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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
7.女王の奏でるラプソディ
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38.採取活動

 頭上を遥かな高さで覆う木々の葉は、昼間でも日射が遮られて足元がやや暗いが、その分下草も少なく歩きやすい。周囲を見渡すと、樹々の高さは三十~五十メートルはあり、緑の天蓋(てんがい)を森の上部へと広げていた。


「いや~、単に森といってもアルべニアの森とはずいぶん異なるでありますな」


 そういうデーゲンハルトの右手には、歩くのに邪魔な下草や蔓などを切る為の、小型の鉈が握られている。その為、ヒーラーとしての装備はいつものロッドではなく、やや短めのワンドと呼ばれる装飾のある短い杖を腰に差しているだけであった。

 鉈を持った右手で、デーゲンハルトは額を流れる汗をぬぐうが、鉈などの刃物を持ち歩くことが少ないせいか、何度か頭防具に鉈の刃を当てて、刃と防具の奏でる金属音に驚くことを繰り返している。


「樹冠(じゅかん)というやつだな。熱帯雨林特有のもので、高さは三十~五十メートルに及ぶそうだ。俺も初めて見たが、凄いものだな」


 そう言いながら、アルバートは片膝をついて地面の土を取り、指の間で擦ってみる。足元に広がるのは『ラトソル』と呼ばれる、酸性の赤い土だ。これだけ樹々の葉が頭上を茂っているのに、足元には落ち葉一枚落ちていない。

 赤い地面の上を、小さな緑の欠片が列をなして揺れながら進んでいくが、よく見るとそれは蟻のようだ。地面に落ちた木々の葉は、直ぐに蟻によって細かく裁断されて土壌の栄養になることは無いために、土地は栄養価が低いやせた土となるのだ。


「泊地から近くても、ほとんど人の手が入っていない。単純に森と言っても、アルべニアは比較的温暖だから、落葉広葉樹と常緑樹の混じった混合林が多いからな。常に雨が降り高温のこことは、違って当然だろう」


 アルバートの言葉にうなづきながらも、デーゲンハルトは周囲の警戒は怠らない。なにせ、植物馬鹿とヒーラーの組み合わせであり、火力は無いに等しい。そもそも、様子見のつもりでもあったので、あまり森に深入りするつもりも無いのだ。とはいえ、子供たちが行き来していることを考えても、さほど危険はないはずである。


「……子供たちが生活しているとすれば、もう少し上でしょうか? ここでは湿度や温度がキツイと感じるであります」


 デーゲンハルトの言葉通り、森の中は下草も少なく歩きやすいが、逆を言えば食料となるような木の実なども手の届く範囲には無いという事でもある。広い世界では、地上から三十メートル以上の樹上にツリーハウスを作り、暮らしている種族もいるとはきくが、人間種の子供が多いのでは、難しいだろうとアルバートは考える。

 子供は秘密基地などといって、自分たちが暮らせるだけの場所を確保することはできるがだろうが、母親なり大人の女性も傍らに存在する。食事には火を使わねば、中毒などの問題もある。火をおこすのは地上になるはずであった。


 泊地から真っすぐ森に入り、真北に進んでいたアルバートとデーゲンハルトであったが、一時間も進んだところで深い峡谷に阻まれてしまい、それ以上真北方向に進むことはできなくなった。西に傾斜した巨大な火口ではあったが、長い歳月と多量の降雨により深い渓谷が刻まれている。

 生活するうえで水は必須であるが、川岸では豪雨の際に危険が伴う。生活拠点を築くのであれば、水源からさほど離れておらす、雨風がしのげる場所。理想を言えば日当たりも良い場所があり、野生動物や魔獣などから襲われる危険性の少ない場所が最適である。とはいえ、アルバート自体はアレキサンドリア国内しか野営の経験はない為、目当てが付かないのだ。


「水源から余り離れず、安全な場所を確保するとすれば、もう少し川上でしょう。浜まで降りればヤシの実などが手に入るとしても、ここでは日当たりも悪いですし、毒虫などもいるでありますから」


 そう言いながらデーゲンハルトは東に進んで、まずは水源となる川に目星をつけた。対岸には、急峻な崖や沢などに阻まれ進むことができなくなるが、沢の周囲は水の流れのせいか比較的涼しい。浅瀬で水を水筒に補充した二人は、そのまま沢筋から少し離れた場所を上流へと向かった。


「沢から外れれば水の確保が面倒になるのに、なんでわざわざ離れるんだ?」


 アルバートの問いに、斜面の比較的歩きやすい獣道の様な場所を探しながら、デーゲンハルトは答える。


「沢筋は夏場とはいえ冷えるのであります。一時的な涼を得るためならまだしも、生活拠点には向かないのであります。それに洪水の心配もあるであります。

 あのまま沢筋を登っていけば、滝にぶつかって戻らねばならなくなるのであります」


 デーゲンハルトの言葉は、冒険者としての経験が含まれており、なかなかに無視することはできない。往々にして、アレキサンドリアの人間は安全が確保され、尚且つ便利な魔道具が常に使用できるために、他国の人間からすれば安全に無頓着に思われるのが普通であり、野営の経験が多い方であるアルバートにもそれはいえた。


 デーゲンハルトの案内による子供たちの生活拠点の捜索は、時折アルバートの植物採集により、予定より少し遅れながらもなんとか森を抜けた岩山にほど近い場所へと抜ける事に成功した。

