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龍の花嫁  作者: おはなし
間章
42/42

仲直り

学生時代のおはなし

目茶苦茶季節外れなので、軽い気持ちでお読みください


「仲直り……というのは、どうやればいいんだ」


 昼食の席で、若様の口から出てくるのには有り得ない単語を聞いた。

 誰もが固まる中、一番に意識を取り戻したのは泰澄である。彼は一つ空咳をして、至っていつも通りに口を開いた。


「つまり若様は『仲直り』をしなければならない相手がいらっしゃるということでございますか?」

「別に『しなければならない』という訳ではない。鞘巳(さやみ)嬢がしつこいからだ」


 不機嫌そうに顔をしかめ、味噌汁を行儀よく飲み込む。


 鞘巳嬢といえば……ああ、若様的に言うと『お節介なババア』という、あのご令嬢。どんなに邪険にされても何故か若様に付き纏い、日々彼を地獄に落とすように苛立たせているらしい。


 確か、この間のバレンタインデーには、若様に群がる並み居る女子たちを消し去り、ただ一人だけチョコを渡す(押し付ける)ことができたという。


 この時のバレンタインデーのは、彼女のお陰で実に楽に過ごさせていただいたものだ。毎年毎年、屋敷中にチョコレートの匂いが充満していて、気分が滅入るくらいだったものだし。


 しかし、若様は彼女のチョコレートさえ食べるのはおろか、愛の詰まったハートのチョコを見ることもなかったのだが、そこの詳しい話は割愛。


「若様は、その鞘巳家のご令嬢と仲直りをされたいので?」

「違う。……虎崎白夜だ」

「…………ほう」


 驚いた。


「なんだその顔は」


 随分呆けた顔をしていたようだ。若様は盛大に顔を顰められ、お茶を一息で飲み終わると席を立った。泰澄も連られて立ち上がり、その背中を追う。


「若様、仲直りとは、具体的にどのように喧嘩をされて」

「うるさい。もういい。俺には必要の無いことだった」

「左様で」


 腹立たしげにしながらも、あくまで足運びは優雅。子供のように癇癪を起こしてドタドタと音を鳴らしながら歩いたりはしないのだ。


 若様のお部屋から鞄とジャケット、仕事用のノートパソコンなどを取り、先に車に乗っていた彼にそれを渡す。


「こちらが今日までに決済するものです。こちらの資料は覚えていただいた後、金曜のプレゼンでお使い下さい」

「わかった。……泰澄」

「はい」

「余計なことは詮索するなよ」


 資料に目を落としたまま、こちらも見ずに告げる若様に微笑みかけ、泰澄は恭しく頭を下げた。


「かしこまりました」






「俺は遂に嫌われたかもしれない」

「……」


 どんよりとした空気の、どんよりとした声で、鬱陶しい言葉たちと、激しく落ちた肩に、沙紀はまたうんざりした顔をしながらも無言を貫いた。


「なあってば、沙紀」


 肩を揺すって気を引こうとする男に、いい加減切れそうだ。彼女も懐の広い方ではない。昨日の夕方から昼休みの今に掛けて、男―――虎崎白夜はいつまで経ってもウザイだけだった。


 成長のせの時もない、ただただしつこくうざったるいこの男のために、自分の堪忍袋を何度千切られたかわからない。 


 しばらくすれば忘れるだろう、飽きるだろう、諦めるだろう……それらの予想(のぞみ)が果たされたことは一度もない。


 というのも、彼が彼女の理解の及ばないくらい、頑固でしつこく、根に持つ男であるからなのだが。


 しかしそんなことは、彼女にだってわかっていたことだ。


 何度目かの「なあ沙紀」で、彼女は読んでいた本をバタンと閉じた。近くの埃が舞うほどのその威力に対し、虎崎白夜は慣れているのか、「やっと話聞いてくれる」と喜ぶだけ。


「なぁ、どうしたら許してくれると思う? 今回は怒らせた内容が内容だし、謝らなければとは思うんだけどさぁ、でもあっちもあっちで俺を怒らせただろ? ってことは俺は待つべきか? だけどさ、あいつって喧嘩して仲直りってのをしたことがなさそうだもんなぁ。時間が解決するっていうのも信用出来ないから、やっぱり俺が謝るべきか? なあ、どう思う? 沙紀」


「……死ねってくらいどうでもいい」


 盛大に顔を顰め、肌に感じる程の冷気を漂わせ、彼女は言った。

 それに男も口をへの字に曲げて、不満を募る。


「お前は本当に冷たいな。恋人がこんなに困ってるっていうのに!!」

「きもい。()ね死ね。あんたに割いてる時間が甘ったるいドラマ見る時間より勿体ない。さっさとあたしの前から消え失せなさい。そしてさっさと謝って帰れよ、勘違い男」


「やっと喋ったな、沙紀」


 ニタァァと気味悪く笑う白夜の真ん中分けされ開いた額に、頭突きをかました沙紀は、数秒後にはこれまでの事を全てなかったことにして、すっきりした顔で教室に戻って行った。

 一人取り残された男は、額をさすりながら笑った。


「かわいいなぁ、もう」





 *その後*



「ん!」

「……なんだ」

「仲直りしてやるから、機嫌直せよ」


「  」(・ ・)


「ちょ、アイアンクローはマジ勘弁!!」


「往ね、死ね」


「沙紀と同じこと言ってんじゃねーよ!! 従兄弟の血かよ!?」


「血脈でお前が嫌いなわけだ」


「それ言う!? あああああああいぃぃぃいいいたあああああああああああっっっ!?」






「お前が言わなければよかったんだ」


「だって、鞘巳嬢があんまりにもかわいそうで。お前のためにチョコを一生懸命手作りして、ライバルたちを蹴落として、がんばって渡し(おしつけ)て、その後何回も何回も感想聞くのにウザがられて、挙句お前が食べてないって俺が伝えて知ったときのあの顔!!」


「ああ、お前にそっくりだったな。沙紀に最高級のクッキーをあげて、あいつの親が食ってた時の」


「人のトラウマを刺激してんじゃねーよ!!」


「お前のせいで、鞘巳嬢が余計にしつこくなった。お前みたいに」


「そこは許せねぇよ!?」


「黙れ勘違い男」


「そこもかよ!」







お久しぶりです

若い彼等を書いてみました

白夜は沙紀の前だと気持ち悪いです

彼女はとても形容し難い顔をするので難しいです( ˘•ω•˘ )


2章の作業、全然進んでません!

もう訳ありません頑張ります!!

(高文祭が終わったら)


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