11.士官会議②
「君たち三人を巡って争っているのは、表面上はこの二人だろう。残りは内心はわからないが、表面上はすぐにどうこうはないだろうね」
「まあ、There is no accountingfor tastesってことさ。確か、メイソン叔父もその手の趣味がありそうだからなぁ。エリオットの奴も、案外本気で艦長を狙ってるのかもしれないぜ?」
ビキッと僕のこめかみが音を立てると、どこからか金ダライが現われ、リアンの頭に命中します。リアンが、頭を抱えてうめいていますが、金ダライはしばらくそのまま床を転がって音を立てた後、ふっと消え失せました。僕はリアンを指さしてケラケラと笑います。
「あまり変な事をいうと、罰が当たるんですよ~だっ」
あ~お腹が痛い。昔のコントみたいですね。涙まで出てきてしまいましたが、あれ?ほかの面々は顔色が悪いですね。
「……おい、今のは召喚魔法ってやつか?」
「ばかいえ、あんな無生物を召喚する魔法なんて、聞いたことないぜ」
あれ? アンソニーとハリーの二人はひそひそ話をしています。ちらりと見ると、イリスさんとワイアットは似たような仕草で、自分のこめかみをぐりぐりともんでいますね。ユイは呆然とつぶやきます。
「……艦長? いまの出来事は艦長が魔法を使ったのではありませんよね……? はっ、そういえば左舷展望デッキで暴れていた乗組員を、痛めつけていたのは艦長そっくりだったと聞いていましたが……」
あ~、士官には伝えていた方が良いかもしれませんね。僕は斜め上の空中をみながら、言葉をかけます。
「クイーン、悪いけど彼らに姿を見せてくれるかな? 士官には君の姿を見せておこうと思うんだけど……」
……しばらくの沈黙の時間が過ぎ、声がかかります。
「……仕方ないですね。今回だけですよ」
僕の背後に何かが現われた感覚が発生しましたので、振り向くとそこには白髪碧眼の、僕とそっくりな姿の女の子が立っています。
「紹介するよ。彼女は『クイーン・アレキサンドリア』。艦名とごっちゃになるので、通称『クイーン』と呼んでいるんだ。まあ、本艦に宿る妖精みたいなものだよ」
僕が紹介すると、クイーンはそっぽを向きます。
「……また得体のしれないモノを……」
つぶやいたワイアットはすかさず位置を変え、頭上から振ってきた金ダライを回避します……が、避けた先には水球が待っていたため、ずぶ濡れになっていますね。
「え~と、艦内では彼女の悪口は言わない方がいいよ? 多分彼女、艦内でなら僕ができる事は全部できるっぽい……」
「……なぜ艦長にうり二つなのかうかがっても……いや、きっと例の損害連動システムの影響ですか……」
いや~、あの時はかなり長期間寝てましたからね。しっかりトレースされてしまっています。それにしても、ユイは相変わらず理解が早いですね。頭の良い子は好きですよ、僕は。
「待ちなさい、この間までは実体なんて持ってなかったじゃない。どういう事よ!!」
イリスさん、そんなに怒らなくても。
「……ドーラ……」
クイーンが一言つぶやいた途端、イリスさんが黙り込みます。そう、彼女が持ち込んだある物が媒介となって、クイーンは実体化できるまでの力を得てしまったのです。
「まぁまぁ、ここは詳しい詮索をすると、いつクイーンの機嫌が悪くなるかわからないので、止めておきましょう。あぁ砲雷長、右舷の一番と三番の魔導砲を操作したのはクイーンだから、そっちの調書は多分嘘は書いてこないと思うよ」
僕がそういうと、アンソニー砲雷長はホッとした様子をみせます。
「助かりましたよ。勝手に砲が動いたなんて調書が二枚も上がってきてて、対処に困っていたのですから。ちなみに、クイーンの件は海軍司令部はご存じでは?」
「そんな事あると思う?」
「「「「「「ですよね~」」」」」」
……皆さん、結構息が合うんですね
***閑話休題***
「話を戻しますが、私としましては古参の乗組員と新参の乗組員の対立、特に青家と紅家の対立が問題だと思います。なにがしかの対策が必要かと……」
