6.近郊の森にて②
初秋とはいえ、まだまだ残暑も続く中を、2台の馬車が走ります。馬車の窓から見える風景は、右手に大河と左手に草原と小さな林が点在しています。
「私達まで宜しかったんですか?」
ダニエル君を抱いた、ユーリアちゃんのお母さん、カタリナさんが申し訳なさそうに此方を見ます。
「気にしないで下さいね。今日は、ご家族の慰労も兼ねての企画になりますから。目的地の小さな森は、獣人さんのテリトリーになりますが、ちゃんと許可を得ていますので、なんでしたら狩りも出来ますよ?」
僕がそういうと、ユーリアちゃんのお父さんのミロシュさんも笑顔になります。
「ありがとう。魔都の暮らしも悪くはないが、たまには森で狩をしたいと思っていたんだよ。今回の件で、獣人の人達につなぎができれば、時々狩りに出かけることも出来そうだ。」
ミロシュさんの言葉に、僕とイリスは微笑みます。
「エルフの方々と森は切っても切れない関係ですもの。今は獣人族とも関係が改善されていますから、問題ないと思いますが、頑張りすぎて怪我をなさらないで下さいね。」
「ユーリアちゃんも、久しぶりにゆっくり樹と対話してくるといいよ。何をするにも本人が元気でないとね。」
折角来て頂いているのに、健康を害してはいけませんしね。エルフ族との関係は始まったばかりといえ、他の種族のように必須なことなどの知識はこちらにもありません。
「リンもたまには息抜きが必要だよ。まあ、いろいろな場所に行くことはまだ出来ないけど、少しずついろいろな場所に行ける様になるよ。」
僕の言葉にリンは微笑みます。
「でも、私の為にごめんなさい。彼らも来ることになってしまったのは私が着いて来たからだし……」
そうして、ちらりと後ろを追走する馬車を見ます。イリスは肩を竦めていますね。
「あ~正直彼らが着いて来るとは思ってなかったのは本当だよ。でも、気にしなくていいよ。男子は男子で何とかするから。」
そうなのです。もう一台の馬車には、来ないと思っていた男子の留学生、オリバーとアレクシス、そしてお目付け役としてリアンにワイアットの4人が乗っているのです。正直、彼らが来るというだけで僕はげんなりしています。あの4人は会話ができているのか、少し疑問ですがこちらには関係ないと割り切ります。
「気にしないでいいわよ。勝手についてくるっていうんだから、仕方ないし。まあ、付き合わされるリアンやワイアットも多少はかわいそうだけどね。」
いやいや、絶対可哀相じゃないから。まあ、大人の彼らには彼らで楽しんでもらうのは賛成ですね。こちらに被害が無い事を祈ります。
*****
楽しく会話をしていると、馬車の速度が落ちました。どうやら、止まるようですね。目的地に着いたのでしょうか?
馬車の外から、御者の方の声が聞こえてどうやら目的地到着です。馬車から降りると、獣人さんの冒険者パーティーが待っています。待っていたのは、狼人族の男性と兎耳の兎人族と猫人族の女性に、犬人族の魔法使いっぽい男性ですね。
獣人さんといっても人それぞれで、ゲームでお馴染みの人間をベースとして、獣耳、尻尾付きという程度の人もいれば、頭部が丸まる獣という場合もありますね。手足は人間と変わらない方がほとんどです。毛深さは違ったりしますが。犬系の獣人さんは頭部が丸まる獣の場合が多いようですね。目の前の冒険者さんも狼人族と犬人族の人はそのパターンです。兎人族と猫人族の女性は、ケモミミに尻尾付きですね。
あまりじろじろ見るのは失礼ですし、男子が変に口を挟むと争いになるかもしれませんので、早々に依頼の件をお願いしましょう。
「皆さん、お手数をおかけします。こちらの御家族が今日護衛をしていただく、エルフの家族になります。
護衛対象の安全を確保していただければ、ある程度の狩りをして頂いても構いませんし、もちろん狩猟の戦利品は皆さんの物で結構です。
協力した結果での獲物はお話合いで調整してくださいね。この森は獣人さんのテリトリーですので、禁止事項の説明や危険な場所などを教えてあげていただけると幸いです。」
僕がリーダーっぽい狼人族の方に挨拶をすると、兎耳の女性に頭を撫でられます。
「小さいのに、良い挨拶だね。こちらこそ、今日はよろしく頼むよ~」
兎人族の女性の声に、狼人族の男性の声が続きます。
「この辺はエルフ領からも離れていて、魔獣などは居ないと思うが、油断せず護らせてもらう。こちらも知識を提供させてもらうが、森の異変や異常等、エルフ族として気付く点があったら教えて欲しい。」
うんうん、以前のエルフ族の狩人さん達とちがって、安心できる人達のようです。
「では、よろしくお願いします。クロエさん、イリスさんありがとう。行って来るよ。」
