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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
2.いつか覚める夢
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27.不穏な気配③

 「は? クロエ・ジャンヌ・ルキウス? 誰ですそれ?」


 夏季休業も終了間近となり、エルフの町『クレナータ』から帰ってきた僕に対する、アレクシアさんの質問の答えです。アレクシアさんの隣には真剣な顔のエリックさんと、リリーさんが座っています。


 「貴女の本当の名前、私達にいえないことの中に、貴女の真名として『クロエ・ジャンヌ・ルキウス』という名前は入っていないのね?」


 いつもは多少おふざけ要素が見受けられるアレクシアさんですが、今日はそんな処は片鱗も見せていませんね。僕の真名は、確かにクロエだけではありませんが、そんな長い名前じゃありませんよ。

 僕がうなづくと、3人とも少し緊張が解けたようですね。どこからそんな得体の知れない名前が出てきたのでしょう?


 「間違いなく、僕の名前じゃありませんが、どこからそんな聞いた事もない名前が出てきたんです?」


 僕の質問に答えたのはリリーさんでした。


 「今朝、帝政エリクシアからの定期商船がきてね。それには、オリバーが乗っていたのだけれど、もう1人来訪者がいてね。ルキウス教の司祭だったのよ。その司祭が伝えてきた依頼というか、要求が2つあってね。」


 リリーさんがそこまで言って言葉を濁しますが、アレクシアさんが続けます。


 「1つ目は、現在の上層街の全てを、至高神ルキウス様への聖堂としてルキウス教に提供すること。

 そしてもう1つが、至高神ルキウスが教団に授けた巫女『クロエ・ジャンヌ・ルキウス』の引渡しよ。」


 はぁ? オリバーは一体国で何をやらかしてくれたんでしょうね。それは後で機会があったら問い詰める事にするとして、目の前の3人(こういう言い方をするのは心苦しくはありますが)は、どういう結論を下したのでしょうね。別に、売られても文句はありません。現地に着いたら逃げ出しますけど。

 着た当初と違いますからね。そこそこ、この世界での知識も付きました。油断さえしなければ大抵の所でも生きていける気はします。勿論、アレキサンドリアの人達と別れるのは残念ではありますが、一度死を経験した僕としては、別れに対する心の準備が出来るだけましのような気がします。


 「……それで、アレキサンドリア共和国としてはどの様な結論を下したのです?」


 僕の問いに答えたのは、やはりアレクシアさんでした。


 「貴方が『クロエ・ジャンヌ・ルキウス』ではないのなら、2番目の条件に応じる必要はないわね。そもそも、上層街をまるごと引き渡せなんて条件を飲む心算もないわ。

 彼らはエリクシアの正当な使者ですらないんですもの。まあ、いずれ国家として正式要求はしてくるかもしれないけどね。

 どのみち、エリクシアは東への版図拡大を鮮明にしているのだから、遠からず攻めて来る事は確実だったしね。オリバーを留学生としてよこしたので少しは変わったのかとおもったけど、悪い方向に変わったようね。」


 どうやら、逃げ出さなくても良いようですが、どうしましょうね。そういえば、こんな要求を突きつけてきたエリクシアとオリバーはどうなるんでしょう。


 「回答を教団側に伝えた後、エリクシアとの付き合いはどうなるんです?」


 僕の質問に、3人は顔を見合わせます。やがて、口を開いたのはエリックさんですね。ここで口を挟まないと、ここにいた意味がなくなりますもんね。


 「今回の件は、あくまでルキウス教団が独自に要求してきたことだから、当面は変わらないだろうね。だが、裏では開戦の準備は確実に進めているだろう。オリバーが居るうちは攻めてこないと思うが、オリバーは別に王太子でもなんでもない。国策で必要とあらば平気で犠牲にするのはエリクシアのやり口だしね。正式な宣戦布告まで、戦時物資に関する貿易は絞る事になるくらいだね。」


 エリックさんは言葉を続けました。


 「恐らくエリクシア以外との交易自体も、量は徐々に減る事になるだろうね。商人は危険に敏感だ。戦時に港に船を留め置けば、大損害になりかねない。開戦が近づくにつれ、交易船の入港はへるだろうね。」


 なるほど、確かにそうですね。


 「学院での、今年のカリキュラムはどうなりますか? 僕が受けておいたほうが良い科目があれば、教えてください。僕が前線に出るのを前提としてですが。」


 「本気かい? 仮に戦時となっても、未成年の君を戦闘の前面に出す気は無いし、必要とも思っていない。むろん怪我人の搬送とかは学院の生徒である以上、発生するとは思っているが。」


 エリックさんの言葉に、リリーさんもアレクシアさんも頷きますが、僕の見解は違います。戦争になれば、僕がやらかした全てのものが使用されるでしょうし、エマやジェシーも本来の任務である前線に出向くでしょう。エリクシアは過去2度の戦役より、多くの戦力を投入する事は確実ですからね。


