04.訓練
「艦長、第一分隊砲雷科および第五分隊飛行科の合同訓練の時間となりました。訓練の内容をゲストの皆様に説明してよろしいでしょうか?」
ワイアット航空指令の質問に、僕はうなずきます。
「そうですね。任地に到着するにはまだ日程もかかりますから、エリーゼさんとコリーヌさんは作戦参謀として仮配属をお願いします。お二人は、地上兵力の指揮は経験がおありでしょうけど、まずは飛行科と砲雷科の実力を把握してもらってください」
お二人をワイアットにお任せして、僕は全周警戒に入ります。先ほどユイはユイで、船務長として船務科の新装備のレーダーとソナー操作の習熟訓練をおこなっています。
砲雷長と航空指令との打合せを、エリーゼさんたちはおとなしく聞いています。とはいえ、専門用語が飛び交っていますのでどの程度理解しているのかは謎ですが、あの二人なら一日見ていればこちらの実力を把握するでしょう。
航空指令と砲雷長の打合せによると、航空隊の飛空艇二機は順次発艦して、本艦への模擬弾による攻撃訓練をするみたいですね。砲雷科は、これをやはり模擬弾で迎撃するようです。
「砲雷長、味方とは言え飛空艇の速度はカノン砲弾よりは速いですからね? 航空指令も、最終迎撃ラインを破られたら、僕も動きますので、油断しないよう伝えてくださいよ」
艦対空防衛は、当分発生しないとは思いますが、飛空艇に対しては魔法攻撃などがありますからね。機体をロストするのも痛いですが、操縦士は一朝一夕では育ちません。一機で一隻沈める神風攻撃に使うには惜しいですからね。
「では航空指令、エリーゼさんを伴って航空隊の指揮をお願いします。手の内を隠そうとしなくていいですからね。本気で来なければ即撃墜されるつもりでお願いします。
コリーヌさんは砲雷長とともにこの場で防空指揮を見学してください。ユイ、レーダーとソナー担当の習熟はどうですか?」
僕の質問に、ユイは首を振ります。どうやら、まだ砲雷科との連動は難しいようですので、索敵・発見の訓練をしてもらいましょう。
「航空隊発艦後、五分を経過した時点で訓練を開始とします。航空指令、始めてください」
「了解しました。飛空艇1番機発艦いそげ、2番機の発艦作業開始」
こうして、ゲストの前での訓練が開始されました。
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「さて、そろそろ五分が経過しますね。とはいえ、対空レーダーからは隠れる事はできていませんが……」
ユイたちには説明してませんが、今回の情報能力強化には対空用レーダーも含まれています。飛空艇や飛行機は存在していないでしょうが、飛竜種や天馬などを使う国はあるかもしれませんからね。
第二次世界大戦後の軍艦では、一極集中を避けるのと情報の集中と防御面から、艦の中央部に戦闘指揮所(CIC)を設けるようになり、艦橋は航海・操艦・目視確認の場所として重要度は落ちていたのですが、QAは戦闘指揮所を採用することはできませんでした。
これは、艦を製造した時点ではレーダーやソナーなどがなかった事もありますが、操艦から戦闘まで、全て僕が管掌する必要もあったせいですね。それもあって、QAの艦橋は、某宇宙戦艦のように艦橋に全ての情報が集中するようになっています。まあ、最悪単独特攻も可能な艦ですし、僕がいないとそもそも運用できないので、ダメコンを考えた分散配置を取る意味がなかった事もあります。
「敵機五時の方向に一機発見。後部防空準備せよ」
砲雷長の指示で、防空戦闘が開始されましたが、帆船相手ではないので、早速迎撃の魔法が後部甲板の魔導砲から発射。実戦では氷魔法の氷針が飛ぶのでしょうが、訓練なので赤く染めた水槍が使用されています。
とはいえ、二機発艦したのに発見したのはまだ一機だけですか……。対空レーダーの反応は光点は一つですが、迎撃された飛空艇が回避行動をとった一瞬、光点が二つになりました。僕は砲雷長に向かって叫びました。
「?! 砲雷長、一機目の上1500フィート!」
艦からの機体の位置を、水平面だけでも合わせてきたのは、考えてきましたね。人は目標を見つけると、それに注目してしまいます。固まって飛来するのであれば、発見は容易いですが、高度差をとれば一機目の迎撃をしている人の目には留まりにくくなります。
「ちっ、QA回避運動に入ります。両舷全速、面舵いっぱい。ジグザグ航行開始!」
航海長が舵を大きくきったため、艦が大きく振られます。QAは空母の形状をとっていますが、多少傾いた程度では軍艦というのは転覆したりはしないのです。
第二次世界大戦以後の軍艦は、実は九十度傾いても復原するように設計されていると聞いたので、QAもそれに習っているのです。
九十度傾いても復原するのならば、なぜ攻撃を受けたり、事故による損傷で船が沈むのでしょうか? じつはそこにダメージコントロール、俗にダメコンと呼ばれるものがあるのです。
