77.内輪の新年祭パーティーにて
ファロス島での花火に合わせて、『QA』側でも花火を打ち上げます。アレキサンドリアの上層街・下層街だけでなく、開放都市でも歓声が上がるのがわかります。さぁ、後は騒いで寝るだけですよ。
「夜間の遊覧飛行もなかなか楽しかったわよ? といっても、お祭りの時でないと街にも明かりが無いからつまらないでしょうけど」
アレクシアさんとリリーさんが顔を見合わせてほほ笑みます。イェンさんはそっぽを向いていますが、まんざらでもなさそうですね。
「え~、あたしも見てみたい。ワイアット航空指令、お願い……」
「残念ですが、僕はお酒を既に頂いてしまいましたので……」
アーシャのお願いは、素っ気無くワイアットに断られます。女子に冷たいのは、ぶれませんね、こいつは。
「そういえば、私もありませんね」
ユイがつぶやきますが、そこでイリスさんが余計な一言を言ってしまいます。
「あら、そうでしたっけ、以前に……「イリスさんダメ!」」
あわててイリスさんの口をふさぎますが、時すでに遅しですね……、ユイがジト目で僕とイリスさんを見ています。
「……はぁ、わかりましたよ。エマとジェシーはここの警戒お願い」
ドローンモドキ2号は、アレキサンドリアでも秘匿兵器ですので、ワイアットの管理下にはありません。艦内の格納箇所も、秘密の区画に存在していますが、僕の艦内コントロール権限で甲板上に移動させます。リアンやワイアット、アーシャにも口外禁止を徹底して搭乗口を開きました。
リアンもワイアットも興味津々の様ですが、お酒を飲んだ二人は搭乗禁止です。同じ理由で、アレクシアさん達三人もお断りです。狭い機内で吐かれちゃたまりませんからね。後部座席には、ユイとイリスさん、アーシャが乗り込みます。
「じゃあ、女子だけの遊覧飛行としゃれこみますか。では、発艦」
高度を徐々にあげると、アレキサンドリアの上層街・下層街、開放都市の街の灯かりが眼下に展開されます。確かに、お祭り当日だけあって、いつもより街灯かりも多くて幻想的です。
「ふわぁ、すごいすごい」
「確かにこれは見ごたえがあるわね」
「ほんとに……きれいですね……」
アーシャ、イリスさん、ユイの三者三様の感想が背後できこえます。空中でホバリングしながら、街灯かりを楽しみます。街灯がある街なんて、たかが知れていますし、普段は夜間になればよろい戸を落としてしまう家も多いですからね。こういったお祭りの時期でなければ、夜景を楽しむことなんてできません。
河口から川を遡上して、下層街から上層街の上空を遊覧飛行します。上層街の上空では高度を上げて、暗い陸地と月明かりにわずかに輝く海の境界を見ながら、遠い町のわずかな灯かりを楽しみます。もっとも。アレキサンドリアと開放都市が明るすぎて、他は暗くしか見えませんが。
ファロス島の周囲を高度を落として遊覧飛行しましたが、途中でイリスさんのお宅の窓が開いていて、中で一人寂しくお酒を飲んでいるオスカー副長が見えました。イリスさんは見て見ぬふりですが、アーシャとユイは「かわいそう」て呟いていますね。
そのまま、開放都市の上空をのんびりと飛行して、『QA』上空まで戻ります。洋上の『QA』も本当にきれいでしたよ。
着艦後、DM2を艦内に格納して、既にパーティーというより宴会の様になった中に混ざります。ちょっとしたステージも用意して、アレクシアさんとリリーさん、イェンさんが民族音楽風の楽曲をうたっています。カラオケ気分なのでしょうね。洋上なので、迷惑は掛からないから、まあ良いとしましょう。
「そういえば、今年でクロエちゃんも成人なのね。月日が経つのは早いわね~」
アレクシアさんがそう言いながら僕に飲み物を手渡してくれます。確かに、もう今年で15歳になるのですね。社会的には数え年でカウントされるので、今日から大人扱いされるのか。
感慨深いものですが、アレクシアさんもリリーさんも依然と見た目も体形もあまり変わりませんね。相変わらずの美魔女っぷりをいかんなく発揮しています。そんなお二方を見ながら受け取った飲み物を一口飲みます……
「……アレクシアさん、まさかこれは……お酒じゃぁ……」
甘味が強く、口に含んだときは気が付きませんでしたが、喉を通った時の灼熱感と、お腹の中で何かが燃えてるような熱さを感じます。
「あら、大人になったんですもの。お酒は当然でしょ?」
アレクシアさんの声が、どこか甘美に聞こえて、頭がふわふわした感じに僕は襲われます。ちょっと、アレクシアさん……予告無しは酷いですよ。そう言おうとした僕の中で何かが弾けた気がしました。
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「うぅ、ひどい目にあった……」
周囲の明るさに、僕は目を覚まします。気のせいか、自分の声がかすれているように聞こえますが、気のせいでしょう。最後にアレクシアさんにお酒を盛られたのは記憶していますが、その後どうなってしまったのでしょうか?
