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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
7.女王の奏でるラプソディ
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19.拉致?!

 飛行艇の周囲に全員が集まり、女性陣から機内に乗り込んでいく。二時間余りの作業を終えて、人心地つくにはまだやる事がある。飛空艇の客室の入り口付近は、カーテンで仕切られており、乗り込んだ乗員は、着用した防護服を脱いだり、様々な所用(お花摘みなどの……)を行っている。

 その間に、ワイアットを含めた男性三人は、テーブルマウンテン上の温度変化や風向などの環境データを取得する為の観測機器の設置を行っていた。

 必要なデータは、艦内のラボで生育環境を再現する為には必要な項目の全てを網羅しており、機器自体も小さな昆虫類が内部に入れないような構造となっており、アルバートとしても口を出す余地がなかったので、ワイアットに確認してしまった。


「こんな観測器まで、準備周到によく用意したものだな。学院の教授の入れ知恵でもあったのか?」


 問いかけてみたものの、アルバートも答えが返ってくるとは思っていない。植物の専門家といえば、エルフ族のミロシュなどが上げられるが、エルフ族自体がアレキサンドリアの上層街と付き合いだして期間が短い事から、植物の生育環境をデータ化して、温室などを利用して研究室内に再現するという考えには思いが至らないのだ。

 必然的にエルフの植物学者などはフィールドワークとしての野外作業を重視し、アレキサンドリアの学者は実験室を重視する。とはいえ、育成環境を再現する為に必要なデータを取得するには、フィールドワークを行うしかないのだが、アレキサンドリアでは国外への渡航を事実上禁止しており、冒険者ギルドを経由したデータの取得しか行えなかったのであった。そんなアルバートの考えをよそに、ワイアットはあっさりと彼らしく答えを返してきた。


「……こんな訳の分からない物を、事前に準備することが出来るのは、アイツくらいだろ。アイツは君に劣らず変人だからね」


 ワイアットに続いて、学院でクロエをよく知るデーゲンハルトも言葉を続ける。


「クロエ艦長殿は幼く見えますが、その知識はまさに人間の頭部を持ち、獅子の身体を持つという魔物に優るとも劣らないのであります。あの方の老獪(ろうかい)さは、とても成人したての女性には思えないのであります」


 デーゲンハルトの言葉を聞いて、ワイアットが一瞬きょとんとした顔をしたのを、アルバートは見逃さなかった。その後、ワイアットはクスクスと笑い始める。


「くっ、老獪な幼女にして、スフィンクスに見立てるとは……くっくっくっ……、いつだったかアイツが言ってたロリババアじゃないか……」


 ひとしきり笑ったワイアットであったが、アルバートの視線に気づいて生真面目な表情に戻ると、二人に話した。


「……今の発言は聞かなかったことにしておくよ。君たちも自分の身が可愛いのなら、アイツらの前ではその言葉は言わない方が良い」


 そう言って、ワイアットは先行して着替えを行っていた女性陣の支度が終わっているかを声をかけた。問題が無いとの返事が、機内のドーラから伝わると、観測機材のスイッチを入れて、三人は機体へと戻る。

 防護服を脱いで、規定の洗浄箱にいれると、それぞれ指定の座席へと座った。女性陣は既に円卓の座席について、紅茶や軽食をとっている最中である。やっと戻れるという和やかな雰囲気の中で、探査の初任務が終了したことに、皆安堵していた。


「それでは、本機はこれより(クイーン)(アレキサンドリア)に帰投す……」


 ワイアットがそう言いかけた時の事である。突如、機体の周囲を霧が包み込み、わずかな先すら見えなくなったのと同時に、圧倒的な存在感・威圧感が共に広がり、誰一人身動きできなくなった。


「……なっ、何かが近くにいる。とても強い存在……」


 ライラのつぶやきが聞こえた時に、数名が恐怖におびえた様子を見せた。


「こ、これはAランク以上の魔物以上の気配であります……」


 デーゲンハルトは冒険者としての活動が、今回のメンバーの中では一番高い。ヒーラーという立場であるが、対魔物との対戦経験は一番豊富であった。とはいえ、パーティーを組んでいない今は、いやパーティーを組んでいたとしても、安全地帯で野営中に襲われたと同じような状況の今では、うかつには身動きができなかった。盾となり、パーティーメンバーを守る者も、攻撃対象に攻撃を行う者も、今は武装をといている状態だからだ。


 次に対人戦闘を含めて戦闘経験が豊富なのは、コリーヌとサンドラ、そしてライラの三人である。だが、三人は魔物との戦いの経験は乏しく、人里を襲うオーク程度までしかなかった。強力な魔物は、森の深部に存在し、人里に出てくることは少なかったから。初めて対峙する、魔物と思しき相手は、圧倒的な存在感だけで、彼女たち三人の動きを封じてしまっていたのだ。


 すさまじいまでの威圧感と存在感の中、何ものかが座席からふらりと立ち上がる気配がした。アルバートが気配のした方向を見ると、視点の定まらない目をしたクラリスがゆっくりと立ち上がっている。

 虚ろな目をしたクラリスは、そのまま機外へのドアの方向に歩き出すが、誰一人身動きができる者はいなかった。クラリスの手が、ドアのノブにかかった直後、座席から勢いよく立ち上がる音が室内に響き、金色に光る三つ編みが勢いよくクラリスの背を追った。直後に同じように椅子から立ち上がったデーゲンハルトがその後を追う。

 クラリスによって開け放たれたドアからは、まばゆい光が差し込み、クラリスの明るく流れるようなブロンドの髪が光りに溶け込み、その背を追った三つ編みの剣を背にしたコリーヌの姿をも、つつんでいき……唐突に光は消えた。


 後に残されたのは、開け放たれたドアから身を乗り出して周囲を確認しているデーゲンハルトと、夕暮れに染まりつつも、オレンジから青へのグラデーションを浮かべた、静かな海だけであった。クラリスとコリーヌの姿は何処にも無かったのである……

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