第22話 復讐の男、TM
しまさは、腹の出たスーツをだらしなく着た男へ向かって、静かに身構えた。
次の瞬間――。
「ドッ!」
10メートル先の距離を、しまさはたったの2歩で詰め、飛び込み突きを叩き込んだ。
「は、速い…」
アイリは、その異常な俊敏さに目を見張った。
「ドオーンッ!」
拳が男の腹に到達した瞬間、フロア全体に轟音が響き渡る。
しかし、その衝撃にも男は眉一つ動かさなかった。
次の瞬間、男の太い腕が振り上がった。
「ツカーン!!!」
しまさの身体は10メートル吹き飛び、床に転がった。
顔こそ無傷だったが…ほんの少しだけ、うんこを漏らしていた。
それは、プーラ王女から授かった禁術――
「全ダメージ腹集約法」 の副作用だった。肉体が受けるべきダメージを全て腹に集中させることができるのだ。
しかし、強すぎる衝撃を受けすぎると、一生うんこが漏れ続ける身体になるという恐るべき技である。
しまさはその男を睨みつける。
男は重々しく名乗った。
「俺の名前はTM。以前、お前の会社で働いていた男だ。」
「ま、まさか……お前、●田か!?」
「しまさ、知り合いなの?」
アイリは驚きに目を丸くする。
TMは、低く絞り出すように言った。
「――あいつは、俺のすべてを奪った男だ」
◆ ◆ ◆
――10年前。
「●田ぁ! お前のせいで一億円の仕事が飛ぶところだったんだぞ!」
「で、でも…社長がそうしろって…」
「俺がそんなこと言った覚えはない。」
理不尽な叱責は、日常になっていた。
しまさ社長の言葉は、朝令暮改なため信用できなかった。
だが●田には、守るものがあった。
大学へ行かせたい息子。
返済中の住宅ローン。
高い給料のためなら、どんな理不尽にも耐えられた。
そう、自分は思っていた。
「今から錦に迎えに来い」
「い、今からですか? 朝の5時ですけど!」
「来い。絶対だぞ。」
どんな無茶な命令にも逆らわなかった。
それが、しまさへの“信頼”だと信じていた。
――しかし、終わりは突然訪れた。
「●田。お前、使えないから今月で解雇な」
「代わりは○方だ」
「…え?。自分が役員になる話は?」
「役員の話? あれはナシだ。
退職金は給料3ヶ月分に色つけてやる。ハングリーに生きろよ。」
60歳で突然の解雇。
同じ水準の収入の仕事など見つからず、
気づけば、建築現場で旗を振る日雇いの老人になっていた。
積み重なる疲労は限界を超え、●田は倒れた。
医者は告げた。
「あなたは…二度とラーメンを食べられない身体です。」
昔はスポーツマンでモテた自分が、
いまは腹の出た、冴えない老人。
すべては、しまさのせいだ。
復讐。その二文字だけを胸に、●田はTMに名前を変えて修行に身を投じた。
そんな様子を見かねた家族は俺の元を去った。
そして今。
「しまさ……お前を殺すために、俺は鍛え抜いてきた。」
アイリは凍りつき、しまさは拳を握り直した。




