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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
7.女王の奏でるラプソディ
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27.お馬鹿な二人……

 空に現れた飛竜『カッチャトーレ』に最初に気付いたのは、ディランであった。この世界では空を仰ぎ見る者はそれほど多くない。人の目に触れる領域で空を飛ぶことができるのは、鳥だけしかいないからである。

 無論、ハーピーやグリフォン、ワイバーンやドラゴンなどの様に空を飛ぶ魔物や幻獣・聖獣と言ったものも存在するが、生息域は限られており、普段一般人が目にすることは少ないからだ。

 ディランが気付いたのは、自らが空を飛んだことがあるからである。日々の生活に追われ、多くの人々は足元の地面や自らの手を見るだけで、一日を追える生活をしている者も少なくない。空を飛ぶ鳥を目にしても、目に映すだけではその存在に気付かずに終わってしまうのだから。


 切り立った崖の底から、見上げる狭い空を悠々とよぎったそれは、一旦空中に停止した様にみえた。しかし、直後に頂上へ舞い降りたにしてはおかしな体勢、頭から頂上へと突っ込んだようにみえた。


「あれはドラゴン! 何故ここにっ!!」


 ディランの上げた声に、大部分の者が怪訝な顔を向けるが、僅かばかりの者は異なる表情をみせた。ディランの表情に気付き、彼が何を見ているのかを確認したライラも、そのうちの一人だ。


「……新たな竜!! まずい……」


 ライラが振り返ると、あわてて艦橋へと走り出した。ライラがディランの傍らを通り抜け、艦橋への水密扉をくぐった直後の事だった。鈍い打撃音とくぐもった悲鳴、人の倒れる音が響き、ライラの後を追っていた視線を、ディランは音のした方へと振り返った。

 その目に映ったのは、数名の倒れた整備班のメンバーと、一番機の後部座席に乗り込もうと手を掛けたエリオットの姿だ。


「ドラゴンを倒し、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の名を得るのはこの俺だ。ドラゴンを倒せば、こんな場所にいる必要はねぇ!! 酒も女も思いのままにしてやる!!」


 機体にとりついたエリオットは、生来の膂力(ばかぢから)で整備員を蹴散らすと、ライラの倍はある体積の身体を無理やり後部座席へとねじ込んだ。そして、ディランに向けて騒ぐ。


「そこの優男(やさおとこ)、お前はどうする! このままここに居て、翼をもがれるのを待つか? まあ、口だけの貴様にはふさわしい結末だがな。

 どのみち俺がドラゴンを狩った暁には、どのみち貴様も終わりだ。紅家の実力者に逆らった男の末路がどれだけ惨(みじ)めかたっぷりと味合わせてやる」


 そう言って、黄色い歯をむき出しにして笑みを浮かべた。ディランを動かしたのは、『翼をもがれる』の一言だ。失われそうになった彼の居場所、このままでは確実にディランはその席を失ってしまう。ならば、イチかバチかエリオットの言葉に乗るのも悪くないかもしれない。

 どうせ、エリオットには機を飛ばすことは出来ないのだ。機を操る操縦士にくらべれば、砲術士は引き金(トリガー)を引くだけの、誰にでもできる仕事である。ディランとエリオット、どちらに功が多いかなんて一目瞭然であろう。


 エリオットに気を取られていた整備員たちは、ディランの突破を容易くするしてしまった。ディランは、彼らの頭上を飛び越えて、操縦席へのタラップに足を掛けると、手慣れた様子で操縦席におさまり、機体を浮上させてしまう。


「竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の称号は、アレキサンドリアで一番の操縦士である僕にこそふさわしい。おまえ(エリオット)にも少しは手伝わせてやるよ!

 それに、姫を助け出す役割は、王子がすると決まっているのさ。あいにくと、君(エリオット)では役不足だよ!」


 ディランはそう言い残すと、機体をフ(・)ラ(・)フ(・)ラ(・)と(・)飛行甲板上から離陸させたのであった。整備班の班長は、航空指揮所からの無許可飛行をとがめる放送に、あわてて艦橋に走ったのであった…… そして、数分後のことである。


「……馬鹿だとは思っていましたが、ここまでとは思わなかったですね……」


 ワイアットは、整備班一班の班長から報告を聞いて、天井を仰いだ。その目には、よたよたといった感じで、湾内の崖にそって旋回しながら高度を上げている一番機が、情報パネルに表示されている。さすがに正規の搭乗者であるライラに比べて、倍以上も重いエリオットを乗せて居ては、二人の体重に合わせて浮力調整された一番機では動きが悪い。

 無様な飛行の様子だが、新たな竜の飛来を報告にきたライラは、その様子を見て内心で安堵していた。自分の体重に合わせて調整したのに、エリオットが乗っても同じように飛ばれては、他班の砲術士の面々になにを思われるか分かったものでは無い。


「このままだと、艦長(クロエ)やコリーヌさん達に危険が及ぶのでは無いでしょうか?」


「でも、二匹目の竜が現われたのなら、クロエ艦長も援軍が必要なのでは?」


「連中が援軍になんかなるもんか! あいつらは竜を狩れればそれで良いって奴らなんだよ。

 艦長の事なんて何とも思っていない。やつらも本家筋も、クロエ艦長なんて黒家の養子、替えなんていくらでも効くとしか思ってないんだ!!」


 ユイと砲雷長(アンソニー)の声に、否定的な声が続いた。ワイアットとイリスは、声の主であるハリーを黙って見つめる。それは、ユイやアンソニーも同様だったし、非常事態とアーシャに呼ばれて艦橋にいたリアンも同様のようだ。

 艦橋にはレーダー手や通信手、ライラや整備班長などの士官以外も存在する。その中で、いわば上官への批判を口にしたのがまずかった。


「……すまない。言い過ぎたようだ……」


 皆に見つめられて我に返ったのか、自らの発言の不見識を詫びると、ハリーはうつ向いてしまう。ワイアットはその様子を見ながらも、表情を変えることなく話した。


「船務長、万が一に備えて、出港準備をとりましょう。砲雷長、非常時の場合は一番機を切り捨てます。威嚇射撃の準備を。僕が無線で彼らに説得をしてみます」


 その言葉に、ユイはイリスの顔をみて、彼女が小さくうなずくのを見ると、その提案を受け入れた。艦内放送で、出港準備を告げると通信士に回線の接続を指示する。


 ハリーは操舵席に戻ると、舵輪の側の補助席を開くと、着座して瞑目してしまう。怒りや焦りの感情をもったまま、舵輪を握るのは危険だ。艦の操舵を預かるという事は、乗艦している全ての命を預かっているに等しいのだから、冷静になる必要があった。


 リアンはリアンで、ハリーを見て軽く舌打ちした後、この場をアーシャに任せて、自分は出港準備を整える為に機関室へと引き揚げていく。


 イリスは自席を立ってユイに寄り添うと、小声で何かを話しているようだ。二人は、会話をしながら、ワイアットやハリーに視線を向けたが、その瞳に特別な色を浮かべてはいないように見えたのである。

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