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21 逃げるか、戦うか

「はぁ……! はぁっ、はぁ、はぁ……!」


 崩れた岩の間をすり抜けながら息を切らして走った蒼髪の少年リクト。

 先ほどすり抜けた岩が元々(もともと)ただの岩だったのか、それとも誰かの家の残骸だったのかすらも判断できない。

 しかし、崩れ果てた岩は巨人から身を隠す壁の役割を充分に果たしていた。

 それをリクトは利用したのだ。


 自分が生き残るために──。


 リクトはひと際大きい岩を見つけると、大岩の陰にさっと隠れた。

 岩から少し顔を出し、巨人の様子を探る。

 巨人二体と《紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》はあたりに視線を巡らせていたが、しばらくするとリクトに背を向けて巨体を揺らし、ズシン、ズシンと反対方向へと去って行った。

 思惑通り、リクトの姿を見失ったようだ。

 リクトは息を整えながら胸を撫でおろした。


 とりあえず、ヤツの注意を()らす事には成功した。

 しかし、ヤツを倒すにはパワータイプの相手に対抗できる召喚獣が必要だ。

 現在手持ちの召喚獣で対抗できるのはメアしかいない。

 けれども、メアを再度召喚するにはもうしばらく時間がかかる。


 リクトは再び《ソロモンの鍵》を出現させてからグリップを握り、魔導銃(グリストル)の表面に視線を滑らせながらため息をこぼした。


「今の自分は、玩具(おもちゃ)の鉄砲を振り回すだけの──ただの子供だな……」


 そんな事を考えていると、《紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》はぴたりと動きを止めた。

 巨人が目線を下に向けたその先には、地面にしゃがんで一人泣いている子供の姿が見えた。


 《紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》は視界にとらえた7歳ほどの女の子を新たな標的に変え、巨大な腕が女の子のもとへと伸びた。

 リクトは咄嗟に石ころを投げ飛ばす。

紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》の眼前で石ころは砕け散った。


「グアッ?!」


 閃光が巨人の目を突き刺した。

紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》は声をあげてのけぞり、まばゆい光を巨大な手で(さえぎ)った。


 ゲームには敵と戦闘に突入する際、ほとんどの場合、逃げ道が用意されている。

 プレイヤーはその敵と『戦う』か『逃げる』かを選べるのだ。

 もし、『逃げる』を選択した場合、確率で失敗すれば、強制的に戦闘となり、敵から先制攻撃を受けることになる。

 逆にもし逃走が成功した場合、敵との戦闘を回避できる。


 そして《アスカナ》にもその逃げ道が当然のことながら用意されている。

 ボイスコマンドの『逃げる』でも戦闘を回避できたが、もう一つ手段がある。

明煌石(めいこうせき)》という名のアイテムが、それだ。

 使い切りの魔法アイテムで、要するに“目くらまし”である。

 この世界がもしゲームとは別の世界であったとしても、相手が()()()である限り、目を塞ぐ(ふさ)事ぐらいは可能のはず。


「グググググァアアアア!」


 《紅き双角巨人レッド・ダブルホーン・サイクロプス》が狼狽(うろた)えてる(すき)にリクトは岩陰からさっと飛び出し、巨人の手から女の子をかっさらった。

 相手が子供とはいえ、人一人を抱きかかえて走るなど、貧弱な体力の自分には難易度が高かった。

 ところが不思議な事にリクトは楽々と子供一人を運んでしまっていた。

 これが火事場の馬鹿力なのかとリクトは思ったが、実際のところは違った。

《アスカナ》の設定では《召喚士(サマナー)》が町の中にいた場合、走る移動速度が24%上がる事をリクトはすっかり忘れてしまっていた。


 どうする……どうすればいい!


 いくら早く走れても限界はある。

 さすがに疲れを感じ始めたリクトは近くにあった岩小屋に素早く身を潜ませた。

 抱きかかえていた女の子をそっと下ろす。

 女の子は眉を垂らして不安そうにリクトをじっと見つめてくる。

 リクトは不安がる子供を安心させようと、子供の目線に合わせて(かが)み、口元に人差しを当て囁いた。


「ここでじっとして。静かにしてるんだよ」


 女の子は涙声で「うん」と言って小さく頷いた。

 リクトは再度巨人の様子を伺い、移動のタイミングを見計らう。


 しかし、考えてみればこういう時に限って、だ……。

 冷静にならなきゃいけない状況になった時に限っていつも子供と出会う。

 大人だったなら放っておけるのに……。

 ()()()()()だってそうだ。

 草原の道で見かけた子供を追いかけていなければ、こんな騒動には巻き込まれなかった。


 女の子のほうをちらりと見やる。

 いつの間にか女の子は真後ろにいた。

 小さな手は小刻みに震え、リクトの服の袖を引っ張り、身を(かた)くこわばらせている。

 その様子を見たリクトは小さくため息をこぼした。


 子供ってずるいよ。助けてほしいのはこっちなのに……。


 巨人の足音が次第に(とお)のいていく。

 リクトはもう一度、岩の陰から顔を出した。


「……行ったか?」


 すると、ペチペチと頬をエレウが叩いた。

 いつの間にポケットから出てきたのだろうと思ったが、どうもエレウの様子がおかしい。


「? どうしたの、エレウ。巨人はもう行ったよ」


 エレウは首を横にブンブンッと強く振る。


「違う? じゃあなに?」とリクトが()いかけると、エレウは必死に人差し指を上に突き上げた。


「“上”──?」


 エレウに(うなが)され、何気なしに頭上を見上げる。

 すると、さっきまであったはずの岩の天井は無くなっていた。

 その代わりに大きな一つ目を見開いた()()()()が眼前にあった──……。

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