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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
7.女王の奏でるラプソディ
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18.テーブルマウンテン

「心配性の艦長に、これ以上余計な心配をかけないように、調査の方は安全第一でお願いします」


 さすがに他国の貴族子女が多いためであろう、アレキサンドリア国内にいるよりも抑え気味なワイアットの挨拶もそこそこに、先遣隊に選抜されたメンバーはそれぞれ指定された防護服に着替えて、恐らく人類として始めてこの地に足を降ろした。

 着用が義務付けられた防護服は、不織布で造られた薄い水色の全身を覆うタイプであったが、通気性は良く、着ていてもさほど不快ではない。マスクの着用も義務付けられていたのでわずらわしさはあるが、目元のみを外気にさらす形式である。基本的に、このテーブルマウンテン上の物質が衣類や肌に着かないようにする目的での着用だが、逆に地上のモノをこのテーブルマウンテン上に持ち込まない為の配慮でもあった。


 飛空艇は、崖の端から距離をあけており、亀裂の無い一枚岩のような比較的平らな岩の上に着陸させ、大きな岩二つにロープを掛けて錨代わりとしていた。


「まず、機体から五十メートル以内の探索を頼む。アルバート、サンドラ嬢、ライラ砲術士の三人は前方の水場にかけて、クラリス嬢とコリーヌ嬢、デーゲンハルト氏の三人は右方向の草原をお願いできますか? ドーラ嬢と僕は本機で待機する。敵性反応などがあれば、こちらから連絡するが、不具合があればそちらからも連絡をお願いする。尚、今日は観察と撮影だけに止めて、標本の採取はひかえてくれ」


 ワイアットの言葉にうなづきつつ、駆け出しそうになるアルバートであったが、足元を確認しながらゆっくり歩を進める事にした。急いで歩いてしまって、植物や昆虫類などを踏みつぶしてはまずい。

 毒性の有無も勿論だが、周囲は海であり、断崖絶壁にによって隔絶された島である。翼や羽のある鳥や虫以外の生物がいるとしたら、独立した生態系を持っている可能性が高いのだ。


 足元の小石を、アルバートは拾ってみた。勿論、手袋ははめているが、彼が手に取った石は花崗岩の一種のようだ。火山の噴火で吹き出したマグマの中心部だけが、海の浸食に耐え残ったのだろうと想像できた。


「岩ばかりでは、動物類は見込めないか……」


 とはいえ、このような岩の上にも緑の植物が存在している。着生植物の一種なのか、低くなって水が溜まっている周囲にも複数の植物が見られた。サボテンの様な多肉植物も多いようだが。小振りで可憐な白い花を咲かせる高山植物の様なものも多い。そうしてみているうちに、フキノトウにも似た淡い緑色の薄い花弁をもった花をみつけた。


「これは、『サウスレアインボルクラタ』か?! まさかこんな場所で自生しているとは……」


 アルバートが撮影している花は、滋養強壮に使われる高山植物であり、和名でいえば『雪蓮花』という多年草の花である。地球では、古くは中国の皇帝に献上されていたというすぐれた薬効成分を持つらしい。アレキサンドリアでも手に入るが、当然のごとく乾燥させたものしか目にすることはない。


「……そんなに興奮するほどのモノなの……?」


 ライラの言葉に、「さぁ?」と答えるサンドラである。淡い緑色をまとった花は、光が透けるくらい薄く、淡い花のように見えるが、薬草などに興味のない女性陣からすれば、さほど魅力的にはみえないのだが……


「……分析をしてみなければわからないが、他のものと同じ効能があるのであれば、滋養強壮や血流の増大、男子にとっては精力増大なんかも……」


 そこまで言って、ライラやサンドラの冷たい視線に気が付くアルバートである。確かに、うら若い女性の前で話す効能ではない気がしたので、あわてて女性向けの効能を必死に思い出す。


「そ、そうだ。女性にも下腹部の冷え性などにも効果があって、婦人病にも効能があるらしい。それに、化粧水にすると肌がすべすべに……」


 そこまで言ったところで、ライラとサンドラが二人とも喰いついた。


「……これが……」


「へぇ、美容にも効果があるなんてすごいんだな。王家に献上すれば喜ばれ……、いやまずは自分が使って効能を確認しないと!」


「まてまてまてまて、今日は採取は禁止だといわれているだろうが。それに確認しなければ、正確な薬効がわからない!」


 慌てて二人を止めたアルバートである。ライラもサンドラも、それほど美容にこだわっている様子はみえない二人でこの反応であり、アルバートは内心で女性の美に対するこだわりに、内心恐れをいだく。


