2026 W杯の年
日本が優勝するなんて、世界中の多くの人は、まだ本気で信じていない。
でも。
仕事帰りの選手が集まる夜のグラウンドでも、
人数ぎりぎりの草サッカーチームでも、
子どもと大人が同じボールを追う街角でも。
仕事や家庭の隙間で、
ボロボロになりながら、
それでも笑ってボールを追いかける人たちが、
今日も日本のどこかにいる。
たぶん、
サッカーって、そういう場所から強くなる。
気がついたら、隣にすごい顔をしたでかい男が立っていた。
「なんで、止めねーんだよっ!」
吐き捨てるように言った。
だよな。
止めるべきだよ。没収試合だろうが、なんだろうが止めるべきだ。
「なんで、止めねーんだよ」
低い声を絞り出すように言った。
そうだよ。わかってるって。
なぁ、お前、止められる?
お前だったら止められるか?
死んでもいい。そんな笑顔でサッカーやってるのを止められるか?
「りーん!左!」
俺は叫んで――気がついた。
そうだ。
高校の時、俺は昼休みのサッカーで、親友を「りん」と呼んでいた。
俺しか呼ばないサッカーネームだ。
懐かしさが込み上げてくる。
消えてしまったりんがボールを追っている。
ピッチに向かって、もう呼ぶことがないと思ったあの名前を呼ぶ。
いけー!りん!
涙が溢れちゃってる俺を「なんだよ、このおっさん」て顔して見てるドラゴンマスク君に言った。
俺さぁ、なんか、ちょっと本気でこのチームやってみようかなって思う。
いや、今でも本気だけどさ。
運営から関わらせてもらおうかなと。
今やってるサッカー教室から、リーグで戦える選手に育ててさ。
本気でサッカーやる選手、好きで続ける草サッカー選手を育てたい。
高校サッカーの監督は、候補がいっぱいいるけど、「楽しくサッカーを始められる場所」を提供して、誰でもサッカーを続けられる活動は、サッカーエリートじゃなかった俺みたいなやつしかできない。分母が大きければ、仕事や家庭の事情で休んでもらったっていい。いつでも帰って来れる場所を広げたい。
その絵が、今、ピッチに見えたんだ。
そこまで話したら、ドラゴンマスクが少し笑った。
ホイッスルが鳴った。
勝った!
でも、リーグ戦は始まったばかり。
俺の気持ちを選手に伝えて、俺の案を聞いてもらおう。
りーん!あいさつ!
トボトボと負けたみたいにベンチに帰ろうとする鈴に言った。
「鬼だな、律」
ドラゴンマスクに怒られた。
でも、最後まで選手として試合を終わらせたかった。
なあ、空にいる、りん。
お前とのサッカーより、長い付き合いになりそうだ。
ドラゴンマスクより
サッカーは、
苦しくて、痛くて、
たまに、どうしようもなく楽しい。
だから今日も、
誰かがまたボールを蹴る。
それぞれの明日へ。