 「だめよ。今回の学年編成は、14歳以上と未満で編成します。14歳以上は戦闘を前提としてのカリキュラムを行います。14歳未満は後方支援を前提とします。一般の人々に対し、被害がでないようにするにも、後方支援の1つです。国内の魔物・魔獣退治に専念すればいいでしょう?」


 アレクシアさんの言葉ですし、僕以外の子達はそれでよいでしょう。でも、僕はそれでは納得いきません。


 「さすがに、戦時となれば相手を侮って余裕を見せる事はしないでしょう? なら、車両や船舶、銃といった僕がやらかした物が使われるでしょう。それを使って死亡する生徒も居る中で、僕が後方でおとなしくしている事はできませんよ。それは、アレクシアさんやイリスの脂肪と同じで、僕の責任です。」


 さすがに、死亡と脂肪を語呂合わせしたわけではありませんが、僕の言葉にアレクシアさんもリリーさんも苦笑いをしています。


 「貴女は既に戦闘術Ⅲや、攻撃魔法Ⅲを履修済みよ。そういう意味では、特に必要な講義はないわ。あとは実戦で、人を殺せるかどうかよ。特に魔法攻撃や銃は相手が死ぬのを目前で見ることはないから問題は無いと思うけど、貴方が得意とする格闘術は、目の前で相手が血を流して死んでいくの。魔物や魔獣が相手でも、女の子がそれを成すのは難しいのに、それが出来るかを実戦で試すわけには行かないわ。」


 アレクシアさんの言葉も最もですね。でも、僕には当てはまりません(たぶん)。魔物ならば既に2年前に人型の者は倒しています。イリスやユイ、ユーリアちゃんの顔が浮かびます。僕が守りたいものを傷つけ壊すなら、非情になれますよ。たとえ相手がエリクシアで、良い父、兄、叔父であっても、僕にとってはただの殺人未遂者に過ぎませんから。ただ、攻撃を撃退するだけでは、戦争が繰り返されるだけです。相手は負けるとは思っていないので、何度でも攻めてくるでしょう。国民の数が、アレキサンドリアの3万人強に対し、帝政エリクシアは2000万人以上の人口を誇っていますからね。


 「1つお願いがあります。それは……」


 僕のお願いは、3人をひどく驚かせる結果となってしまったようです。直ぐには答えは出せないという事なので、その場は解散として後日席を改めて設ける事になりました。


*****


 冶金の工房で、僕は1つの魔導具を作っています。アレキサンドリアでは符術が盛んでなかった為、エリックさんもまだユイに対して魔道具の製作が出来ていないんですよね。なので、僕はその基(ベース)となればとユイの魔道具を試作をしています。

 ユイが使う符術は、日本の物と異なり遼寧独自の物のようですが、ユイの資料や護符を見せたもらったところ、六十四卦の卦名(遼寧版)を太極を中心に配したもののようですね。

 64種の護符がありますが、全てを必要な枚数持ち歩くことは難しい為、戦局や戦略にあわせて符術師が選んで持っていくことになります。それ故に、符術師には高い戦略性が要求されるのです。当然、経験が少ない符術師は簡単に裏を読まれてしまいますので、対人戦でも難しい立ち回りなんですよね。符の行使に魔力・呪力が裂かれることはありますが、元々護符に書かれている術を展開する分、高位の護符でも初心者が展開する事が出来るのはメリットなんですが、扱いきれなければ術者が危険となるデメリットもあります。

 僕は天球儀をベースに太極を中心に配した魔道具を、『太極六十四卦球 Edition0』と名付けました。展開すると、外周を四重のリング状に六十四卦の護符が回転していて、使用された護符は補充される仕組みです。これなら、常時全ての護符を運用できるでしょうから、その場の対応力を鍛えれば、実戦に耐えうるでしょう。


 数日後、明日から新学年という日に、再びアレクシアさん達と僕の話し合いが行われました。アレクシアさんは、ここ数日ですこし憔悴しているように見えますね。正直、この数日のアレクシアさんの様子は痛ましくてあまり見ていられなかったので、僕は自分の部屋か、治金の工房に引きこもっていたのです。


 「……前回のクロエ君の提案だけど、僕達としては残念な結果だけど、議会の了承はとれたよ。明日の午後、教団側へ回答する事になっている。

 だけど、君は本当にいいのかい?」


 僕は3人をみて肯きます。


 「別に死ぬわけじゃありませんし、僕の強さはご承知でしょう? それに、まだそちらの条件を伺ってませんし……」


 リリーさんが、アレクシアさんを見ますが、俯いていて顔を上げてくれそうも無いですね。諦めたのか、リリーさんが次の言葉を続けます。


 「こちらの条件は、貴方がイェンに勝つことです。それがかなえば私達は貴女の提案を受け入れますよ。」


 イェンさんが相手ですか。これはまた難しい相手を出してきましたね。こちらは手の内を知りませんし、相手は知っているでしょうからね。


 「いいんですか? そんな相手だしたら、議会の決定に逆らう事になりますよ?」


 「「「……」」」


 誰も答えてくれませんね。まあ、どの道やらないといけないのなら、早速片付けてしまいましょう。

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