「もしかすると、アレクシア様もこんな化粧水を使っているんじゃ……」


「……あの人は色々な秘法を知ってるし、使っているという話もある。この間もしぶしぶプールを使った美容について白状したばかりだし、艦長も口止めさせられてる話がかなりあるって話……」


「やっぱりあるよね~、あの人むちゃくちゃスタイルいいし、お肌もすべすべだったんだぜ?」


「……アレクシア様の素肌を見る機会なんて、私たちですらそうは無い。何故貴女たちが……」


「あ~、まずかったかぁ。いや保養施設ってとこでパーティーやってさぁ……」


 女性二人で話が盛り上がり始めると、アルバートはこっそり二人から距離をとった。うまく話をそらせたつもりであったが、採取が許可された場合、化粧水などを作らされることになりそうで、厄介事の予感(フラグ)が立ったのを感じられる。

 ちらりと飛空艇の側にいるドーラをみると、彼女も周囲を見渡しながらにんまりと笑っている。


(……あいつ、絶対売りさばく事を考えてるな? エルフの力を悪用してるんじゃ、そう言えば、あいつはハーフ?クオーター?とかいってたから、力はそれほどでもないのか??)


 結論の出ない事を考えるのは、アルバートの好みでは無かったため、軽く頭を振ると周囲の観察と撮影に意識を引き戻した。

 岩のくぼみに溜まった水は、雨水が溜まったものなのだろう。土のほぼ無い岩の上には、嵐の後だというのに澄んだ水がところどころに溜まっている事が確認できた。


「植物の他には、クモなどの昆虫類と、カエルが居るくらいだな。それらを餌とするためか、あまり大型の哺乳類は見当たらないようだな。いても虫を捕食するネズミくらいだろうが、可能性は薄そうだ」


 アルバートはつぶやきながら、標本が必要と思われる植物を中心に撮影を行っていく。喜々として撮影を続けていたアルバートだが、ライラとサンドラの二人は飽き始めてきている。一見平坦に見えていたテーブルマウンテンの上も、起伏や亀裂、水たまりなどがあるが、僅かばかりの花や虫ばかりであり、女性としては長時間興味をひくものはないので、しかたない状況である。

 機体の方を振り返ると、デーゲンハルトが護衛を引き受けた班も、機体へと戻る最中の様だ。カメラに搭載されている時刻を確認すると、準備作業も含めて、既に二時間近くが経過しており、気温も下がってきているようだ。さすがに物珍しそうに周囲を見ていたライラとサンドラも、既に退屈そうな様子を見せている。


(俺だけなら、このまま一晩中でもこの場に居たいところなんだが……)


 そう思いつつも、アルバートは二人の女性に提案した。


「あちらの班も確認を終えたようだ。我々も、機体に戻ろう」


 その提案は幸いにも喜びをもって受け入れられたが、アルバートとしては後ろ髪をひかれる思いである。とはいえ、無理を言えば先遣隊に選抜してくれたイリス班長や、恐らくアルバート自身の暴走を監視するために選抜されたドーラやワイアットの顔をつぶす事にもなる。

 撮影した植物の状況を見てみても、採取を行う場合には植物に精通した専門家が必要と考えてくれることを期待するしかないと、アルバートは考えたのだ。

 短い期間ではありながらも、集団での生活をしてみれば、自分自身のわがままを通すことなどできないのは、この男でもわかるのだ。

 Q(クイーン)A(アレキサンドリア)の航海の主目的は、別に離島の植生調査ではない。航海の合間の短い期間とはいえ、国内の研究者に実際の現地での採取作業を体験してもらおうというのは、ついでの事である。無理を言えば、今後こういった任務が望めなくなる可能性があり、研究者としては研究機会の喪失となってしまうのだから、わがままをいう事はできないのだ。

 実際、無理を言って自分自身だけが、この地に残されたとしても、食料も水も補給の無い状態では、ひと月もすれば虫の餌となり、この地の環境を破壊するきっかけになってしまうことくらい想像はつくのである。

 こうして、先遣調査隊は無事初日の任務を終えて、飛空艇に戻るのであった。

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