ダメージコントロールで乗組員がおこなう事は、被害が出た区画と隣接する防水扉とダクトをしっかりしめる、バランスをとるバラストタンクに注水をおこなう事ですが、これを短時間に行わなければならないのです。これらが出来なければ、しっかりとした機能があっても、船なんて簡単に沈んでしまうんですよ。
そして問題となるのは、本格的な訓練がやりにくい事ですね。実際に艦に大穴をあけて浸水させるわけにはいきませんから。
あぁ、レギニータに手伝ってもらえば、想定した浸水箇所で水魔法を使ってもらうという手もありますか。今度検討しようかな? でも、水浸しにするとあちこちからクレームが来そうですね。ユイに叱られそうですし、リアンもここぞとばかり文句をいってきそうだなぁ……
おっと、話がそれてしまいましたね。まあ、多少傾斜しても、処女航海の時と違ってケガをしたりする人は居ないでしょう。新人? 新人さんにケガをさせるようでは、なんのための上官かわかりませんよ? 上官はただ偉いのではありません。部下の生命に責任を持つからえらいんですから。
大きく舵を右に切ったQA目掛けて、直上から模擬弾は、航海長の操船でかろうじてかわせましたが、投下した機体は既に上空には居ません。何処にいった……
そう思った直後、艦橋の直前に何かが落下してきました。それは防弾に替えられた艦橋の前面ガラスの正面、数メートル先で止まります。
「なっ!!」
投弾後消えたと思った機体が、直上から急降下して艦橋直前で止まったようですね。とはいえ、小型の飛行船の様な物でよくそんな機動が取れましたね。風魔法と操縦技術を駆使したのでしょう。
呆気にとられていた僕たちの前で、操縦者は機体を空中でホバリングさせながら、キャノピーを開きます。長めのブロンドの髪が、風になびいて、歯がきらりとひかりました……
『ビー!!』
警報音が鳴り響き、新設された防弾シャッターが突然閉鎖されました。艦橋内の照明が非常灯に切り替わります……
「はっ、機関両舷デッドスローダウン」
航海長が慌てて機関を減速させます。僕は情報パネルに艦橋方向を表示させましたが、そこに映ったのは、模擬ペイント弾に赤く染まった艦橋と、飛行甲板上一メートルくらい上でホバリングしている飛行艇の姿です。飛行艇も、それに搭乗していたと思われるパイロットも、模擬弾のためか真っ赤に染まっています……
「……いったいなにが……」
砲雷長の声を聴きながら、僕は情報パネルに映る映像を操作して巻き戻しします。五分くらい前まで戻せばよいかな……
映像の再生を始めると、航空指揮所から青い顔をしたワイアット航空指令と、なぜか笑いをこらえているエリーゼさんが降りてきました。そして映像を再生した僕たちは、何が起きたのかを知ったのです……
艦橋前で、カッコをつけた航空隊の隊員が映った途端、右舷二番魔導砲が安全角の制限を手動で切って旋回します。安全角は、魔導砲を射撃した場合、艦橋構造物を破壊しないように設けられた安全装置ですが、それが切られた事によって艦橋を保護するための安全装置が作動、防御シャッターが閉鎖されます。
右舷二番魔導砲は、そのまま艦橋前に飛行していた飛空艇を射撃。命中弾を受けた機体はそのまま甲板上に落下する直前に、組み込んであった緊急安全装置が作動し、甲板上でホバリング。操縦者は、着弾の衝撃でコクピット内に気絶しています。
しかし、右舷二番魔導砲も只ではすみませんでした。一番三番魔導砲が自動旋回して、二番砲塔を射撃。右舷二番砲塔も緋に染まったのでした。
事の次第を確認して固まっている各士官のなかで、特に航空指令であるワイアットと、砲雷長のアンソニーの顔色が特に悪いですね。
僕は二人の方に首を向けます。ギギギッと、音がしないのが不思議なくらいロボットじみた動きになっているのは自覚していますよ?
「……航空指令、砲雷長。今の映像を見て、何か弁解はありますか……?」
僕の笑顔はさぞ黒いものになっているでしょうね。
「「ありません!!」」
僕はため息をついた後、二人に命じます。
「まず、当事者から事情を聴取したあと、始末書を明日の朝までに提出するように。処分は軍規と士官による会議で決定します。その内容によっては、お二方も追加で始末書を書いていただきます。
合わせて、今回の当事者二名は当直明けに飛空艇、艦橋構造物、魔導砲塔の洗浄を命じます。生活系魔法の使用は認めません。バケツと雑巾を使用して、しっかりと洗浄させること。いいですね?」
「「Yes,Ma'am!!」」
二人はそう言うと事情聴取に向かいます。そんな彼らをみて、エリーゼさんが残念なものを見たような顔で一言つぶやきます。
「……素晴らしい道具も、使う人によりけりなのね」
その声にうなずくコリーヌさん。そして、何とも言えない表情を浮かべる、僕やユイたちは苦笑いするしかありませんでした。




