきり可愛いのが!!」


 そう言って、クラムがガサガサと大広間横のクローゼットを漁り始める。


 「いや、可愛さはいらないんだけど……」

  

 この後、2時間にわたって着せ替え人形にされた時のことについては何も語るまい。


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