08
私は吠えた。長く遠く、主に聞こえはしまいかと、吠えた。
もう二度と、届かないことを知っていて、吠えた。
『あしなが』達は、私を遠巻きにして近寄ってくることはなくなった。
そこには、主の匂いが濃厚に満ちていて、目を刺す黒い煙がただただ痛く、苦しく、喉を灼いていったが、それでも私は立ち尽くしていた。
そこに立って、ただ主が燃えるのを見ていた。冷たくなった物言わぬ主が、もう二度と私に命令することがないと、知りながら『待って』いた。
やがて火は尽きて、骨となった主がチラチラと燃える埋み火の中から粛々と取り出されるのを、私はただ見ていた。
白く、まろい、そのされこうべは、主のものではあったが、もはや主ではなかった。
それでも、主は『待て』と言ったではないか。
どうして私を置いていった。悲しい悲しいと笑いながら、どうしていつものように私を傍に置かなかった。どうして。どうして。
悲しい。悲しい。
喉奥から、堪えきれない遠吠えが、脳天を突き、焼けた喉奥からほとばしる。
まだ『あの音』の意味も、最後に主が言い聞かせていった命令の意味も、教えてもらっていない。何を想って、私にその言葉を残して言った。主よ。
『さよなら』とは何だ。
『あいしている』とは、何だ!!
まだ、その命令の意味を、私は知らない。