2人きりの時間(2)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
数分後、野点を後にした龍は、未来の悩みを聞くべく、人気のない小学校のプール付近に場所を移した。
「なんか、ごめんね。龍君」
「いや、それはいいんだけど。何かあったの? よければ詳しく聞かせてくれる?」
「……うん……」
そう言ったあと、未来は浮かない表情をしている理由を躊躇いつつも明かしてくれた。
きっかけは、4日前の深夜に人知れず報じられた京介が拉致・監禁等の容疑で指名手配されたというニュースだった。
あの一件のあと、独学でデミ・ミュータントを生み出せるようになった彼だったが、その技術を人類の発展のためではなく、我欲のために使い、非人道的な実験を繰り返した末のことである。
おかげで同じ研究者である彼女も、ただでさえ『遺伝子操作は邪道の医学』という風潮があるのに、彼のせいでさらに印象が悪くなったことで、資金面等の協力者が減り、研究が滞ってしまったのだ。
「……ほんと、大変で……」
過度に心配をかけまいと笑顔を取り繕う未来だったが、実際問題大変の一言で済む話じゃない。
知り合いが指名手配されたショックもあるだろうが、両親の遺志を継いだ彼女の研究自体が京介のせいで頓挫する可能性が十分にある。その苦しみは計り知れないだろう。
故に、この先のことを考えると、本当は笑っていられる余裕など無い。
なのに見せる笑顔の奥の苦しみを、龍は見逃さなかった。ようやく雲雀らの真意に気付いた彼は、気丈に振る舞おうとする未来を優しく抱き、彼女の頭を撫でながら、
「……無理しないで」
「龍君……?」
「辛い時は『辛い』って言って。そう言ってくれたら僕だって遠慮なく力になれる」
と、優しい言葉をかけた。
「……ダメだよ。龍君にまで迷惑かけちゃう」
「かけてくれていい。散々君に迷惑をかけてきたから、今度は僕が助ける番だ。といっても正直、専門的なことは全くわからないけどね。でも少なくとも、弱音や悩みを聞いて側で寄り添うことはできる。そういうのじゃダメ、かな?」
そう言われて未来は、溜め込んでいた苦しみを吐き出すかのように涙を流した。
「……ズルいよ。そんな風に言われたら、断れるわけない」
「未来さん?」
「あのニュースがあってから、ずっと不安だったの。これをきっかけに、お父さんが命がけで進めてた研究が終わっちゃうんじゃないかって。実際、それぐらいピンチだし。けど、だからって思い詰めてたら、龍君やみんなに心配かけることになる。だから……」
「むしろ逆だよ。そこまで大切に想ってくれてるのなら、なおのこと僕らを頼ってほしい。自分1人で背負いこんで無理するより、その方がずっといい」
そう言うと龍は彼女から体を離し、右手の小指を立てた。
「未来さん。約束して。どうしても辛い時は僕らを頼るって。大したことはできないかもしれないけど、それでも、僕らにしかできないことがきっとあるはずだから」
そう言われて未来は涙を拭い、
「……そうだね。好きな人が、大切な人達が側にいてくれる。それだけでも、十分心強い」
と、言って龍の小指に自分の指を絡ませ、指切りをした。
死を越え、昔と色々変わってしまっても、根っこにある大切な想いまでは変わらない。子供の頃の初恋相手同士である2人には、龍がよくやる中学3年とは思えない幼稚なこの方法が1番合っていたようだ。
『京介って誰?』と思った方は『死獣神~誕の書~』を見返してみてください。