18.旅の途中②
翌朝、僕は顔をタシタシと叩かれて目を覚ましました。目の前には真っ白なモフモフ。って、アレキのお腹か。
「うぅ、アレキ。おはよう」
目覚めに顔を洗って、身繕いを整えます。もちろん、下着類は昨夜寝る前に交換と、洗浄・乾燥を魔法でしてあります。着たままやっても良いのですけど、やはり交換しないと痛みが早くなりますからね。
アレキが騒ぐので、少量のご飯を上げますが、一日分の食事量は決まっていますからね? 早く食べた分残りが少なくなるだけです。
キャビンの中を片付けてから外にでてみると、今日はどんより曇り空ですね。麻のうちだけかも知れませんが、低く雲が垂れ込んでいて、一雨振ってきそうな感じもします。
まあ、毎日気分の良いお天気というわけにもいきませんよね。さてさて、朝の日課じゃありませんけど、シートに座りっぱなしでは身体が固まる感じがしますので、軽く運動しておきましょう。
最初は軽く左右の拳の連打から、アッパーやフックなどに繋げて上半身周りをほぐします。続いて前蹴り・横蹴りから回し蹴りへと連動して下半身も問題なしですね。
続いて左右の魔銃の抜き撃ちです。もちろんトリガーは引きませんよ? 環境破壊になっちゃいますからね。
左右抜き撃ちを100回ずつ繰り返した所で、小型ーターゲットドローンを飛ばします。以前イリスさんに練習させたアレですが、今は練習モードではありませんので、殆ど止まるという事はありません。
左右の魔銃で狙い撃ちますが、時折反撃の可視光レーザーをこちらに撃って来るので、回避しながらの対応です。うんうん、今日も特段問題がありませんね。実戦でそうそう使えないので、腕が鈍るのは困りますから、毎日の練習は必須なんですが、エリーゼさん達と一緒だとなかなか練習できなくて、困っていましたからね。
最後に天羽々斬で剣技の確認をしておしまいです。ざっと、通しで30分くらいかかりましたが、軽く汗が流れる程度です。最後に身体洗浄と衣類洗浄・乾燥を魔法で行って、キャビン内で朝食を軽く作って食べてしまいます。人心地ついた頃には、移動を始めるに良い頃合でしょうね。
そんな僕の朝の日課を、横目でアレキが見ていますが特に何も言ってはきませんね。何故そんな事をしなければならないんだという感じで見ている気はしますが……
「FC1、キャビン収納後、機乗体勢に」
僕の言葉で、FC1のキャビンが機体に収納されます。イメージとしては、大昔の特撮物のサ○ダーバ○ド2号ですね。キャビンが上に上がるのではなく、機体が下がる事で収納される点が大きな違いですが、高さが高いと乗るのに苦労するので助かります。
「さ、アレキ出発するよ?」
僕は操縦席にもぐりこむと、後方の空きスペースにアレキがさっさと潜り込みます。一応アレキ用の場所ということで、かるくクッションなんかも入れてありますし、機内の温度と日射量で赤外線はシールドされますから、暑くなりすぎる事もないでしょう。
浮上を開始して、周囲を確認すると、草原の中でFC1を駐機していた場所だけ円形に草が倒れていますね。あれ? これって地球だとミステリーサークルになっていませんかね。まあ、ここは地球じゃないから大丈夫かな。気にしないで行きましょう~。
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マルク領を離れたと見えて、周囲は森や林が点在するようになっている分、所々に魔物や魔獣、野獣が点在しています。しかし、森がある為人の住む場所とは住み分けがある程度出来ているようで、あまり村や町の近くには存在していないようですね。
空はますます暗さを増していますので、これは確実に一雨来るでしょうね。上空から比較的大きな街を探してその上空に移動します。
町の様子や店舗の状況を確認してみますが、特におかしな点はありませんね。人口も5000人程度の、比較的大きな町ですが、道行く人々には様々な種族の方も居ますし、人々の胸にひし形に十字印のルキウス教信者の証を下げている人もそれほど居ません。
