#17
濃厚な群青色が広がっていた。
闇に照らされたビル群が地上に星屑を散りばめるように、天空にも無数の灯火が瞬く。微かに流れたひと粒は丘の上の鉄塔に弾かれて方向を変え、別の光にぶつかってはビリヤードの球のように乾いた音を奏で合った。
弾き飛ばされた光の中で一番大きなものを指差すと、空中を跳ねる白兎と少年は手を繋いでそれに飛び乗った。
丸い光の球の上で「星は星型だろう」と言う少年の呟きにより、光は姿を変えてくれたが、若干乗り心地とバランスが犠牲になったようだ。少年寄りに傾いたまま、星は夜空を滑る。
このまま何処まで行くのか?少年が案内人の白兎・クレイバーに尋ねると、白兎はタキシードの内ポケットからクシを取り出しながら言った。
「ミスターユウヤ・キクチ、貴方のおっしゃる夢鏡ですが、実は夢世界での鏡、その全ての事であります。つまり、大小様々、普通の一般家庭でも一つ位は鏡が有るでしょう……」
「うわ、さっきお風呂場に行けばあったじゃないか」
口を挟んだ裕也に首を振って答える白兎。ヒゲと耳を整えると自信に満ちた表情をする。
「……いえ、ございません。正確には見ることが出来ません。夢鏡はその力によっては現実世界にまで影響を及ぼすモノ。厳重に管理されていますから、もし見る事が出来たとしても、力を封じられているか、もしくは……管理人がサボっているか、まぁ、あり得ませんけどね」
「管理人……?」
「ミスターユウヤは夢の中で、鏡の前で髪の毛をセットしたり歯ブラシをしたなんて夢、見たこと有りますか?」
裕也は首を横に振る。
「ない」
「当然です。まれに見たことがある人もいらっしゃいますが、遅刻をしたり歯がボロボロになって抜け落ちたりと、程度の差は有りますが、おおかた悪夢を見るハメになります」
裕也は自分の歯が抜ける事を想像して身震いした。思わず口を手で押さえる。大丈夫だ。
「夢鏡は光の住人達が管理しています。私は夢の世界に携わる、闇の住人に属する者。夢鏡についての権限はあいにく持ち合わせておりません」
「どうするの?」
「光の住人に会いに行きます」
クレイバーは街のビル群から少し離れて、一軒家が建ち並ぶ住宅地を指差した。星が輝きを増してその先に向かって流れる。
徐々にスピードが乗っていく。
裕也が心配な声を上げる。
「このままだと家にぶつかるんじゃない?」
「ぶつかるのではないか?といえばその通り。かつてパン工場の煙突にーー
全て言い終わる前に星は家の二階に突っ込んだ。