甲板上にはなぜか毛足の長いカーペットが敷かれ、毛布ではなく布団にくるまった女性陣と、外れのほうで簀巻きにされているのはワイアットとリアンの様ですね。
視線の外れには何故か舞台のようなものが見えますが、気のせいですよね? 妙にアルコールの匂いがいっぱいの甲板上の空気を追い払うために、遮熱フィールドを解除します。もう朝ですし、皆さんを起こしてもいいですよね?
「ほら、イリスさんにユイ、起きてくださいよ! もう、帰港準備しなければいけませんよ」
一気に冷えた甲板上の空気に、クシャミをしそうになって自分自身に遮熱フィールドを展開します。
「う、寒いわね……、私にも寒さ避けかけてよ。あぁ、ユイにもかけてあげて」
はいはい、わかりましたよ。二人に遮熱フィールドをかけてあげて、僕は周りの雑多とした物のなかで僕が収納からだした物をしまいだします。
「あ~、昨日は楽しかったわね。でも、ほんと貴女っていろいろできるのね」
そう言いながら、イリスさんが珍しく鼻唄を口ずさみます。
「Even if our love was just a dream, how sweet a dream……※1」
へっ、僕はその歌を聴いて半ば凍り付きます。ちょっと待ってくださいよ……
「……イリスさん、その唄をどこで?」
恐るおそる聞いた僕に、ユイが答えます。
「なに言ってるんですか? 昨日クロエさんが熱唱してたじゃないですか。歌も歌えるなんて知りませんでしたよ。アレクシアさんは、お祭りでクロエさんに歌わせてもお金とれるかもっておっしゃってましたし」
僕の視界には、確かにアレクシアさん達が歌うようにと用意した、スピーカーや楽器っぽい魔道具群。確かに僕が用意したものですが、僕自身は歌った記憶は全くありません。僕は頭を抱えてうずくまります。
「……まさか、全く覚えてない訳じゃないでしょうね」
イリスさんの問いに、僕は力なくうなづきます。
「お酒を飲まされた後の記憶が全くないんですよ。あの~、忘れてもらう訳にはいきませんよね?」
「無駄よ、アレクシア様がスマホで録画してたわよ? すごかったわよ? アレクシアさんのマイクを取り返して、一人で誰も知らない歌を歌いだすんですもの。私たちが知らないっていうと、歌詞をスマホに送ってきたし。もう、最後はクロエオンステージね。まあ、私たちも映っちゃってるから、アレクシア様もそうそう表に出さないとは思うけど」
イリスさんの発言は、全く慰めになりません。うわぁぁぁ、やらかした~。新年早々、僕の心は絶望に染まるのでした。
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※1 『Lemon』冒頭の英語歌詞です。JASRACこないですよね?




