奏を殺害せよ(6)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
ツインドラコスラッシャーの耐久性と二刀流という利点をフルに使い、手数で押す青龍と、卓越した技量と身体能力でワイヤーカッターの欠点である脆弱性を補い、修羅の如き強さを見せるペガサス。
獲得報酬ランクに差はあれど、実力伯仲な両者の戦いは熾烈を極めていた。
となれば、警戒すべきは相手の本気。すなわちそれは、龍人化と光の力の行使。それを使われたら相手側に一気に流れが傾くからだ。
なのに、青龍は龍人化をしなかった。
ペガサスの行動に疑問を持っている彼は、よほど決定的なことでもない限り、刃を交えつつも説得するつもりなのである。
「なんでそんなに人を憎むんだ! そうじゃないにしても、神様の言うことをなんでも聞くなんておかしいよ! 疑うぐらいしたら!?」
「憎しみも疑いも、人や悪魔が持つ邪心・八邪の一部。そんな醜い感情を僕らが持ってるとでも? 冗談じゃない。神様や世界のためなら、僕は一切の疑念を持たずに人を滅ぼし、なんの躊躇いもなく自らの命を絶つ」
「そんなの生きてるって言わないよ! ペガサス君にだって意思ぐらいあるだろ? だったら、それを貫くべきだ!」
この言葉が癪に障ったのか、ペガサスは拒絶するようにワイヤーカッターをフルスイングし、青龍と距離をとった。
「わかった風なことを……神様の下僕として忠誠を誓い、神様と亡き友が望んだ世界を作る。それが僕の意思であり、信念だ! 少なくとも……自分ではそうしてるつもりだった。あの時までは……」
「あの時?」
青龍がそう聞き返すと、ペガサスは青山姉弟に、あの時のことを初めて語った。
綱手の風フェスタの数日前。神様から任務中止と帰還命令が下ったペガサスは、天国に帰還することになっていた。
そのためには自分を縛る器、すなわち、地上でできた人間の親友・翔馬を殺すということになる。
神様の命令とはいえ、普通なら罵倒や幻滅をされてもおかしくはない。だが、親友の感情をよく知る翔馬は、ダチのためになるならとこれを快諾。当日、彼を天国に帰すために自らの命を絶とうとした。
しかし、結果としてペガサスは帰ることができなかった。帰還に必要な儀式に不手際があったからである。
帰還に失敗した彼は、拠り所を求めて翔馬をリヴァイヴで復活させたことで表面上は元通りになったが、その代償はあまりにも大きく、任務という地上に居続ける意味を失い、故郷に帰ることもできなかった彼の心は以前にも増して壊れ、自他共に認める空虚な存在と化してしまった。
今や、ペガサスにとって人類抹殺と世界の浄化は使命ではなく、大義という名の歪んだ存在意義と言えるだろう…………
これが、あの時の自爆の真相と彼の現状である。
「……今の僕は、神様という人形使いが使命という糸を切ってもなお、糸が繋がってると勘違いして動き続ける愚かで哀しくて壊れた人形なんだ」
「自分のことを、人形だなんて……」
「けど事実だ。ふっ、愚かだろ? 滑稽だろ? 笑ってくれていい。罵ってくれていい。は、ははは、ははははは……」
そう言ってペガサスは笑った。
涙を流しながら途切れ途切れに笑う。その様は、まさしく彼自身が形容した壊れた人形そのものと言えよう。奇しくも同じ場所ということあり、青龍は嫌でも既視感を覚えてしまう。
もう黙ってはいられない。そう思った青龍は、武器を捨て、危険を承知で歩み寄ると、涙に濡れた彼の両頬を優しく包み込むように触れた。
「……もういいよ」
「……え?」
「愚かなんて思ってない。滑稽なんて思ってない。笑いもしてないし、罵ったりもしてないだろ? 壊れてるのは、僕も同じだから……だから、自分を貶めるのはもうやめよう」
その一言だけで十分だった。ペガサスは泣き笑いこそやめなかったが、青龍の言葉によって戦意を喪失したらしく、ワイヤーカッターから手を離した。
ペガサスが戦闘停止したことで、奏に迫る脅威はひとまず去った。
が、安心してはいられない。ペガサスとの一騎討ちは言うなれば前座。まだ黒龍らブラック・ナイトと死獣神被害者の会との戦いが残っているのだから……
ペガサスが言っていた八邪とは、人間や悪魔等が特に抱きやすい邪心や言動のこと。すなわち、怒り・悲しみ・憎しみ・恨み・嫉妬・嘘・強欲・疑いのことを指します。(ただし、誰かのために抱いたものは対象外となります)
これらや復讐心のような混ざりものの邪心の赴くまま行動することは、天道に反するとされており、ペガサスは己の信念と育ってきた環境等から天道から外れることを忌み嫌っております。
ちなみに、天使には生まれつき光の抗力というものがあり、負の感情が湧くとそれを相殺し、沈静化する効果があります。




