41.クイーンアレキサンドリア対???
エメラルド泊地を出港して二日目になりました。QAは毎時十五ノットの速力でエメラルド島から五十キロほど南下後、そのまま東へと向かいます。位置は、エメラルド島から東南東方向に八百キロほど離れている計算になりますね。
「今日は風がありませんね。周囲の船は風を待っているのに、この艦は平気ですすむ。動力船様様ですね」
水上レーダーを見ている船務員からの報告に、ハリー航海長ものんびりうなづきます。まあ、水平線上には船影も島影もありません。まあ、余計な視線を受けない様に、船影や島のない航路を選んで進んできたのですから、当然のことです。
「凪とはいえ油断するなよ~? こんな日は昔から海の化け物がでるって言うからなぁ」
「いやいや、さすがにもう水平レーダーの見方は把握してますからね。見落としはありませんよ。海中レーダー(ソナー)には今まで反応があった為市はありませんが、ここら辺は水深が深いようで反応が全くありませんよ」
ハリー航海長の言葉がフラグにならなければいいんですけどね…… それに、ソナーに反応が全くないというのも微妙ですね。海には、溶存酸素量の少ない海水が溜まっている海域が通常でも存在します。
溶存酸素量というのは、海水に溶け込んでいる酸素の量の事ですね。これが低いということは、海水中の植物プランクトンが少ないという事になります。当然これらを餌にする小魚も少なくなりますので、それらを捕食する大型の魚類も少なくなります。
これが海水面下の光りの届く範囲でも溶存酸素量が少ない海水というのは、海水の有機物の分解するのに酸素が消費されるので、比較的古い海水という事になるそうですよ。
いずれにしても、凪とはいえ天候も良く、艦載機も風を受けて揚力をつくる飛行機ではなく、ガス室の機体で浮力を得る飛行船タイプですので、風が無い方が発着艦は安定します。新兵の訓練にはなりませんが、それでも上空から見ると針のようにしか見えないQAへの着艦は、精神的に削られるようですしね。
お昼近くになりましたが、風もないので船影も島影もみえません。魚がいないせいもあるのでしょうけど、陸からそんなに距離をとっているわけでもないのに、空を飛ぶ鳥さえいないのはおかしいですね。なにか嫌な予感がひしひしとしてきます。
「海面上の警戒を怠らないでください。そして水上だけでなく海中も注意するように。何か嫌な予感がします」
「……艦長も心配性ですね。見渡す限り何一つ居ない平和そのものじゃありませんか」
僕の言葉に答えたのはアンソニー砲雷長ですが、僕の指示は即座にユイとハリー航海長が部下に伝え、艦内は総員起こし後、第一戦闘配備に切り替わります。そして、数分後のことでした。
「せ、船務長、ソナーに初めての反応です……前方距離五百メートル。大きさは巨大としか……」
「ちっ、やっぱり出てくるかよ、前方監視注意しろよ。さてさて、何がでてくるやら。
白鯨対白鯨は勘弁してくれよ」
ハリー航海長のセリフが響いた直後に、右前方に気泡発見の報告が入ります。艦橋内で着座していなかった者は、双眼鏡で右前方の監視を始めました。
「取り舵いっぱい」
「右舷砲座戦闘準備!!」
艦内が戦闘準備に入る中で、僕は敵の正体を探るべく索敵魔法を飛ばそうとしました。ですが、何かが海面を突き破ったのを見て慌てて物理障壁の展開に切り替えます。
「魔力よ、壁となりて敵の攻撃を弾け!障壁」
詠唱の完了がわずかに早く、海面を飛び出してきたものが魔法障壁によって弾かれます。
「なっ」
「これは……やはり、クラーケン!」
ハリー航海長のつぶやきの通り、障壁にあたったのは赤褐色な触腕だったのです。障壁に張り付いた触腕の左右からさらに複数の腕が海面上に飛び出し、障壁に当たります。弾かれた赤褐色の腕は、障壁に吸盤で張り付きますが……
「うわっ、グロ……」
全くですね、障壁に張り付いた巨大な吸盤は、とても気持ち悪いものです。そして、海面上に姿を現したのは外套部、イカの頭に見える部分ですね。黄金色に光る巨大な目も、気持ち悪いですね。
とはいえ、こちらも障壁を張った時点でアーシャの指示でスクリューは停止状態ですし、飛空艇を飛ばすこともできません。それに、なにより……
「でかい。なんて、大きさだ……」
「こいつは魔物なのか、腕の太さは二メートル以上あるな……」
クラーケンは障壁に阻まれたのが気に入らないのか、何度も鞭のように障壁に腕を叩きつけます。障壁を叩く音が低く巨大な音を響かせ、振動は艦を揺らせます。
「艦長、まずは右舷の魔導砲による攻撃を行いたいと思います。障壁のごく一部を解除できませんか?」
アンソニー砲雷長がこちらを見て口を開きます。僕は少し考えた後にうなづきます。
「ごく狭い範囲でなら……ただし、腕の先端部はさけて下さい。解いた障壁の部分から、腕が侵入してくる可能性もあります」
アンソニー砲雷長もうなづき、情報パネル上に艦とクラーケンの位置を表示します。
「では、左第Ⅲ腕の根元付近。障壁の解除時間は3秒です、いいですね」
「はい。一分後、左舷の一番から三番の魔導砲を連射します。それで様子を見てみましょう」
左右の腕で障壁をたたき続けるクラーケンですが、こちらもクラーケンも手詰まり状態です。こちらとしても、このまま他の船や島の近くに移動することはできませんし、クラーケンもQAの大きさによって、水中に引きずり込むことはできません。
「左舷一番用意良し」
「同じく二番準備できました」
「三番発射準備OK、いけます」
そして、一分後発射された魔導砲は、クラーケンの腕に三つの穴を穿ちましたが……
「……」
「……痛くも痒くも無さそうですね」
穴が開いたとはいえ、魔導砲は高出力すぎるようで貫通してしまい、しかも腕の太さに対して、口径が小さいのかダメージにもならないようですね。
「障壁の一部が青緑に染まっていますね。あれはクラーケンの血液でしょうか?」
「やはり魔物なんでしょうか」
とはいえ、魔導砲は効果的ではないようですね……




