66話 ガンマン
さてと、掃除は終わったし……やるか。
背後の脅威を排除して戻ってくると、大部屋の様子をそっと確認する。
大部屋は半径50m四方はある空間だった。
こんな広い場所で馬鹿正直に戦ったのなら、あっという間に包囲されて袋叩きにされてしまうだろう。
だから、戦う場所は5mくらいしか道幅のない狭い大部屋の入り口付近にする。
ここに陣を築いて、ゴブリン達をおびき寄せて戦うことになるだろう。
そして、具体的にどのような戦術で戦うかと言うと。
まきびしと火炎瓶の炎で2重の壁を作ってゴブリンの足を止めて、その壁の後ろから一方的に矢で射って殲滅を狙うといったアウトレンジ攻撃だ。
ゴブリンは遠距離攻撃を持ってないのでこの作戦はピンポイントで決まることだろう。
ここならば、何かしらのアクシデントがあった場合でも背後の闇に逃げてしまえば退路の心配は無いしな。
まずは、陣地を作るためにまきびしの配置を計算して蒔く。
まきびしの数が少ないため、適当に撒いていたら数で押し切られてしまうのだ。
コツとしてはV字になるように蒔く。
こうすると、通れる道があるのにわざわざ茨の道を進む馬鹿は少ないため(居ないと言っていない)まきびしの置いていない中央付近へ自然と進路を取ってくれるのだ。
そして、ボウガンで処理をしつつ密集した所を火炎瓶でボンと殺るわけだな。
それでも倒しきれそうになかった時は背後の暗闇に逃げて少しづつ倒す。
退路の確認もしっかりとやっておく。
最後に火炎瓶の下準備をする。
ちなみに、火炎瓶は薄くて割れやすい瓶の口をコルクで布を挟んで塞いでいるだけだ。
そのままでも普通に使えるのだが、1回コルクを抜いて布に蒸留酒を染み込ませておく。
こうすれば、ジッポライターの火が少し触れただけですぐに着火してくれるのだ。
1秒を争う展開になるかもしれないからな、少しでも備えておくんだ。
準備が終わると、ジッポライターに火を点けたまま地面に置いた。
さあ、準備は整った。
大部屋の入り口付近からそっと覗くと、ゴブリン達は四方にばらばらに固まって突っ立っていた。
上手い具合に各個撃破できたら良いのだが、そう簡単には行かないだろう。
まずは様子見で一番近くにいたゴブリンに狙いを定めて矢を射る。
矢は頭部を貫通してゴブリンはパタリと力なくその場に崩れた。
他のゴブリン達は気づかなかったのか倒れたゴブリンにあまり反応しない。
続けて2匹目に矢を射掛けて仕留めると、さすがに異変に気づいたのか倒れたゴブリンへ仲間が集まっていた。
しかし、この期に及んでもこちらの存在には気づいていないようだった。
これは、上手く隠れながらやればいけるのかな?
祈りながら装填した3射目の矢を射る。
しかし、今度はさすがに気づいたようで、一斉に俺の居る入り口付近へと向かって殺到してきた。
やはり、楽には行かんか。
4射目を射る頃にはすでに目前までゴブリンが迫って来ていて、5射目を射るために矢を装填しているとゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。
慌てて顔を上げると、ゴブリンはまきびしを踏みつけたようで痛そうに喚きながら地面を転がっていた。
「もう来たのか!?」
予想していたよりもずいぶんと早い。
まきびし地帯に差し掛かるタイミングは、もう2射くらいは余裕があると思っていたのだが。
一番近くに固まっていた先頭集団はすでにまきびし地帯に進入している。
転がっているゴブリンを見てまきびしの存在に気づいたのか、先頭集団に居たゴブリン達の足が完全に止まる。
しかし、そこに後ろから次々とゴブリン達が来ると、押し合いへし合いの混雑状態になった。
今がチャンス!
火炎瓶に火を点けると、手際よくゴブリン達が一番密集している場所に投げつける。
ボン! と威勢の良い音が鳴り響くと、10匹くらいのゴブリンが火達磨になってその場に転げまわっていた。
さらにそこに、後ろから走って来たゴブリンが勢いよく躓いて倒れる。
倒れたゴブリンは、さらに後ろから迫ってきたゴブリン達に何度も踏みつけられてくしゃくしゃになっていた。
HPを見ると表示は0になっている。
団子状態になってパニック状態のゴブリン達にさらに2つ目の火炎瓶を投げつける。
ゴブリン達は密集して折り重なって倒れていたため、最後には20匹程が巻き込まれての阿鼻叫喚の地獄絵図といった状態になっていた。
火達磨になっているゴブリンが壁になるとすべてのゴブリン達の足は完全に止まっていた。
そして、その後ろにはさらにまきびしの壁が控えている。
にやりと笑みを浮かべる。
ここからはずっと俺のターンだ!