「アレキ、ここで補給するよ。君はどうする? ここに残る? それてもついてくる?」
僕が声をかけると、アレキはこちらも向かず尻尾をひょいと持ち上げて降ろします。むぅ、これは聞こえてるけど関心がないということですね。猫をつれて歩くのも目立つから、まあいいでしょう。
僕はアレキをおいていく事に決めて、町から歩いた街道からも少し離れた場所にFC1を駐機させて町へと向いました。途中、小川と言っていい程度の川に架かる橋を渡ります。橋自体は普通の木造でそこそこの痛み具合ではありますが、周辺の農地への通行に使われているようで、それなりに整備されています。
町はほぼ同じ作りですね。円形の外壁に四方に街門を持った作りです。街門には衛士の方がいますが、特に人々の荷を検めたりしている訳ではないようです。どちらかというと町の周辺を監視している感じですので、魔物や魔獣・野獣への警戒が目的でしょう。盗賊が居たとしても、5000人も住む町を狙うわけもありませんしね。
街門を抜けハンターギルド前を素通りしますが、今回は特に状況の確認は要らないでしょう。道行く人日との表情も穏やかですし、目つきが悪い人がうろついている事もありませんしね。
この町の食料品店は、各村からの出張販売所と食肉店に分かれているようですね。各村の出張販売所には、村で作った野菜などが主に並んでいますが、一部に干し肉や干し魚などもあります。店によっては燻製にされている物も多く、値段もそんなに差はありませんね。
地球と異なり、葉も根も土も着いていますが、今朝取れたての野菜なのでしょう。みずみずしい物が多いですね。野菜類にしてもあまり地球の物と変わらないようですし、葱や玉葱、芋類を少量買い込むことにしますが、店に入ってもお店の人があまりいい顔をしないんですよね。
買い物カゴにいれて、レジに持っていくわけではありませんので、お店の人にアレをいくつ、これをいくつという感じで会話しないと購入できないのですが、見た目が明らかに子供子供している僕を相手にしてくれないというか、胡散臭そうに見ています。
商品を手に取り、確認しようとしても勝手に触るなと暗に言われますので、仕方がありませんが懐から銀貨を数枚手に取り、お金を持っていることをアピールします。それで、愛想が良くなるわけではありませんが、普通に商品の購入が出来ました。
う~ん、やはり日本の接客とは違いますね。東領のお店が例外だったのか、地域が変わるとだいぶ接客の方法が変わるようです。まあ、こういった村や町では、見知った顔以外の人が買い物をするのは旅人くらいでしょうし、旅人にしては小さいから、貧民や浮浪児と思われたのかな?
肉屋のほうでも同様ですが、やはりお金を持っていることがわかれば普通に購入できました。保存食なのか、腸詰などもありますので、賞味期限というかどの位の日持ちがするのかを確認して購入します。アレキ用に適当なサイズのお肉も入手しておきましょう。
街門をでて街道を歩きますが、付けられている様子もありませんので、変な心配は無用のようですね。そう思い、小川を渡る橋に差し掛かりました。油断したわけではありませんが、数メートルの橋の前方を二人組の男と女の3人組に阻まれます。それと同時に橋の後ろでも足音が聞こえ、後方にも3人の人影が現われました。
彼らは手に、棍棒や投石用の革紐などを持っています。僕はそれを見て少し戸惑いました。なぜなら、彼らの年齢は僕とそんなに離れていないように見えたからです(あっ、もちろん肉体年齢ですよ?)。
「おい、ここを通りたければ通行料として金か食い物を置いていけ」
正面に立ったリーダーと思しき男の子はそう言ってこちらを睨みますが、正直それほど脅威は感じません。どうやら彼らはこの橋の下をねぐらにしていた孤児の様ですね。自分達より弱そうな相手と見て、略奪しようというのでしょうね。
「生憎、只であげる物はありませんよ。そして、もう1つ教えてあげます。武器を持って襲うのなら……」
そういって、僕は天羽々斬に手をかけます。同時に少年達が動きました。
