42.見栄に配慮することも重要なようです
艦の火力だけでは対応が難しいようですので、僕が対処しようかと考えていると、艦橋内で声が上がります。
「艦長、クラーケンへの対応は我々に任せてくれませんか?」
声の主はワイアットですね。上階の航空指揮所からの螺旋階段をゆっくり降りてきますが、艦の火砲で対応できなかったクラーケンに対して、火力で劣る飛空艇で対処できるのでしょうか?
「任せろと言うからには、なにか方策があるようですが……いま見たように、艦の火砲でも火力不足ですし、障壁を張っている状態では飛空艇の発艦はできませんよ? どうするつもりです?」
僕の言葉にワイアットは不敵に笑みを浮かべました。そして、僕だけでなく、ユイやイリスさん、アーシャといった女性士官を見渡して言いました。
「クロエ艦長の活躍で忘れられがちになっていますが、我々はアレキサンドリア共和国の兵であり、本来優秀な魔法使いであることを思い出してほしいですね。
クラーケンなどの海の魔物への対処は、青家には当然ありますし、洋上に出た経験が少ないとはいえ、青家以外の兵もまた強力な魔法使いでもあります。この艦は我々にはできないことを行ってきましたが、この艦にできないことを我々にもできるという事をお見せしたいと思います」
久しぶりに見るワイアットの自信にあふれる表情ですね。昔ほど、高みから見下される感がないのは、彼も大人になったからでしょうか?
「へぇ、君が僕に対して普通に話せるようになるとは思っていませんでしたが、君が言うなら、大言壮語じゃないでしょう。クラーケン戦に限り、ワイアット航空指令に全権を委ねましょう。
僕たちの期待に応えられるかどうかは君次第ですが……」
ついつい口に出してしまった一言をきいて、ワイアットは顔をしかめます。そして、そっぽを向きながらつぶやきます。
「……年下のお子ちゃまはこれだからな。こんな見せ場まで、アレキサンドライトに持っていかれたら、いいとこ見せようとしている男共の不満が増すことにも気が付かないなんてね」
なっ……、こいつ僕をおこちゃま扱いしましたね? 言い返そうとした僕の右肩に、誰かの手がポンと置かれます。慌てて振り向くと、イリスさんがにっこり微笑んでいますね。
そして、僕を制してワイアットに話しかけます。
「艦長の許可がでたのですから、この戦いに関しての指揮はあなたにお任せしますわ。ユイが全力をもって抜くことのできなかった貴方の手腕に期待していますわよ?」
イリスさんの声で、ワイアットはそのままユイから艦内放送用のマイクを受け取ると、先に僕たちを見て言いました。
「では、まず艦長には障壁の維持を全力でお願いします。攻撃の際に、一部を解除していただきますが、それは飛行甲板上で伝えますので、ご同行お願いします。
それと、艦内の全部署から男性乗組員を甲板に集合させますので、女性乗組員は後詰をお願いします。それによって艦の操作を一時的に女王にお願いします。生命維持と艦の状態保持だけで構いません」
そして、イリスさんやユイをみて笑みを浮かべるワイアット。
「攻撃は男性乗組員だけで行います。女性乗組員にはお手数をかけることはないと思いますが、万が一に備えてフォローをお願いします」
そういって、艦内放送に僕の知らないコードを伝えると、艦内の各所から男性乗組員が次々と甲板上に集合し、隊列を組み始めたじゃありませんか。
残った女性の乗組員は、ユイの指揮のもとで数班にわかれて男性たちの後方で控えます。全ての乗員とはいっても、男女合わせて百名前後。そのうち男性は六割をしまますので、陣形を組んでも、広い飛行甲板からすれば心もとないようにしかみえないのですが……
ワイアットを含めた男性士官がすべて艦橋から甲板上へと降りて行った中、僕は最悪の場合を想定して、戦略級魔法の使用を考え始めたときでした。今度は、ユイが僕の左肩に手を置きます。
「クロエ艦長? ワイアット航空指令にお任せになったのなら、あとは大船に乗ったつもりでどっしりと構えていないとだめですよ?
クロエ艦長の、最悪の事態を想定しての対策は、それによって救われたものにとってはありがたいものですが、作戦を実行した者にとっては信頼されてないように感じるものです。特に今回は、男性諸氏はずっとよいところを見せる機会を狙っていたのですから、ここでそれらを発散させることは、今後の艦の運営にもプラスになること間違いありません。まぁ、前回のような不協和音を奏でる機会をつぶす意味合いとしては、ワイアット航空指令の判断は正しいのですから……」
すこし寂しげな表情で言われて、僕の(薄い)胸hはズキリと痛みます。誰にも怪我をさせないようにと、対策を打っておくのは、時と場合によっては相手の手腕を信用していないと受け取られるのかもしれません。まあ、イリスさんやユイに比較すれば全く信じていないのは事実なのですが……
「艦長という立場で、ワイアットたちに指示をだすなら、信じてあげなさいよ。ワイアットは少なくても、殺人ウサギを完全に倒した数少ない者なんですのよ?」
……また、ずいぶん古いことを持ち出してきましたね。ですが事実は事実ですし、障壁があればそうそう被害が出ることもないでしょう。女子にいいとこを見せたいという男性心理は、以前の僕には希薄だったのであまり考慮していないのも事実ですしね。
「では、男性諸氏の奮闘を観戦してあげるとしますか」
僕の言葉に、ユイとイリスさんもうなづいて一言加えました。
「成功するにしろ、失敗するにしろ、どうせ宴会はする事になるんだろうから、そっちの準備も考慮しておいたほうがいいわよ?」
イリスさんの言葉に、僕は頭を抱えるのでした……




