#25
少年は自分の容姿に自信がなかった。だから今回の事故も仕方のない事だと受け入れた。
平々凡々とした家庭で、学校でもとくに人気のある生徒というわけでもない。最下層だとは思っていないが特に告白やバレンタインのイベントなど想い出に残るような経験もなかった。自分はモテない。それが当然の認識だった。
母は事故による傷あとが残るだろう、その事をかなり気にしている。
そのヒステリックにも見える熱意は裕也にとって有難くもあったが、その事を考えてもどうせモテないのだから、将来に支障があるわけもない。だからきっと困らないだろうという楽観的な気持ちを後押しする。
事故については断片的な記憶しかなく、……交差点、青信号、衝撃、アスファルト、鉄の味……気がついた時には病院のベッドの上だった。
何故か目の前が半分見えなくて包帯の上から傷を強く触ってしまい、予想外の激痛に悶絶した。
母から、お前は事故にあったのだと説明された時、加害者の車の事よりも先に思ったのは『自分がドジを踏んだ』という羞恥心だ。
自分の顔は気になったが、母が『見ない方がいい』と言ったから気にしないように努めた。だが入院生活に慣れて、精神的に余裕が出ると次に出てくるのは『暇な時間』だ。そうなると気にしないようにしてきた事が逆に気になり出す。
柊看護師は『ヒマだったボク』に絶妙なタイミングで会心のお話をしてくれた。
「夢鏡って知ってる?夢の中でしか見れない鏡なんだけどね……魔法が掛かってて、それにお願いすると何でも見れちゃうの。自分が大きくなった時の姿とか、赤ちゃんの頃の姿とか……自分以外でも、誰かの事を見る事も出来るわ。絵本の『白雪姫』に出てくる魔法の鏡のモチーフになったんじゃないかって、うさおが言うのよ……あ、『タキシードうさお』って子が居てね……」
名前は間違っていたが、裕也の興味、好奇心と思いは強くなり、柊看護師のおとぎ話のような予言はそのままに夢の世界を呼び寄せた。
裕也は願う、大きな身鏡の前で。
「大人になった僕を見せて下さい」
鏡に映る少年は未来を望んだ。