ミロシュさんの言葉にご家族揃って頭をさげて、狩人の人達とゆっくり森に入って行きます。楽しんできて下さいね。
そして、僕は後続の馬車から降り立った4人を見ます。相変わらず、胡散臭い笑顔のワイアットに、同じように笑顔なのか良く解らない目の細い男子。とても不機嫌そうな金髪碧眼の逞しい男性と、そっぽを向いているリアン。
「そちらはそちらでお願いしますわよ。私ものんびりするために来ているのだから、怪我などして手を煩わさせないで下さいませ。」
うわぁ、イリスさん本気の釘刺しですね。実際彼らの面倒を見る為にワイアットやリアンが居るのだから、あちらは彼ら同士に任せます。御者の方に挨拶をして、午後3時頃に迎えに来ていただくようにお願いします。
ゆっくりとした馬脚で魔都に帰っていく馬車をみて、僕達は男子から少し離れました。
「で? ピクニックって何するのよ、クロエ。」
「いや、特に何もしませんよ。自然の中でゆっくりとした時間と雰囲気を味わいながら、お茶やお菓子を頂くだけです。」
「確かに街は快適ですが、たまにこういったところに来ると開放感がありますね。」
うんうん、リンさんの肯定的な意見は良いですね。表情もいつもより和らいでいるように見えます。
「そういえば、リンのお付の人は今日はいらっしゃらないのね。宜しかったんですの?」
イリスさん、僕に対する言葉とリンに対する言葉を意図的に使い分けていませんか?まあ、変に畏まった言葉を使われるよりは、僕は良いのですが。
「はい。時には女の子同士で楽しむ時間も必要なんですよって言われました。彼女も今日はのんびり過ごしているでしょう。」
イリスは頷きますが、少し考え顔ですね。今日はのんびりするために来たのですから、そんな顔をしちゃ駄目ですよ。
余り風の当たらない陽射しがも強くない木陰を探して、僕は亜空間収納から下に引くマットを取り出します。小さなテーブルにクッションを3つ取り出してと。サンドイッチやクッキーの入ったバスケットを取り出すと、傍らにおいて3人でクッションに腰をかけて、お茶会の始まりです。
火の魔石を使った自作の魔道具に入れた紅茶を、3人分カップに配って他愛ない話を始めます。
「貴女って、こういう変な事にだけは抜け目がないというか、準備周到よね。」
イリスさん、それは僕が普段抜けているように聞こえるじゃないですか。リンさんがくすくす笑いをしていますよ。美少女がするとほんとに似合いますね。
「そんなこというなら、イリスさんだけあげないですよ。昨日からエマやジェシーと一生懸命作ったのですから。」
僕がそういうと、今まで静かに控えていたエマとジェシーが微笑みます。一応、留学生がいるので彼女達がホムンクルスであることは内緒です。あぁ、エマとジェシーの分もクッションとお茶を出さないといけませんね。
暫くみんなでおしゃべりしたりしていると、リンもイリスやエマ、ジェシー達と打ち解けてくれたようですね。連れ出したかいがありますが、お昼に近くなればユーリアちゃん家族も帰ってくるでしょうし、持ってきた軽食では足りませんね。お昼の準備をする為に、僕はイリス達に声をかけてから、少し離れた所に石を集めてかまどっぽいものを作ります。
イリスがまた変な事を始めたという、呆れた目でこちらを見ていますが、このままではユーリアちゃんたちがお腹を好かせてしまいますしね。
石のかまどの上に、三本の金属棒を交差させて、交差部を固定したあとで鍋を吊り下げます。この世界は余り小さな調理器具がないんですよね。大なべになっていますが、食べる分だけ具材を入れれば良いだけですよね。
鍋の中に魔法でお湯を入れて、かまどには焚き木を汲んで火をつけます。お湯が沸いたら、簡単に野菜や山芋などの予め切っておいた具材をいれて、ほこり防止に蓋をしてっと。
そして、いい感じに煮立ってきたら、収納から取り出したある調味料を入れます。うんうん、良い匂いですね。その匂いが届いたのか、座っていたリンがこちらにやってきました。
「クロエさん、この匂いはもしかして……、お味噌ですか?」
「あは、匂いで判っちゃいましたね。以前下層街で東国と交易しているお店に頼んでおいたんだけど、最近になってやっと届いたんだよ~。お肉も入れてあるし、ちょっと東国風の料理にしてみました。」
僕の前世の記憶では、単に芋煮ですけどね。リンの郷土の料理かどうかはわかりませんが、ソウルフードというものもありますから、これで元気になるといいな。イリスもやってきて、リンの郷土の料理に似ているというと、興味を示します。
和気あいあいと楽しい雰囲気ですが、ピクニックというより、いつのまにか芋煮会になっている気がするのは気のせいでしょうか?