「やっちまえっ」
男の子の声と同時に、前後から投石と同時に襲い掛かる子供達ですが、前から襲った男の子は、右側の男の子に峰打ちで左腕を打ち払う事で、前方2人に対処します。
峰打ちを直接受けた男の子の左腕は折れていますね。隣の男の子は、腕を折られた子がぶつかった事で、欄干に激突して倒れました。
後方からの2人組みは、振り切られた天羽々斬で、僕が半回転した事により、脛を打ちのめされ呻いています。まあ、骨折までは行きませんが、骨にヒビは入ったでしょうね。
これで4人。次の投石をしようとしていた前後の女の子は、風魔法で投石用の紐を断ち切りましたので次の攻撃はありません。
「……自分達も武器により反撃される事の覚悟があっての事でしょうね?」
僕はリーダーっぽい男の子に、天羽々斬の切っ先を向けて言いました。情け容赦ない? いいえ、それは違いますよ。
この世界では冒険者ギルド・ハンターギルドがあり、6歳で登録はできます。もちろん6歳で魔物の討伐などの依頼を受けることは出来ませんが、町中での雑用などは受けることが出来ますし、アレだけ大きな町なのですから、そういった低年齢の子供達用の仕事もあるはずなのです。
町の人々も、良い表情をしていたことからも、そういった子供用に仕事を出してくれる人も居るでしょう。でも、彼らはここで人を襲って手軽に食料やお金を得る方法を選んだのですから、幼いとはいえ盗賊なのです。今までは、町で仕事を請けて稼いだ孤児を狙っていたのでしょうけどね。
彼らをギルドに突き出しても、討伐や捕縛の依頼はでていないでしょうし、時間の無駄ですからね。彼らにその場で待たせて、橋の下の彼らの寝床から適当な板材を持ってきて、添え木6枚を作ります。
その後、震えているリーダーの男の子の着ている襤褸の腕の部分を左右切り取って、3枚の包帯と6本の紐状にしたあと、女の子2人に川辺に生えている女郎花とがまの穂を取ってきてもらい、女郎花の根と、がまの穂から取り出した花粉を魔法で乾燥させてます。
「女郎花の根を乾燥させた物は飲み薬ね。あまり大量に飲むものじゃないから、毎日少量飲ませるといいよ。量は薬師さんにでも確認したほうがいいね。がまの花粉の乾燥した物は塗り薬。傷口にまぶしてあげて。」
そうして折れた左腕と、ヒビの入った足にがまの花粉をまぶし、包帯を巻いて添え木を当てます。その上から、紐で上下を固定して完了です。魔法で治してあげる事は出来なくもないですけれどね。僕はイリスじゃないので、治療の失敗に責任を持つような心積もりはありません。
「あっ、次武器構えたら、腕の一本は覚悟してもらうよ?」
背後で棍棒を振りかぶろうとしていた男の子に、僕はそう言います。目の前で治療されている男の子の視線が動くのだから丸わかりですよ。そして、僕は女の子2人に、背嚢からパンを2つ取り出して渡します。
「あとは君達がどうするかを決める番だよ。このままこの男の子達と一緒に居るのも、町できちんと働くのもね。
そしてこれは君達の投石の狙いは正確だったから、これは僕からのご褒美。ひるんだ相手を叩きのめした功で、君達より多くのものを持って言っていた彼らに従うか、自分の力で稼いだ分は自分で受け取るかを決めてね」
僕はそういうと、歩き出しました。彼らの見えない場所まで歩いて、FC1へと移動します。さてさて、彼女達はどう決断するのかな?
「さぁ、アレキ。食料も調達できたから、次に行くよ!」
シートに戻った僕を、アレキはやはりピッと尻尾を振るだけで見向きもしてくれません。はぁ、ほんとに気まぐれな性格なんだから……
FC1を浮上させた僕は、先程の小さな橋の上で1つのパンを持って立ち竦んでいるリーダーの少年と、怪我をしてうずくまったままの3人の少年の姿をみて微笑みました。
彼らの見つめる先には2人の少女が、1つのパンを分け合って町への道を小走りに歩いています。その表情はここからでは判りませんが、きっと花が咲くような笑顔だったらいいな。僕は心からそう願って、名も知らない小さな町を後にしました。