ユイの言葉に、各班の班長はうなづきます。ディランがつまらない事に対して、あえて対立をあおっている点が気になりますが、ディランにしてもエリオットにしても、それぞれ人望は少ないようですので、大勢に影響はないと思いますが、新兵さんが影響を受ける事が考えられます。細かい感情的な問題の積み重ねは、後々しこりとなる可能性が高いので、早めにつぶしておきたいですね。
「また、宴会でもやればいいだろ、明日で三日目でもあるし、今回の当事者二人は懲罰房にでもいれておけば、少しは反省するだろう」
リアンはそう言いますが、実はそう簡単な話ではないんですよね。ユイが船務長として全体の補給計画を立てていますが、軍としては船によって待遇の差を作る訳にはいきませんから、他の船が同様の任務をこなす場合と同等の食料しか補給はされません。
「今回は処女航海の時とは異なって、食料など艦載量はあまり多くありません。基本的に、設営済みの拠点への移動になりますので、それほど余裕はないんです」
それでも、艦内で小麦から小麦粉などを造り、パンやパスタを作るので、QAではパンも固パンではなく、発酵パンが提供できますし、製麺機やパスタマシンなどの魔道具がありますので、様々な種類の食品を提供できますからね。さすがに、スイーツ専用の装備品は艦内に置くことは出来ないのですが……。
そんな事を考えていると、ワイアットがこちらを見ます。どうせ、僕の秘匿スイーツをだせないかを聞いておきたいのでしょう。しかたなく答えますか。
「僕の隠し玉のスイーツ類も、あまり余裕はないよ。乗員が増えた分、全員に提供すると、一回の消費量が半端じゃなくなってるもの」
それに乗員が増えた分、艦内の勤務体制が正常にローテーションされる事は良い事ですが、今回のように親睦のパーティーを行う場合、常にだれかが通常勤務中に宴会をすることになります。それですと、士気が著しく落ちますよね? 皆が宴会で騒いでいるのに、真面目に仕事をするのは、精神的に負担をかけます。全員を同時に参加させると、宴会後そのまま勤務に入る班が出てしまってはいけませんので、翌日休みにしなければローテーションが回らなくなります。
処女航海の時は乗員が少ない分、僕が夜間警備を兼ねていましたので、一部の乗員のシフトを変えるだけで済みましたが、大人数だと影響も大きいですしね。
どうしようか考えていると、クイーンが東南方向を見て呟きます。
「濃密な雲、風も強い。恐らく嵐が来る……」
あ~、クイーンには小型の気象用レーダーを接続していますからね。ただ、探知距離は百キロ程度なので、台風やハリケーンクラスだと全容がわからないのが難点ですが、小型のXバンド二重偏波ドップラーレーダーを複数搭載していますので、多重観測により精度は高いんです。
「航海長、付近に投錨可能な無人島はある? できれば、波が静かな湾と強風がさえぎる事ができれば最高なんだけど」
ミーティングルームで海図も無いのに何を聞くんだと思われるかもしれませんが、この程度の質問に答えられなければ青家が航海長として出す訳がありません。航海長は少し考えて、僕に条件に合致した島を教えてくれます。
「南東十五海里ほど先に、未観測の無人島があったはずです。三方が断崖絶壁に囲まれた小さな湾を持つ孤島ですが、登坂が困難であり、水資源も期待できないために調査は行われていません。湾の水深は、停泊には十分なはずです」
あまり嵐に接近すると、波のうねりが大きくなりますしね。現代の地球であれば、嵐の海域は迂回するのでしょうが、アイオライトには、気象衛星が有る訳ではないので、嵐の規模もわからなければ、回避方向が読めません。
三角波が多発するような海域では、鋼鉄艦であるQAでも突如安定を失い沈没させられることが無いとは言えませんからね。
地球でも、高さ三十四メートルの三角波が観測されたこともありますから、この波の頂点に乗ってしまえば、大型のタンカーですら自重で真っ二つです。まあ、魔法があるのでそれはさせませんが……
「一旦、先ほどの話は保留とします。この嵐が、うまくいけば乗組員の不和を納めてくれるかもしれませんからね」
そうして、僕たちは指揮をとるために各部署へと散ったのでした。