 二人の前には数メートルの高さで岩がせり出し、樹々の頂で遠目には岩山にしかみえない少し開けた空間である。耳をすますと水音もきこえることから、水源からもさほど離れてはいないのであろう。アルバートとデーゲンハルトの二人は、その場で休憩を兼ねた軽食をとる事にした。


 テラス上の岩盤はちょうど眼下の樹幹を見下ろす場所にあり、ちょっとした展望台のようでもある。二時間移動し続けた割には、それほど離れていない場所に蒼い海が広がり、南西に目をやるとQ(クイーン)A(アレキサンドリア)の白い艦体が見える。


「はぁ、二時間歩き続けてこの程度の距離しか稼げないのか……」


「しかたないでありますよ。我々には土地勘もありませんし、植物のサンプルを採取しながらでありますから」


 乾燥した枝は望む事もできず、携帯用の魔道具で湯を沸かしながらデーゲンハルトが答えた。味気ない携帯食ではあるが、無いよりましである。

 とはいえ、その言葉には疲労からか多少の棘がある。子供たちと僅かな大人の女性だけが、人々から離れて暮らしているという状況に、デーゲンハルトは憐れみと義憤を感じて、近隣の植生調査を行うアルバートに付き添ったのだが、あわよくば子供たちの暮らしている場所を見つける事ができればと考えていたのもある。


「……なにか言いたいことがあるようだが、植生調査を名目に出てきた以上、きちんと任務はこなさないと、あの女史たちに何を言われるかわからないんでね」


 そう言うと、アルバートは腰から金属製の三十センチメートルほどの棒を取り出して、周囲を確認した。眼下に広がる樹幹は、デーゲンハルトには葉を広げた唯の樹々にしかみえないのだが……


「悪いが、これから見る事は忘れてくれよ?」


 そう言って、樹々の方へと取り出した棒をアルバートは振るった。デーゲンハルトの目には、棒の先から何かがのびるのが一瞬見えたが、瞬く間にその光は消え失せた。

 何が起こったのかよくわからないデーゲンハルトの目前で、アルバートは二度三度と金属製の棒を振ったが、その都度彼の足元に緑色の球体などが積み重ねられるのに気付き、呆気にとられる。

 アルバートの足元に積み重ねられたのは、緑色の球体や色とりどりのだ円状の物体だ。中には紫色の毒々しい色合いをしたものまであるが、棒を振るだけのアルバートが何をしたかはデーゲンハルトには分からなかった。


「いったい何を…… 空中で釣りをしても魚はかからないはずであります。それに足元のそれは一体何でありますか」


 デーゲンハルトのつぶやきに、アルバートは金属棒を彼に見せて答える。


「こいつは釣り竿じゃない。『双(ダブル・)蛇鞭(スネーク・ウィップ)』という、まあ俺の専用武具と思ってくれていい。名前の通り鞭にすぎないし、攻撃力は低いんだが……」


 そう言って再びアルバートが双(ダブル・)蛇鞭(スネーク・ウィップ)を振ると、今度は金属部の前に緑色の球体が付いている。なにが起きたかわからないデーゲンハルトに、アルバートが説明した。


「コイツの鞭の先は、見た通り蛇の口のようになっていてね。狙った獲物をかみ砕いて手元に引き寄せる事ができるのさ。それを使って、高木の上になる木の実を回収しただけさ。

 俺もおまえさんと同じように、下を歩きながらも食料になりそうな実がなる樹を探していたと言う訳さ」


 そう言って、回収した緑色の木の実を薄く輪切りにすると、火にあぶる。薄く切られた緑の実は、白く放射状に線が入っているように見えるが、火にあぶるときつね色をしたビスケット上の物体に変わった。

 二枚ほど焼いたアルバートは、一枚をデーゲンハルトに放り投げ、自分も一枚を口にした。デーゲンハルトもそれを見て、同じようにビスケット状のそれを口にすると、あっさりとした甘みが口に広がる。


「こいつは『パンノミ』と言ってね。サツマイモに似た味がする食用が可能な木の実さ。火にあぶれば多少は日持ちがするんで、パンの代わりにもなるだろう。

 子供たちがとるには樹の上にしかならないのがネックだな。概(おおむ)ね、こういった地方の果物は高い木の上になる事が多い。いかに安全にとる事ができるかが、課題だな……」


 木の実は大きいものは三十センチ程もあり、味は別としても、子供たちが食べるには十分な大きさである。

 そして、デーゲンハルトは自分の研究目的の為に採取活動をしていたと思っていたアルバートが、子供たちの食用になる樹々の辺りをつけていたことに驚いていた。


「すいません。私はあなたの事を誤解していたようであります。ただの植物オタクとばかり思っていたのであります。誠に申し訳ないであります」


 そう言って頭を下げるデーゲンハルトに、アルバートは苦笑いをして言った。


「デーゲンハルト(おまえさん)がヒーラーであるように、俺も一応薬師なんでね。子供が飢えていると聞けば多少は思う所もあるさ。それに、この場所で食事をとったのは、悪い事じゃなかったらしい……」


 そうつぶやいたアルバートは、デーゲンハルトの背後を指さした。振り返ったデーゲンハルトの視界には、数人の子供が岩棚の上からこちらを覗いているのが見えたのだった……

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