召喚されまして
「よくぞ参った。救国の聖女殿」
普通に歩いていたら落とし穴のようなものに足をとられたのを覚えている。
やばっ、と衝撃に身構えていたらそんな声をかけられた。
一瞬呆気にとられたものの、状況把握に脳が動き出す。
己が周りに巡らされた、漫画やゲームでみるような陣。
ローブを着こんだ数名の人間。
目の前には、先ほど声をかけてきた明らかに身分の高そうな人間とその側に控える人間。
これってよくラノベでみる、聖女召喚ってやつ…?
どうやらわたくし、犬飼七夜(いぬかい ななや・女・一般企業事務員・26歳・独身彼氏無)は、異世界に誘拐されたようです。
「我はこの国の王、ラベートと申す。聖女殿、私どもにお名前をお聞かせ願いませぬか?」
止まりそうな思考を懸命にぐるぐる巡らせている私に、王様だと名乗る男が問い掛けてきた。
これは質問という名の強制だな。
はよいわんかいっていう圧力かんじるもの。
あまりいい流れではなさそうだ。
なれば。
「わ、わたしの名前は、しの。しの ななです…」
「ナナと申すのか、よき名だな」
にっと笑った顔は中々イケオジではあるが含みがあるのがまるわかりである。
名乗ったあと、なんか私の周りに嫌な感じのキラキラエフェクトはいったわぁ。
これ、名前で縛ってなんかされるやつじゃん…。やっぱ偽名名乗っといたの正解だわぁ。
なぜだかそうだと理解できてしまうのはこの世界にきて得た能力のおかげか、「聖女」という能力(迷惑)のおかげか。
どちらにせよ、厄介この上ないところに来てしまったようだ。
幸い、能力の扱い方はわかる。
こいつらに私を従わせる能力はない。
やつらが持ってる道具の中に魔道具があるのも見える。
万一を考えて用意されたそれでさえ、私にたいしては意味がないのも理解ってしまう。
それにしてもこんな状態なのに案外冷静でいられてるのは、向こうで長らくオタクしてたおかげかな…。
「聖女ナナよ、我が国の浄化と豊穣の為に努めるがよい」
遠い目をしてそんなことを考えていたら、陛下からのご命令くだりましたわ。
早速臣下扱いかよ、この野郎。
なんて思いはおくびにもださず、俯きがちに「はい」と答えておく。術に捕らわれていると思われていた方が状況見極めやすいしね。
その後は陛下退室、廻りにいた神官っぽい人に連れられて別室に移動して魔力や属性やら所謂ステータスを無理やりみられ(この世界での中間よりの数値に偽装済み)今後は魔術の訓練をしていきましょうからの、ほいお前この部屋で寝泊まりせえよ、と案内された部屋に放置なう。(表現が古い)
うん、ねぇわ。
この一連の流れのなかで、私に同情的な目を向けてくれた人はいなかった。
貴族やら要人は表情や態度に思いを露出させてはいけないから、そんなことわからんだろって?
…聖女スキルこわい。
この一文でおわかりになるだろうか。
そうなのです。聖女スキルでわかっちゃったのです。
意識して「視る」と対象の感情が、うっすらオーラ的なもので視えてしまったのだ。流石に何を考えてるかまではわからなかったけどね。
閑話休題。
移動中に私をみたこの建物内(城なのか神殿なのかわからん)の人間は、明らかに異なる見た目や服装の私に無関心か下の身分の者を見る眼差しだった。
いい服来た奴らもローブ着こんだ奴らも、使用人でさえも、だ。
つまりは、この国では「聖女」と呼ばれる存在はその程度として扱われているということだろう。
まあ、暫くはおとなしく世話になりますかね。
ここから出るにしてもある程度知識は必要だし。
と、思っていた時が私にもありました。
召喚から今日まで、来る日も来る日も魔術の座学と実践練習。
それ以外は部屋から出ることは許されず、外の知識を聞いてものらりくらりとかわされて教えてもらえない。
この部屋には風呂、トイレ、洗面台やらはあるし、朝夕の食事も運ばれてくるから問題はないけどさ?
あ、昼は座学と実践の間に部屋の外でとらされてます。ようは軟禁よ、軟禁。
あとひと月ほどしたら魔術の詰め込みが終わってお披露目と相成るということを勉強中にやつらがこそこそ話してるのを耳にした。
お披露目になったその後はこの国の為に使い潰されるのは目に見えて明らかである。
そんな冗談はよしこさん。(だから古い)
誰がそんな思惑にのってやるものか。
ってことで。
あたい、ここから出奔するわ。
もとよりここに召喚されてから魔術の扱い方はわかっていた。理由は、ほら、オタクの知識が、ね…(そっと目をそらす)
おとなしく奴らにあわせてたのは前述のとおりである。
ここでお外の知識が得られないならこんなとこにいる必要もないし、適当に偽装してとっととおさらばするですよ。




