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ロージア ~悪役霊嬢に聖女の加護を~  作者: けっき
第5章 見えない繋がり
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訴訟人候補

「お義姉様がお話していた通りでした。ノイワンによればこの王都にて、ある代書人の不審死が半月前に起きたばかりということです」


 光差す奥庭のガラス温室。いつものように救荒作物の手入れをしつつ待ってくれていたエレクシアラはロージアが到着するなり報告を開始した。

 彼女が騎士に調べさせたのは直近一年で亡くなった国内の代書人。その数は合計七名で、三名が夏の流行病による病死、三名がそれより前に事故や持病の悪化によって亡くなったそうである。残る一人は半月前──つまりロージアが館を追われるほんの一週間前──に暴漢に襲われて死んだとの話だった。


「代書人の名前はブーン。年齢は四十五歳。十年前に独立して自分の事務所を持っていました。彼を殺害した犯人は捕まっておらず、暴行を目撃した酔客が数名いるだけのようです。被害者と最後に話をしたのは馴染みの酒場の亭主だそうで、そのときブーンは黒いフード付きマントの剣士と飲んでいたとか」


 黒いフード付きマント。そう聞いて思い出したのは闇に溶け込むかのようなデデルの黒装束だった。

 十中八九あの騎士がリリーエの指示を受け、ブーンに恋文代筆を依頼したのだろう。既にこの世の者ではないデデルと目撃者を引き合わせ、暴漢はこの男だったかと尋問することはできないが。


「役立つ情報でしたか?」


 不安げに王女が問うてくる。ロージアは「ええ、もちろん」と頷いた。


「現行犯でもない限り、即有罪と断定できる証拠の提示は困難なものですわ。ですからこうして裁判員が『これは』と思う材料を収集しておきたいのです。裁判ではその材料をいかに組み立てるかが重要でしょう?」


 この返答にエレクシアラが神妙な顔で黙り込む。彼女には何やら懸念がありそうだった。


「……やはりお義姉様は、リリーエ・アークレイとその母を提訴するおつもりなのですよね?」

「ええ」

「ですが一体どのように? お義姉様のお話では、お義姉様のお姿は王族しか見ることができないのでしょう? 手続きだって死人の申請が通るのかさえわかりませんし」


 うっとロージアは答えに詰まる。確かにそれは解決するべき難題だった。

 ロージア自身が法廷に立つことはいろいろな意味で不可能だ。可視不可視の問題もあるし、神国の法律は生者しか想定していない。

 もし本当にリリーエ一派を訴えるなら、ロージアの名誉のために、あるいはペテラスの平和のために、戦ってくれる代理人を見つけなければならなかった。アークレイ家に立ち向かう力と身分を持った誰かを。


「…………」


 視線を避けてエレクシアラが目を伏せる。適任が誰であるかは王女も承知で尋ねたようだ。


「……わたくしに訴訟を起こせれば一番いいのでしょうけれど……」


 か細い声が頼りなく震える。公爵家の裁判となれば国の一大事となるはずだ。傍聴席は王女の苦手な高位貴族で埋め尽くされるに違いない。どんな眼差しがエレクシアラに注がれるか、想像はたやすかった。

 ロージアは触れられない手に手を重ね、小さく左右に首を振る。彼女を思う言葉は自然に溢れ出た。


「あなたに無理をさせるつもりはございません。わたくしを信じて手を貸してくださるだけでどれほど心強いことか。わたくしは支柱の折れた蔓薔薇でした。あなたという支えを見つけてようやく真に前進を始められたのです」


 ナナに謝罪と感謝を伝えられたように、生きた者と交信する方法がないではない。訴訟人は探せば誰かしら見つかるだろう。アークレイ家より序列の低い貴族にはなってしまうだろうが、それは仕方のないことだ。多少不利になったとしてもエレクシアラが傷つくよりはよほどいい。


「でもわたくし、お義姉様のことを心から悼んでいるのに……」


 最善を尽くせない罪悪感で王女はうつむいてしまう。ロージアが「あなたが責任を感じる話ではありません。代理人くらい自分で見つけてみせますわ」と諭しても彼女には納得できないようだった。


「ごめんなさい、お義姉様」


 哀切に詫びられてどうしたものかと思案する。エレクシアラのこの誠実さがひとかけらでも兄に備わっていたならばロージアも苦労しなかったのに。

 エリクサールの抜けた顔面が脳裏をよぎったその瞬間、ロージアは「あ」と閃いた。もう一つ王女に協力を願える話があるではないか。


「どうかお嘆きにならないでください。表に立つのが得意でなくてもあなたがどれだけ多くのものを支えられる人なのか、わたくしはよく存じております。あなたのそのお力を今から一つわたくしにお貸しいただけませんか?」

「…………!」


 仕事があると示唆すれば王女はすぐに背筋を正した。ロージアのためにならいくらでも動こうと言うように食い気味の問いが返される。


「もちろんです。わたくしは何をどうすれば?」


 元気を取り戻したエレクシアラににこりと笑う。指を立て、ロージアは次の一手を打ち明けた。


「エリクサールを(おど)かしましょう。王太子妃に相応しい女性なのかリリーエを調査したとか、別の調べ物の最中に偶然知ったとか偽って、リリーエの騎士が殺人に関わっていた可能性を示すのです。怖気づいて婚約を延期すればよし、拒絶すれば更によし、大なり小なりリリーエを見る目が変わるはずですわ」

「なるほど! 敵の王宮入りを遅らせる作戦ですね」


 王女はこくこくと頷く。「そのくらいなら今日中に完遂できます」と彼女が快諾したそのとき、王族の私的な宮である黄金宮から奥庭を通り抜けんとする人影が現れた。噂をすればなんとやらだ。


「連れてまいります! お義姉様はお隠れに!」


 紺のドレスを翻し、エレクシアラがガラス温室を飛び出す。

 しつこいほどに燦然と輝く銀髪の持ち主が手首を引かれてやって来たのはそれからすぐのことだった。






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