ボウガンからは次々と淀みなく矢が放たれていた。
まきびしの壁の上を何の障害もなく通過した矢は、炎の壁も切り裂いてゴブリンへ突き刺さる。
棍棒を持っているゴブリン達は成す術も無く完全に棒立ち状態だ。
このままワンサイドゲームで終わるかなと思っていると、しかしそんな事は当然無かった。
ゴブリン達は火達磨になっているゴブリンを踏みつけて、火傷を負いながらも炎の壁を強引に進んできた。
鬼気迫る顔をしたゴブリン達が次々と特攻してくる。
だが、甘い!
強引に炎の壁を突破しても、その後にはまきびしの壁が待ち構えているんだ。
炎の壁を強引に突破してきたゴブリンが、すかさずまきびしを踏みつけて転げまわる。
転げまわっているゴブリンに向けて容赦無く矢を撃ちこんで息の根を止める。
ここが最後の砦だ。
絶対に突破はさせん。
そして、炎に特攻せずに棒立ちになっていたゴブリン達が集まるタイミングを見計らって、止めとばかりに最後の火炎瓶を投げつける。
最後の火炎瓶はコルクを抜いて撒き散らすように投げつけたため、20匹程の集団に少しづつ掛かり燃え広がっていた。
あとは、炎とまきびしの防衛線が切れる前に倒すだけだ。
どちらが早いかの勝負だ。
一心不乱にボウガンを撃ち続けていると残りは4匹となっていた。
なんとかなったみたいだと安堵していると、そいつらは我がもの顔でやって来た。
「うそだろ?」
奥にある50mほど先の採掘場の方から、さらにゴブリンが30匹程向かってきたのだ。
しかも、手には松明まで持っている。
どうする?
どうやら、暗闇へ逃げて戦うという選択肢も断たれてしまったようだぞ?
一旦、外まで完全に逃げてしまうか?
いや、それは駄目だ!
デールとチップの2人が危険な状態かもしれないんだ。
「…………」
ベレッタを使う。
1発でも弾を節約するために必死にボウガンに矢を装填しては仕留めていた。
奮戦の甲斐があってか、目前にいた残っていたゴブリン達は何とか増援が来る前に始末する事ができた。
しかし、すでに奥から来た増援の集団は目前だった。
火勢の弱い場所からゴブリンが踏み込んで来る。
咄嗟に1匹は仕留めるも、増援で来たゴブリン達の集団はすでにまきびし地帯を完全に乗り越えていた。
攻撃してきたゴブリンの棍棒を盾で受けると同時に、装填されていた残り1本の矢を射る。
至近距離で眉間を射抜かれたゴブリンは断末魔の叫びを上げていた。
しかし、休む間もなく新たなゴブリンが棍棒で殴りかかったきた。
ボウガンを投げ捨てると転がって距離を取る。
転がっている間に懐からベレッタを抜くと安全装置を解除した。
残っているゴブリンは28匹だ。
炎を吹き出しながらベレッタが吼える。
トリガーを連続して引きマシンガンのように連射すると、噴射炎の数だけゴブリンの命が消えていた。
闇雲に撃っていた昔の乱射とは違う。
1発とて外してはいない。
ゴブリン達の頭部から、次々と赤い鮮血の花が咲き乱れてはその命が失われてゆく。
しかし、それでもゴブリン達の行進は止まらない。
殺されても殺されても向かってくる。
永遠に続くのかと錯覚しそうな殺戮だったが、スライドストップが作動して全弾撃ち尽くした事を教えてくれた。
リリースボタンを押して空のマガジンを排出すると、カシュと小気味の良い音を鳴らして空のマガジンが排出される。
ガンボックスから予備のマガジンを取り出すと、流れるような動作で手に持ったマガジンを装着してトリガーを引いた。
マガジン交換から発射まで要した時間、この間0.5秒。
銃を撃ち始めてから殲滅するまで、10秒とは経っていなかった。




